第13話 おまもり
自分たちよりも大柄な子どもに絡まれてヒヤヒヤしたせいか、胃が痛い。
そのせいか、お祭り定番のすぐに食べるような鳥串やクレープといったものに惹かれずに、キラキラした金太郎飴を購入した。
フルーツの香りがする金太郎飴は小さな瓶に詰められていて、林檎、オレンジ、メロンの模様が入っていて見た目も可愛らしい。マルクは同じお店で金平糖を一緒に買った。
「お星様がたくさんだね」
メルヘンな感想を貰ったけど、そういえばここはメルヘンな乙女ゲームの世界で彼らはロマンスをお届けする攻略対象だったと思い出した。それならメルヘンな感想を言うに違いない。奇妙な納得を得ながら、手元の飴をもてあそぶ。私は瓶入りの飴を買ったら貰ったコインがなくなったので、それで終了だ。
コイン入れがペシャンコになったおかげでコイン寄越せと言うやつもいないだろうし、これでもう安泰だ。
「クロリス、飴が好きなのか?」
「え?あ、うん。可愛いものが好きかな」
「その飴がかわいいのか?」
「うん。小さくてキラキラしてて、それに絵が描いてある」
まだなにも買わずに悩んでいるエルが私の手元を見て、「可愛い」という言葉を復唱している。
クロリスは男の子設定だし、可愛いものが好きとかはよくなかっただろうか。そう思って、少し考えたがあきらめた。
余計なところで嘘をついているとあとからばれる確率が上がる上、既に回答してしまった。ここで慌てて誤魔化す方がおかしい。
「わかった。ちょっと待ってろ」
「え?ちょっと、エル!」
「エル!1人じゃダメだよ!」
私たち年少組は黒白銀で、特に白いマルクが目立つから騎士たちはそれを目標として護衛している。エルの髪の毛は黒、黒髪の人は多くて小さなエルが人混みに混じったら彼らも追えない。
何かあったらどうするつもりだ。
神の家にいるからとはいえ、この国で身分は重要だ。あいつはマルクと私を殺す気か。
マルクは平民、私は貴族、エレンは言わずともがな皇族だ。身分差は歴然としている。それも私はシャナクから念押しをされている。これで皇族が傷つけられた場合は罰せられるのは護衛騎士だけではない。まったく何を思いついたのか知らないけど、余計なことをしてくれる!
「クロリス?」
「マルク、離れないで。エルを追うよ」
「クロリス?なんか寒いよ」
「え?」
マルクの髪の毛が奇妙に浮かび上がる。先ほどまで暖かい気候だったはずなのに、吐き出される息が白い。
遠くで知識として知っていたことが現状と繋がり出す。ゲーム内で近くで強力な魔法が行使されるときの予兆として、描写されていたのがこれか!つまり、エレンが狙われてる。
ふざけんなよ、余計なところで、本編とまったく関係ない原作補正のないところで殺されたり、没落したりしてたまるか!
「エル!!戻れ!!」
「目標を捕まえろ!」
私が叫ぶとほぼ同時に異なる言葉が被った。
私と同じ色合いの銀髪の男が私を一瞥した。私とは異なるくすんだ深いグリーンの目が忌々しそうに細められる。
「マルク!行くよ!」
こんなところで私の血縁に繋がりそうな見た目をした男がエルを殺したり、さらったりしたら、私もしくはラングレー家のせいにされる。
いや、あの男の見目からして間違いなくラングレー家は噛んでそうだけど、こんな物語が始まる前に死んでたまるか。なんとしても近くで奮闘する姿を見せつけて、無関係と判断が貰えたらラッキー、情状酌量の余地ありとなれば御の字。今は足掻くしかない。
「来るな!クロリス!マルク!」
「そのお綺麗な顔に傷を」
「私は怒ってる」
マルクとはぐれたものの、なんとか人の足元をくぐり抜けてエルがもがいているところまでたどり着いた。
エルを捕らえる大人が1人と、さっき私と目が合った男がいる。全力で走って追いついたけど、ただの子どもの私ができることなんてほぼない。
でも時間さえ稼げば、エルの護衛騎士がくる。
それまで足止めできれば十分なはずだ。
「怒ってどうする?」
「わたしは」
吐く度に凍りつく息でようやく気がついた。これは襲撃を受ける直前の魔力とは別の人が引き起こしている。周囲を見ても近くに犯人以外に銀髪は見当たらない。そうすれば、答えは一つだ。
「私は貴族、どんなに一族から疎まれてもこの血は貴族のものだ」
「これはこれは、大した忠誠心だ」
「クロリスよせ!お前じゃ」
「武器も持たずいい忠誠心だ。皇子もいい臣下を持ったな」
せせら笑いながら逃げようとする2人に向かって、手を差し出した。学んだことも、使ったことも無い力に頼るなんて最悪だ。
以前手にしていた物理的な力に固執するあまり、ここが前と違う理の世界だとすっかり忘れていた。
「この子どもは殺せ!」
「やめろ!!逃げろ、クロリス!!」
氷でできた剣を握って歩いてくる男を無視して、地面に手をつくと、私を中心に真っ白な円が広がる。
魔力を持つ子どもが感情を昂らせると稀に道具なしに魔法が発動することがあると聞いていた。
道具を介さない魔法は乱暴で、危険。そして制御もできないから使った本人も危ないと聞くけど、エレンを守るために全力を尽くしたクロリスという図を作るならこれ以上のことはない。
「まさか私ができるとは、思わなかった」
息を吐き出すと、凍りつく。これほどの影響力ともなれば詳細を見ていない人でも、貴族の子どもが原因だとわかるほどだ。
私が作り出した氷の空間で、犯人の男たちは初めて氷遊びを覚えた子どものように転がった。その転がってる間に、人混みをかき分けて駆けつけられた騎士にあえなく捕獲された。襲撃してきた割に技能は大してなかったらしい。それがわかってホッとした。
「クロリス!」
「っ」
騎士に助けられたエルが私を呼んだような気がして顔を上げたが、視界がぐらりと歪む。魔力を初めて発動したから、そのせいか。
近くから、鈴の音が聞こえた気がした。
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