第4話 乙女ゲームなのに出会うのは美幼女

間違いなくこの子、ヒロインだわ。

特にこの子がまだ私になにをしたわけでもないけど、今後の人生を大きく狂わせてくる元凶だと思うと複雑な気持ちになる。


でもすごくかわいい。

ゆるくカーブした髪の毛はゲームが始まるときと異なり短くボブカットだが、ぱっちりした目と愛らしい唇が女の子を主張している。

平民とのことだから特にお金をかけて手入れをしているわけでもないと思うが、桃色のほっぺは健康的に色づいている。


「はじめまして、一緒に遊んでくれる?」

「え、うん!」


フランクさんが私に出した条件は二つ、女の子であることを隠すこと。そして、もし親が捕まることがあっても妹シャーロットのことを密告しないこと。


おかげさまで来ていたドレスからフランクさんが持ってきた簡素な服に着替えている。性別を露骨に表す長い髪の毛は帽子の中にまとめた。


「私はクロリス、きみは?」

「シャーロット!シャムってみんな呼ぶの」


☆恋の世界では子どもが生まれるとわかったときに女性名と男性名の2つの名前を考える。そして生まれた子どもの性別に合わせて名前の順番を決める。だから私の名前はフローラ・クロリス・ラングレーで、今はミドルネームを名乗ったにすぎない。だから嘘はついていない。


「そう、シャムはなにして遊ぶのが好き?」

「シャムはね、お花で遊ぶのが好き」


シャーロットが花遊び、花冠を作るのが好きというのを聞いて、フランクさん同伴で近くにある花畑にきていた。

シロツメクサならどこでも生えている、それに丈夫だから多少引っこ抜かれて編まれたぐらいではさほど萎れない。花遊びにぴったりだ。


フランクさん以外の犯人グループ、シャーロット、親の方だ、は家で風邪を引いたフランクさんの弟の看病。その他の男二人は身代金関係で動いているらしい。


今、私とシャーロットを見張っているのはフランクさんだけ、これならなんとかなる。花畑を見渡して、ご令嬢らしくないニンマリとした笑みを誤魔化すために緩やかに首を傾げて微笑む。


「クロリス、クロリスはきぞくさまなの?」

「さあね、ほら、どうかな、シャーロット」

「わあ、綺麗。すごい」


フローラとしては遊んだことなくても前の自分はこういう遊びをしたことがある。

足元に咲いていたシロツメクサを使って一つの花冠を作って、シャーロットにかぶせると気恥ずかしそうにシャーロットは笑った。


「あ、クロリス、おてて、ケガしてるよ」

「え?あぁ、大丈夫」

「ううん、いたいのいたいのとんでけー!」

「ありがとう」


何も知らないこのヒロインをだましてしまうのはとても気が引ける。そんなことを考えられる良心もあるが、そもそもフローラのことを誘拐している両親が悪い。

鎖でついた痕を怪我と言って悲しんでくれる子どもに罪はないとわかっていても、私も生き残るために彼女を利用させてもらう。


いくつか指輪や腕輪サイズの花冠を作成して、その中に侯爵家のボタンをいくつか編み込んだ。

取れていてもすぐに気が付かれない内側についている予備のボタン2つと、袖口のボタンが左右1つずつ、計4つ。


一つでも気が付く人の手に渡ればいい。


シャーロットが持ってきたハンカチにくるんで花束にするとシャーロットは嬉しそうに受け取ってくれた。

顔を近づけて「内緒だよ」とささやいてシャーロットに家紋の刺しゅうのついたハンカチを手渡す。


「私と出会ったのも、遊んだのも内緒」

「え?遊んだこと内緒なの?」

「うん、ごめんね、お屋敷を抜けていることが知られたら私が怒られてしまうんだ」

「そっか、シャム内緒にするね」


そこだけフランクさんにも聞こえるように大きな声で言った。

その後、再度シャーロットと花をめでて、いや花を愛でいるのかヒロインを愛でているのか微妙なところだったけど、フランクさんの言う約束の時間までシャーロットと遊んだ。


「いい?シャーロット」

「どうしたの?クロリス」

「この立派なティアラはシャーロットが大事にするといい、でも、花束は」

「そうね!お仕事頑張ってる衛兵さんにあげる」

「そう、よくできました」


これまでフランクさんとの会話から、この小屋の近くにある町は入口に衛兵が立っているような治安の良い街で、それも比較的王都に近い町だとわかった。

私を連れて関所をいくつも通れないだろうという読みは正しかった。


シャーロットが普段遊びに行く際に挨拶をするぐらい衛兵は見慣れているものらしかった。そして、この国では防衛のために働く兵士に対して市民が物を上げるのは普通だ。

このかわいらしい幼女が花束をあげるといっても不自然はない。


シャーロットを残して小屋に戻される私に無邪気にシャーロットは手を振ってくれた。

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