第4話 乙女ゲームなのに出会うのは美幼女

間違いなくこの子、ヒロインだわ。


特にまだ私になにをしたわけでもないけど、今後の人生を大きく狂わせてくる元凶だと思うと複雑な気持ちになる。

でもすごくかわいい。

ゆるくカーブした髪の毛はゲームが始まるときと異なり短くボブカットだが、ぱっちりした目と愛らしい唇が女の子を主張している。

手入れをしているわけでもないと思うが、桃色のほっぺは健康的に色づいている。



「はじめまして、お友達になってくれる?」

「え、うん!」



フランクさんが私に出した条件は二つ、女の子であることを隠すこと。

そして、シャーロットのことはもし親が捕まることがあっても密告しないこと。


おかげさまで来ていたドレスからフランクさんが持ってきた簡素な服に着替えている。

長い髪の毛は帽子の中にまとめた。



「私はクロリス、きみは?」

「シャーロット!シャムってみんな呼ぶの」

「そう、シャムはなにして遊ぶのが好き?」

「シャムはね、お花で遊ぶのが好き」



名前はフローラ・クロリス・ラングレーで、ミドルネームを名乗ったにすぎない。

嘘はついていない。


この国のしきたりでミドルネームは女性であれば男性名、男性であれば女性名を付けるのがしきたりだ。

だから子どもが生まれるときに親は男女両方の名前を考える。


シャーロットが花遊び、花冠を作るのが好きというのを聞いて私が閉じ込められていた小屋の近くにある花畑にきていた。

シロツメクサならどこでも生えている、それに花遊びにぴったりだ。


フランクさん以外の年上家族は、シャーロット、親の方だ、は家で風邪を引いたフランクさんの弟の看病。

男二人は身代金関係で動いているらしい。


今、私とシャーロットを見張っているのはフランクさんだけ、これならなんとかなる。



「クロリス、クロリスはきぞくさまなの?」

「さあ、私の口からは答えられない。ほら、どうかな、シャーロット」

「わあ、綺麗。すごい」



フローラとしては遊んだことなくても前の自分はこういう遊びをしたことがある。

あっという間に一つの花冠を作って、シャーロットにかぶせると気恥ずかしそうにシャーロットは笑った。



「あ、クロリス、おてて、ケガしてるよ」

「え?あぁ、大丈夫」

「ううん、いたいのいたいのとんでけー!」

「ありがとう」



何も知らないこのヒロインをだましてしまうのはとても気が引ける良心もあるが、そもそも誘拐している両親が悪い。

鎖でついた痕を怪我と言って悲しんでくれる子どもに罪はない。


いくつか指輪や腕輪サイズの花冠を作成して、その中に侯爵家のボタンをいくつか編み込んだ。


服についていて、取れていても不自然ではない内側についている予備のボタン2つと、袖口のボタンが左右1つずつ、計4つ。


一つでも気が付く人の手に渡ればいい。


シャーロットが持ってきたハンカチにくるんで花束にするとシャーロットは嬉しそうに受け取ってくれた。

顔を近づけて「内緒だよ」とささやいてシャーロットに刺しゅうのついたハンカチを手渡す。



「私と出会ったのも、遊んだのも内緒」

「え?遊んだこと内緒なの?」

「うん、ごめんね、お屋敷を抜けていることが知られたら私が怒られてしまうんだ」

「そっか、シャム内緒にするね」


そこだけフランクさんにも聞こえるように大きな声で言った。


その後、再度シャーロットと花をめでて、フランクさんが言っていた約束の時間まで遊んだ。



「いい?シャーロット」

「どうしたの?クロリス」

「この立派なティアラはシャーロットが大事にするといい、でも、花束は」

「そうね!お仕事頑張ってる衛兵さんにあげる」

「そう、よくできました」



フランクさんと話していて、町の入り口に衛兵が立っている比較的王都に近い町だと知った。

私を連れて関所をいくつも通れないだろうという読みは正しかった。


シャーロットが普段遊びに行く際に挨拶をするぐらい衛兵は見慣れているものらしかった。

そして、この国では防衛のために働く兵士に対して市民が物を上げるのは普通だ。

このかわいらしい幼女が花束をあげるといっても不自然はない。


シャーロットを残して小屋に戻される私に無邪気にシャーロットは手を振ってくれた。



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