第3話 悪役が悪役な理由
特にこれといった進展もないまま1週間が過ぎている。
普通の子供なら発狂していておかしくない。
私はその間に、他愛もない話を続けてシャーロットの息子フランクとある程度仲良くなった。
これなら作戦は変更だ。
窓から周囲を確認して、場合によっては窓から脱走なんて計画は初めから無謀だった。
仲良くなれるなら大人の男の力を借りる方が何倍も楽だ。
「フローラの言う通り、侯爵家の対応が悪いね」
「ええ、予想通りですわ」
そういうと私よりもつらそうな表情をする彼は、あの犯罪者の両親のもとに生まれなければ純朴な青年としてどこかで幸せだったに違いない。
「でも全く助けに来ないというのは外聞が悪いですから、そうですね。身代金の用意が難しいとでも言って、時間を稼いでその間に私が儚くなりましたというのが、理想なのではないかしら」
「もし、そうなら、僕が育ててあげるよ。大きくなったら町一番の美人になるのは間違いないね」
「ありがとうございます。お役に立てるよう、お裁縫でも覚えようかしら」
私の頭を撫でるのは弟妹が多いせいだろう。
完全に妹として可愛がりはじめている。
彼がいる限り、そこまで酷いことはされないと思われる。
ただ親子関係にもよるか。
「私と同い年の妹様のお話をお伺いできます?」
「いいよ。君はシャーロットのことが気になるんだね」
「ええ、同い年ですもの」
私が初めに持っていた違和感の通り、この少年フランクの妹はシャーロットというらしい。
母親から譲りうけた名前で愛称はシャム。
まるっきりヒロインと同じだ。
ヒロインは不幸があって、孤児院出身の平民だ。
だが魔力が高かったゆえに王都の学校に進学してくる。
その不幸が親が犯罪者として捕まったという可能性はゼロではない。
ゲーム内の悪役令嬢が知っていたのかは定かではないが、これはヒロインを恨んでも一方的に悪役令嬢を責められない。
「なぜあなたなんかが入学してきたのですが、何も知らないくせに」のなにもは貴族としての常識ではなく、親のこと等も含まれる。
キラキラした王子様連中のげろアマ乙女ゲームだと思っていたが、「☆恋」地味に内容が重いぞ。
知らなかったわ。
「弟様や妹様にお会いしてみたいですわ」
「そうだね」
実際に連れてくるのは難しいだろう。
そう思いつつフランクにそう言ってみる。
1か月もここにいることになるのだ。
彼が本当に私にほだされているのなら、家も遠くないようだし、合間を見て連れてくるかもしれない。
推測のできない年齢の5歳児を連れてきてもらえるのなら、服についているラングレー侯爵家のボタンを与えて街の衛兵にでも渡してもらおう。
この犯罪者家族の娘にヒロインのシャーロットがいるいないを確認するのは正直なところどうでもいい。
ゲームの裏話として面白いなぐらいの好奇心だ。
まずは脱出が第一だ。
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