第12話 そんなお祭りの定番は認めない

私たちの保護者代わりの修道士から小さな袋を手渡された。

中身を見れば、赤茶けたコイン、そう、お金が入っている。貨幣を使ったことがないから、これが多いのか少ないのかはよくわからない。



「いいかい?今日のお小遣いだ。自分のお小遣いの範囲で楽しんできなさい」



そんな忠告とともに賑やかな街に年少組で繰り出すことになった。


ここには修道士服の人がたくさんいる。

どこに行っても誰かが見ているからこそ5歳児3人でまったり回ることができる。

まあそれに流石にエルには護衛がついているだろう。遠くからこちらをチラチラ見ている騎士、彼らが仕事中に違いない。



「ねえねえ、飴美味しそうだよ」

「綺麗だね」

「パンや肉もあるぞ!」



お祭りを回るとなると急に年相応なはしゃぎ方をする二人の後について歩く。

瓶に入れられた金太郎飴や金平糖、パンや串焼きの肉等も売られている。


色とりどりの布が風にはためいてその景色を彩る。



「おい!ガキのくせに生意気だぞ」



エルではない偉そうな声が聞こえて前を見ると、ちょうどエルが啖呵切ってるところだった。



「誰が生意気だ、俺の前に立つ方が生意気だ」



余計な争いが勃発していた。

いや確かに、乙女ゲームのお祭りではヒロインが適当なチンピラに絡まれてそこを間一髪で好感度が高い攻略キャラが助けてくれるというイベントが良くある。

でも攻略キャラが率先して絡まれてる。そして絡み返してる。


ゲームと現実には大きな溝がある。


ふかくふかーくため息をついて、回れ右をして見なかったことにしたいが、世の中そう上手くはない。



「ガキのくせにお金を持って、偉そうなんだよ」



どっちがだ。


心の中で思わずツッコミを入れるが、相手はエルより背丈が高い。だが子どもだ。

シャナクと年齢は同じぐらいだろうか。

どっちにしろガキと内心では口汚く罵るが、状況が悪化することに違いないのでその言葉は飲み込んだ。


卑怯なことに背後から私に手を伸ばしていた不届き者がいた。

そのままお金を取られるのも殴られるのも不服で、避けたらそのまま前方で鼻を垂らしているちょっと年上の子どもに突っ込んで行った。



「チビ!なにしやがる!」

「後ろの子がどうしても私が可愛いからあなたに立ち向かう気になったって」

「本当か!?裏切るつもりか!」



勝手に仲間内でぎゃあぎゃあ騒ぎ出した彼らを横目にエルとマルクの手を引いた。

エルは悔しそうに相手を睨みつけていたが、流石に物理的な喧嘩をするのは賢明でないとわかってくれたみたいで大人しく従ってくれた。


横目でこっちに駆け出していたのだろうけど、人混みに阻まれている騎士の姿を見掛けた気がした。


あなたたちの皇子様トラブルメーカーきちんと護ってよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る