第7話 修道院は天使の集いですか

神を大して信じていない私でも建物の造形はわかる。思わず感嘆のため息をついてしまうほどに美しい修道院だ。

女神を模した像は清廉さと優しさが同居していて美しい。確かにこれが女神様なのだろうと頷く。その女神がいらっしゃる楽園を模したステンドグラスが、聖堂の白い床に仮初の楽園を描いていた。


その楽園に膝をつき、形式通りに女神像に両手を合わせて祈りをささげた。


幸福幸福幸福幸福幸福幸福…。


幸福を願うなら何時間だって足りないだろうけれど、祈る以外に努力をしないことには意味がない。

祈るだけで救われるならこの世から病気はなくなるし、戦争は起こらない。よって、現実はそんなに甘くない。行動あるのみ。


そう思って立ち上がってあたりを見渡したところで、顔が引きつりそうになった。


「ねえ、きみ、新入り?」

「こら、だめだよ、エル」


黒髪の美童と白髪の美童が、私のことを見ていた。場所が場所なだけに天使のようにも思えるが、私はフランクさんのおかげで天国に足は突っ込まなかった。つまり、彼らは現実だ。


「はい、初めまして。クロリスといいます」

「そっか。俺はエル、よろしく」

「僕はマルク」


これだけの美童が何人もいてたまるかと思ったのは当然だった。


☆恋の攻略対象のうちの一人、神官マルク。随分と出会うの早かったな。もう一人の美童は黒髪。呼び方がエルということは、こちらも☆恋の攻略対象。幼少期は権力争いから身を守るために世を忍んでいたという設定の第3皇子だろうか。

ヒロインとぎくしゃくしたくないし、できれば攻略メンズとは関わりたくはないけれど、修道院にいる間はラングレーを名乗らない。髪が短い間はクロリスと男性名を名乗るつもりだし、何を言いたいかと言えば、今なら攻略対象とも関わりを持っても問題ないだろう。


「1年だけど、よろしくお願いします。先輩」

「奇遇だね、俺も2年なんだ」

「ふふ、本当に先輩だ」


そう話しているうちに指導役の修道士が現れ、新たな生活が始まることになった。


朝起きて、掃除をして、ご飯を食べて、勉強をして、ご飯を食べて、体を動かして、ご飯を食べて、祈りをささげて眠る。

素晴らしく健康的で実りのある生活時間割を聞いて、修道士に微笑んだ。


「クロリス、きみのことは少しだけ聞いていてね。週に一回はお医者様に見てもらうことになっているから」

「はい、お気遣いありがとうございます」


少ない荷物をもって、修道服とかはこちらで用意してもらっているから下着類等だけが入っている、特別に個室にしてくれた部屋まで案内をしてもらった。


「あなたに御加護があらんことを」

「天使が微笑まれますように」


決まり文句を返すと案内をしてくれた修道士は部屋をでていったのだが、すぐに来客があった。世を忍ぶ仮の姿の彼らも、修道院では確かに自由にしているみたいだ。


「クロリス、クロリス、クロリスも貴族?」

「エル、だめだよ、聞いたら」

「神の御許である修道院に身分はないと聞いてますよ、エル」

「ちぇ、かったい」

「しーっ」


二人の戯れは攻略キャラ同士ということもあって、何をしていてもスチルのようだ。見ていてまぶしい。目の保養だが、まぶしくてちょっと目に毒だ。


「クロリスの髪、綺麗な銀色だね」

「マルクこそ、神の愛した色で美しいよ」


なに、この子達、デフォルトで人を口説きにくるとか。


どうなってんだ。

どういう教育したらそうなるの。


明日からを想像して漏れ出そうなため息の代わりに微妙な笑顔を浮かべた。

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