第2部 画策(幼年中期)

第21話 ラングレー領の我が家

ラングレー家は元々辺境伯で、公爵位と両方保持しているのであれば気がついておくべきだった。辺境、つまり国境沿いを任される公爵家なら軍事特化していて当然だった。それに気がついたのは父の腹心騎士エリアス・ベルツとともに領地の家についたときだった。


家というよりも、砦についたわ。


目の前の砦を呆然と見上げる。城下町ごと堀で護る大型の城は、馬車が平然と何台も行き交うような巨大な城門を備えていた。当然高さも桁違いに高い。乙女ゲームでイメージする城ではなく、完全にバトル物の城だ。


この城が、ヒロインが選ぶルートによっては戦火に呑まれて陥落するなんて。活気があり、笑顔が溢れているだけに痛ましい気持ちになる。


「どうしました?フローラさま」

「いや」


でも砦だとしたら城の造りがなにか違和感だった。あるべき当然のものがない、そんな違和感だ。


剣と氷の華が合わさったラングレーの紋章が掲げられた城門をくぐり抜けて、ようやくわかった。この城壁、砦の門のくせに、大砲がない。

ついでに、銃撃用の狭間もない。弓矢を通す細長の狭間があるのだから上から敵を射る考えはあるのに、銃撃用のがないということは銃がないのかもしれない。


まあ確かに、魔法で戦う魔法の世界なら魔法で攻撃する方がお金もかからないし、そういう発想が生まれてないのかもと違和感の正体がわかったことでホッと一心地つく。


「国境のラングレー領最大の都市ですからね」


言われてみれば、空き地で木剣を打ち合う子どもの姿があちらこちらで見える。何かあればすぐに戦火に巻き込まれる。

子どもですら、そのことを理解しながら住んでいる。国の護りとして存在している都市だった。


「もう着きます」


目の前の騎士に頷き返す。父が私を領地に送るにあたりお守りとして付けた騎士だ。いかにもラングレーらしい銀髪で氷魔法を使う鍛え上げられた騎士、☆恋でもでてきたエリアス・ベルツだ。


都市の外観からして想像がついていた領主の住まいは案の定中心部に位置する要塞本体だった。頑健な岩作りの建物は家と言うよりは指揮所といった方が正しそうだ。


頭痛が痛いと言いたくなる気持ちを抑え、内心でのみため息を吐く。私は乙女ゲームに来たんじゃなかったかな?戦闘系ファンタジーに足を突っ込んだ覚えはまったくないんだけど、どうしてこうなった。


そんなあーだこーだを言ったところで目の前の城が消えるわけもなく、父に忠実な騎士のエスコートで馬車を降りることになった。


「フローラ様のおかえりーー!」


やけに騒々しく、むさくるしく迎えられた。

私の帰りを告げるエリアスとて王都組の中ではかなりゴリゴリな筋肉を持つ大柄な男だ。


歓迎の意をあらわしてくれる父の臣下たちを見渡すと筋肉筋肉筋肉…。ラングレー領自慢の騎士たちがズラリと並び、勇壮さを誇示する。

まあそりゃそうか。国境の街を領主不在で預けるのだから、頑健なマッチョマンが沢山必要に違いない。


「おかえりなさいませ!フローラさま!!」


ゴリゴリのマッチョが一斉に頭を下げて歓迎の挨拶を述べてくれるのは圧巻の一言に尽きる。


「た、ただいま…」


クーデレ作戦上手くいくか不安だ。ちょっぴり不安に思うが、まあこのあとこの作戦が約立たず作戦変更したとしても、クーデレ作戦は父親を陥落するには役立てたから良しとしよう。


筋肉たちの間に、小さな人影。おそらくエリアスの息子、レオンだ。エリアスと全く同じ色合いで、それに少しキツそうな目元が父子で同じだ。


「フローラさま、父上、おかえりなさいませ」


ちょっと生意気そうな目が挑戦的に私を見上げていた。

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