第12話 そんなお祭りの定番は認めない

そうこうして微々たるものだが、お店の売上に……もとい、教会の寄進に貢献した私たちに小さな袋が下げ渡された。私たちの保護者代わりの修道士がニコニコ微笑ましげに見ている中、袋を確認すれば赤茶けたコイン、そう、お金が入っていた。

この世界に来てから私としても、フローラとしても自分で貨幣を使ったことがないから、これが多いのか少ないのかはよくわからない。なんとなく子どもに渡しているし、お祭りで使い切る想定のようだから市井の子供が持つお小遣いぐらいと想像がつくぐらいだ。


「いいかい?今日のお小遣いだ。自分のお小遣いの範囲で楽しんできなさい」


そんな忠告とともに賑やかな街へ年少組3人が送り出された。


なるほど、庶民の金銭感覚とお祭りの醍醐味を一緒に経験できる良い手段だ。


それに、この聖女フローラ祭には修道士服の人がたくさんいる。どこに行っても誰かが見ているからこそ年少組3人でまったり回ることができる。

まあそれに流石にエルには護衛がついているだろう。遠くからこちらをチラチラ見ている騎士、彼らが仕事中に違いない。


「ねえねえ、飴美味しそうだよ」

「綺麗だね」

「パンや肉もあるぞ!」


お祭りを回るとなると急に年相応なはしゃぎ方をする二人の後について歩く。瓶に入れられた金太郎飴や金平糖、パンや串焼きの肉等も売られている。そこからこの国の裕福さが透けて見えて、少しだけホッとする。


見上げれば、通りを跨ぐように飾られた色とりどりの布が風にはためいてその景色を彩る。


「おい!ガキのくせに生意気だぞ」


ほんの少ししか目を離していないのにどうしてそうトラブルがやってくるのか。エルではない偉そうな声が聞こえて前を見ると、ちょうどエルが啖呵切ってるところだった。


「誰が生意気だ、俺の前に立つ方が生意気だ」


いや、まあそうなんだけど。皇子の前を遮るように立つ不届き者という理論は確かにそうなんだけど、それはエルがきちんと皇子をしているときだけと限定される。このお忍びのような修道院見習いの状態でその理論は通らない。何をどう見ても、余計な争いが勃発していた。


いや確かに、乙女ゲームのお祭りではヒロインが適当なチンピラに絡まれてそこを間一髪で好感度が高い攻略キャラが助けてくれるというイベントが良くある。☆恋にもあった。

でも、今回は攻略キャラが率先して絡まれてる。そして絡み返してる。


ゲームと現実には大きな溝がある。


ふかくふかーくため息をついて、回れ右をして見なかったことにしたいが、世の中そう上手くはない。


「ガキのくせにお金を持って、偉そうなんだよ」


修道服姿の子どもに絡むなんて教育が行き届いていないにも程がある。修道院預りの子どもは教会に寄進ができる良い家の子ども、もしくは孤児。でもエルとマルクは明らかに前者。髪の輝きと肌の手入れ加減が明らかに平民じゃない。全く偉そうなのはどっちがだって話だ。


心の中で思わずツッコミを入れるが、相手はエルより背丈が高い。シャナクと年齢は同じぐらいだろうか。

どっちにしろガキと内心では口汚く罵るが、状況が悪化することに違いないのでその言葉は飲み込んだ。


卑怯なことに背後から私に手を伸ばしていた不届き者がいた。

そのままお金を取られるのも殴られるのも不服で、避けたらそのまま前方の年上の子どもに突っ込んで行った。


「チビ!なにしやがる!」

「後ろの子がどうしても私が可愛いからあなたに立ち向かう気になったって」

「本当か!?裏切るつもりか!」


勝手に仲間内でぎゃあぎゃあ騒ぎ出した彼らを横目にエルとマルクの手を引いた。

エルは悔しそうに相手を睨みつけていたが、流石に物理的な喧嘩をするのは賢明でないとわかってくれたみたいで大人しく従ってくれた。


横目でこっちに駆け出していたのだろうけど、人混みに阻まれている騎士の姿を見掛けた気がした。


あなたたちの皇子様トラブルメーカーきちんと護ってよね。というか、子ども同士のトラブルじゃなかったらどうするつもりだったんだか。はぁとため息一つ零した。

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