第20話 家人を懐柔せよ

さてと、鏡に映るのは、銀髪のおかっぱ幼女だ。


令嬢らしかった長い髪の毛は誘拐事件のせいでさっぱり短くなってしまった。☆恋本編がはじまるときには長髪になるはずだから、これからは手入れをきちんとして伸ばしていこう。

マリエッタに着せられた服はドレスだが、子どもらしく動きやすいものだ。もちろん、ドレスなので比較的と制限はつくものの、これから演じる役目を考えればこれがぴったりだ。


自分の身を自分で守ろうとするいたいけな少女を演出するには十分。


騎士服などを着てしまうとフローラは顔立ちが中性的なために普通の男の子と大差なくなってしまう。凛々しい男の子がいじいじしてるのは気持ち悪い、同情を買うどころか不興をかう。

これから使用人たちの同情を買って味方を増やさないといけないのだから、かわいそうな女の子である方が都合がよい。


「戻りました。クロリスです」


私が修道士クロリスとしてなら文句無しの挨拶をすると、要は淑女らしいドレスの礼をしなかっただけだが、父は少しだけ困ったように笑った。子どもとの約束を破って申し訳なかったという気持ちが少しぐらいはあるのかもしれない。


「フローラ、約束を破って申し訳ないが、もうそれはお終いの時間だ」

「お約束よりずいぶん短いように思えました」

「そうか」

「ええ、近頃は物騒ですので、私は自分の身を自分で守らねばなりません」


少しツンとした子どもらしいワガママを言う子どもの方が可愛げがあるだろう。内容をかわいげなく言えば、約束より修道院で学んだ期間は短いし、戻された家では命を狙われそうだし、お前の危機管理能力はどうなってやがるといったところだろうか。


「修道院でも、襲撃にあったと聞く」

「ええ、おかげで私が魔法を使えることを知りました」

「犯人の姿は見たのか?」


白々しい。騎士が引っ捕らえて行ったなら顔どころか身元だって知っているに違いないのに、わざわざ聞いてくるか。私の頭脳レベルを確かめたいのか、それと、家に楯突くか否かを確かめているのだろうか。


舌打ちしたい気持ちを抑えて俯く。おっと、危ない危ない。素が出るところだった。まったく子どもは感情が表に出やすくて、こういう腹芸はやりにくい。


「顔ははっきりと覚えてません。不届き者は近場の騎士たちが捕らえてくれましたが、なにかわかりましたでしょうか。…アレは私が狙いでしょうか」

「いや、わからない。一旦は捕まえたが、逃げられたと聞いている」

「逃げた?あの子を狙ってきたやつを騎士が逃がしたんですか?」


皇子の身柄を狙った不届き者を逃がしたなんて失態過ぎるだろう。まあ、本当のところはラングレーで金を出して引き取ったとか?いや、でもラングレーとしては顔が割れてる下手人をわざわざ金を出して助けるには利益がない。


あんなに見た目といい魔力といい、わかりやすくラングレー一門の下手人を金をかけて救うことはラングレーの家名に不利益だ。


反対にいえば、それが利益な人の仕業かもしれない。


父上が犯人を知らないと言うのには利益がないことに気がついた。どんなにラングレーがしらを切ったとこで、氷魔法にあの見た目では暗黙の了解だ。知っているならどこどこ分家の誰々、本家の息はかかってないと言う方がエスケープゴートがあるから本家には捜査が来なくなる。


「お金を出して引き取ったところがあるのですね」

「なぜそう思う」

「ラングレーの家に汚名を着せることで得をする人がいるということですね。ニコレッタですか?教会ですか?」

「それを誰かに言ったか?」

「いいえ、お父様にだから聞いています」


ほら、私はあなたを信用して有用な情報を持ち帰れる可能性の高い息女ですよ。


皇后になる可能性のある令嬢に求められる条件は簡単だ。健康であること、魔力があること、従順であること。また可能なら愚鈍ではなく国及び家のために先んじて行動ができる聡明さがあればなお良い。


義母の息のかかっている妹弟より、私の方が父親にとっては有意義だろう?


それを証明できれば私は父という家の中の最高権力者のバックアップを受けることができる。既に夫婦でラングレー家の実権争いをしているのだから、父としても自分の影響力を皇族に持ちたいなら私がように画策する必要がある。


「なるほど。フローラ、少し領地に行かんか。近頃の王都は少し物騒だからな」


望んでいた内容を得られて、にっこりと笑ってみせた。フローラの記憶にある領地は自分の部屋と特産のフルーツぐらいしかないけど、今後の布石のために領地のほうは必ず見る必要がある。


「今なら特産のフルーツが美味しいころですかね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る