第14話 ともだち
目が覚めたら見慣れた修道院の天井が見えた。波打つような模様を数えて少しだけ現実逃避してみたが、スヤスヤと安らかな寝息がその現実逃避を妨害する。
私のすぐ側にエルがいた。
そういえば乙女ゲームの定番だなと、今の状況に納得する。とはいえ、本来であれば私がエルの看病をして、枕元で眠ってないといけないと思うのだけど。
なぜかエルが私の手を握りしめて、布団の端の方で心地よさそうに寝ている。
なんでエルはこんな狭いシングルベッドで同衾してんだ。子どもだからそんなに狭さは感じないが、わざわざここで寝なくても良かったのに。
それでも、攻略対象であるだけあって、眼前にあるエルの顔は驚くほど整っていて、愛らしいの一言に尽きる。神様は可愛いの単語をエルに与えたのかもしれない。
「んー…」
試しにふくふくの頬っぺを突っついてみたが起きそうにない。窓を見遣れば昼間、それも太陽の位置から午前中だろうことがわかる。
まああんなことがあったし、流石に修道院の勉強もなしだよね。
それにしても魔法ね。
確かにゲームでもフローラは魔道具介して魔法を使っていた。
ラングレー家なら確かに氷だろうけど、あの範囲を凍らせる魔力をこの年齢で持ってるのはちょっと不味い。強い魔力の貴族を寄り集めて作っているのが皇族なのだから。
これだと予定通り、私がハリスの婚約者ルートに入ってしまう。それでヒロインがハリスルートに入ってきたら、最悪過ぎる。
私が婚約者取らないでよ!と可愛い理由で、彼女を苛めなくてもラングレー家の威信にかけてヒロインを潰しにかかるに違いない。
「困ったな。利用されたくなかったけど、多分無理だろうなあ」
「誰にだ?」
「エル!?起こした?」
「いや、ちょうど目が覚めた」
ぱっちりとした目を私に合わせながらエルが迫ってくる。
「なあ、クロリス、ラングレーだろ?」
「まあ、アレを見たら分かるよね」
あれだけ強い氷の魔力を保持する子どもなんて、その辺に転がってない。
氷の魔力を持つ家系はラングレー家を主に幾つか。その中でも1番強いのはやはりラングレー家だ。
「でもクロリスは俺を守ってくれた。ありがとう」
「今の修道院にいるクロリスはラングレーから切り離された神の下僕だからね。博愛主義ってこと」
「そんなんで生命はれるかよ。これ」
「なに?鈴?」
エルがポケットから小さなクローバーの絵が書かれた鈴をくれた。この鈴は、倒れる間際に聞いた鈴と同じ音だ。今も手のひらで転がせば、涼やかなチリリリという音が鳴る。
「あいつらの前に、ほらガキに絡まれたときに機転利かせて助けてくれただろ。
だから、そのお礼に小さくて絵が書いてあってキラキラしてるものをあげようと思ったんだ」
「ありがとう」
そのうち子どもの頃の淡い思い出に消えるだろう可愛い鈴を眺める。お祭りで売るような少し安っぽい作り、鈴についている紐も少しほつれてる。
「クロリス、クロリスの家がどうであろうと友だちだ。なんかあれば頼ってきてほしい。
俺はまだまだガキでなんもできないけど、でも、エレンだ」
本気の証と言わんばかりに、目を逸らさず真っ直ぐに私を見るエルに困って苦笑いを浮かべる。保身に走っただけで、そこまで感謝されるとこちらがむず痒いような気持ちになる。
エレンはわがままで少し乱暴だが、それでも懐に入れた友だちにはとことん甘い。そういうキャラだった。その懐に、入れたのだろうか。今クロリスとして入ったところで、ストーリーに影響できるとは思えないけど。
そんな情に流されるのは、クロリスであるうちだけだから。そう、自分に言い聞かせる。折角何かあって人生2回目なんだから、もう少しぐらい「今」を楽しんでもいいよね。
「私も、エルを友だちと思ってるよ。
もちろん、マルクもね。おはよう、マルク」
扉を開けている途中だったマルクにも笑いかけた。
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