第22話 レオン・ベルツ

過ぎる既視感に原作知識を思い返す。そして、ふっと目の前の男の子と、ゲーム画面が被る。コイツ、どこかで見たことあると思ったら、ヒロインに悪役令嬢フローラの悪行の証拠を持ってくるモブか!


そうとわかれば、今の彼がナニをしたわけでもないが、思わずじっくりと見てしまう。馬車から降りて同じ高さに立てば、レオンは私より背が高い。ゲーム設定を思い返せば、1つか2つ年上だったはずだ。


ふーん。と、つれない返事をしたくなる。


成長したらラングレー領で暗躍していた狐っぽいモブとしてヒロインに証拠を手渡し、崩壊していくラングレー家を見てオスカーと同じように笑っていた類の男だ。

要は私がやることとして、こいつをせめて敵にしないぐらいに攻略しなければいけない。ヒロインに無駄な餌をやる必要は無いのだから。そんなものなくてもヒロインパワーでなんとかするでしょう。


レオンは沈黙した私の前でも気にする様子もなくにこやかに笑っている。子どものくせにどこに純情さを置いてきた。上っ面のキツネじみた微笑みは通常装備みたいだ。何をどう見ても、フローラが普通に「仲良くしましょう」と言って聞きそうな顔をしていない。


モブとして出てきたのは一瞬だが、オスカーとこいつの密告でフローラは失脚することを考えると相応に自分の価値観を持つ頑固者だとわかる。

ついでに、手段を選ばない合理主義だろうことは設定で知っている。


「フローラさま、初めまして。レオン・ベルツと申します」

「初めまして、レオンさん。しばらくお世話になります。王都があまりに物騒だから私も剣術を習おうと思って、後輩としてよろしくお願いいたします」

「へえ、稽古は加減しないよ?」

「望むところです。国境を護る公爵家の者が弱いなんて笑いものにしかなりませんからね」


貴族令嬢らしく高飛車な態度で言い切る。家の内では既にフローラと義母の不仲は知れてる。

その義母がまあ貴族の淑女としては平均的とはいえ、自分の身を護るのが覚束無いレベルに戦えない。

それの当てこすりだとでも思ってくれればいい。私は義母とは違うと主張する子どもで、虚勢をはるような可哀想な子だと認識してくれたらそれでいい。


私が本物のフローラならあの義母を憎んでてもおかしくないが、今は特段これといった感情は無い。あの義母は私に対しては帰ってきたのをガッカリしたぐらいで特に何もしてきていない上、物語にも大して噛んでこない小物だ。面倒臭いなぐらいになる。


私が他の攻略、作戦に役に立ってもらえるだけ有難い存在ともいえる。分かりやすい敵だからね。

こんなにも適当な憎む相手がいるなんて、キャラ設定が簡単でいい。私が細かく説明なんかしなくても勝手に解釈して同情して貰える。


「旦那さまよりフローラさまに護身術をお教えするように申し付けられております」

「エリアスから教えて貰えるの?それなら強くなれそうね。早速いい?」


練兵場に早速案内してくれると言うから、私の少ない荷物から木剣を探してこようとすると、エリアスにそれをとめられて、代わりに革の手袋を渡された。


触れると少しだけヒヤリとする。紋章と魔法陣が刻まれているから、なにかしらの魔道具なのだろう。見た目は、白に青の縁どりが入れられた美しい手袋だ。


「オスカー殿よりフローラさまの木剣での腕前は聞いております。魔力の使い方に入りましょう」


レオンから冷気を感じて振り返ると、得意気にニヤリと笑いながらレオンは氷の剣を握っていた。


「ラングレー領の騎士なら剣は自前で生成するものですよ」

「いいじゃない。面白い」


思わず素で笑った。

武器を自前の魔法で生成できるなんて護衛用の暗器を隠し持つ必要すらなくてなんて便利なんだろう。


それにこんなにも乙女ゲームらしくないことばかり続いたのだから、いっそ戦闘ゲームのあるあるが出てきても良いころだと思っていた。


「教えてくださる?練習場所はどこかしら」


領主の砦に領主、それに連なる人たちは不在だ。わざわざ挨拶しに行く必要も無い。練兵場へ案内してくれるレオンのあとを追った。

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