第15話 ヒーラー
魔力の使い過ぎで意識を失ってから数日後、往診から教会に戻ってきた医者に診てもらうことになった。
教会所属の光の癒しの力を持つ医者は町や村の往診で忙しくしているが、何日かに1回は教会に戻ってくる。☆恋本編でもマルクルートでそういった描写があったはずだ。
この教会に来てから、フローラ・ラングレー誘拐事件があったこともあり、これまでも何回か診てもらっているが、この修道院所属のヒーラーは穏やかないい医者だ。
「アスク先生、おかえりなさい」
「クロリス、大丈夫だったかい?」
「もう元気ですよ」
「そうか、子どもは元気がいい」
微笑むとアスク先生は往診用のカバンを置く。カシャンと瓶がぶつかり合う音が聞こえた。往診用カバンの中は瓶に入った薬品だらけで乱暴に扱えない上に重いという凄い代物だ。先日エルと一緒に試しに持とうとして怒られた。
光魔法の使い手であっても、すべての患者に魔法を使っていては治療が追いつかないため、投薬治療と魔法の治療を使い分けるんだとか。
そこで「割れたら怪我して危ない」と諭してくるあたりで彼の人の良さがわかる。普通なら薬は貴重なんだぞ!と怒る。
私なら絶対そっちの理由で怒る自信がある。
「うん、もう大丈夫そうだね。怠さとかはない?」
「ないです」
「そう。最近はどう?」
「うん、まあまあ」
魔力持ち、それもちょっとではなくガッツリなことを暴露してから修道院で魔力の使い方を習っている。聖騎士という魔法を使う戦闘職や、目の前のアスク先生のように魔法を使った医者もいる環境なら学ぶのに不足はない。
こんな力もあったのね、と知らないことが次々とわかる魔力の使い方の講座は今のところすごく楽しい。
「子どもは感情の起伏に魔力が呼応しやすいから、気をつけるんだよ」
「よりにもよって攻撃的な魔力ですからね。マルクみたいな癒しの魔力ならなんの問題もなかったのに」
「彼は彼で大変なことがたくさんあると思うよ」
「そうね」
マルクの癒しの力に目をつけた悪い奴らに利用される未来を知っている。この教会の中も一枚岩ではなく一部は真っ黒だ。
まあそうでなかったらわざわざ皇族に輿入れする枢機卿の娘がでるはずがないんだけど。その息子がエレンで、修道院に匿われているあたりで色々とお察しだ。
あえてそのままにしている私の手のひらの切り傷に軟膏を塗りながらアスク先生は語る。癒しの力で治して貰ってしまうと手のひらが丈夫にならない。
自然治癒で治していかないといつまで経っても木剣を振るたびに手を切ってしまうため、マルクに治してもらってないところをアスク先生は気がついてくれたみたいだ。
「聞いたよ。君は剣が強いんだってね」
「力がなければ奪われますから」
早く力をつけないと。
焦燥感さえ覚える事実に歯噛みする。
☆恋が始まってしまえば、ヒロインが誰かとイチャつくだけで私はあっという間に悪役扱い。どのルートを辿ってもすぐに放逐、放逐ならまだしも死刑もしくはそれに近い扱いを受けることになる。
今ある貴族としての誇りや財産そして命が、ヒロインが誰かとイチャつくだけで私から奪われる。理不尽だが☆恋はそういう物語で、私はその物語の中の1人になってしまっている。
それを回避するには実力を付けて、恩を売って、契約を結んで。人の情に頼らなくてもなんとかできるように、理性があればどうにか回避できるように。
私は未来の一端を知っていることを最大に活用しないといけない。
「信じられないのは、とても苦しいことだね」
「…でも自分の知識と力は私を裏切りませんから」
軟膏を塗った手にガーゼをまいてもらいながら、エルと契約したときについた手首の契約模様を眺めた。
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