*オチ

 ──次の朝、耕平は匠が校長室に呼ばれた事を健から聞かされた。校長室が見える通路で二人は匠が出てくるのを待っている。

「怒られているのか」

「今まで怒られたことないよ」

 健の言葉に耕平はマジなのかと目を丸くした。

「あれだけの事をしておいて、怒られた事がない?」

「え? なんかした?」

 こいつ、まるで自覚がない。そんな事があり得るのか? いや、こいつならあり得る。いくら将来、有望な二人だからって校長先生は甘すぎる。

「池の水を抜いたのは」

「清水先生の子どもが、お母さんの形見を池に落としちゃったんだから拾わなきゃ」

 形見は大事なんだよ。

「うぐ……」

 あのとき、外来種の調査もしていたと聞いたが、それで貴重な在来種を見つけて保護しむしろ褒められたんだっけか。

 まさか事前に水質調査と称し、市役所に申請していたとは誰も思わなかった。用意周到とはこのことだ。

「じゃあ、神社のご神木を切ったのは」

「悪い病気にかかってたから、切り倒さなきゃ近くの林に移っちゃってたよ」

 みんな気がつかないし、言っても聞いてくれなかったろ。

「うぐぐ」

 あのときも業者に頼んで神社の神主を周防が説得し、ついでに樹木医も呼んでいたんだ。役所の職員は、前回の池の水の事もあって周防には寛大になっていた。

 かえがえすも結果的に良い事をしている。怒られないための予防線も完璧だ。

「なら、暴走族同士の抗争は」

「あれは揉めてたのを匠が止めたんだよ」

 友達が無理矢理、暴走族に入れられて泣きつかれたから助けに行ったんだよ。

「あいつにそんな正義感があったのか」

「両親に助けてって言われたら、助けるでしょ」

 いや、普通は子どもの同級生に助けは求めないと思うぞ。

 ましてや、学園トップクラスの生徒になんて。暴走族相手に何か出来るようには到底、思えないじゃないか。

 あれは、どういう訳か暴走族が折れたんだ。一体、周防は彼らに何を言ったんだ。説得の内容が伝わってこないから内情が掴めない。

 警察が駆けつけた頃にはもぬけの殻だったらしいが、周防が暴走族と対峙したという噂だけは広まっている。

「くっ……。周防め」

 無駄に頭が良いとろくなことが無い。賛同する馬鹿も無駄に体力がありやがるし。こいつらを止める人間がいないのは問題だ。今に何かやらかすぞ。

 まるで暴走車だ。僕に、こいつらを止められる訳がない。


 ──しばらくして匠が校長室から出てきた。

 その表情からは、怒られた素振りは見受けられない。何を言われたのだろうか。

「どうだった?」

 問いかける健の隣にいる耕平を一瞥する。

「約束は大盛りとドリンクLだったかな。デザートもプラスしよう」

「ホント? やった!」

「おい、何を言われたんだ」

 妙に機嫌の良い匠に眉を寄せる。

「少々の不満はあるけれど、良い依頼だったよ」

「依頼?」

 どういう事なんだといぶかしげな耕平を意に介さず、遠ざかる匠を追いかける健は、

「匠は将来、探偵になるの?」

「さあ。どうだろうね」

「探偵?」

 どうして、そんな話になるんだ。それじゃあまるで、今回の件は誰かが周防に依頼したみたいじゃないか。

 そう思った瞬間、耕平はハッとした。

「まさか──」

 ゆっくりと振り返り、校長室の扉を見つめた。そして、匠の持っていたコピーキーを思い出す。

「いや。そんな馬鹿なこと──僕の思い過ごしだ」

 匠の計り知れない能力に耕平は少しだけ怖くなった。あいつの両親は僕と同じ、そこらへんの一般人だ。

 大きな権力がある訳じゃない。なのに、あいつはいつも何かに守られているかのように難なくこなしていく。

 それはつまり、あいつ自身の能力に他ならない。これは、あいつに深入りするなという事なのか。ただの高校生だぞ。

「ぼ、僕は何も知らないぞ」

 昨夜の件は知らなかった事にする。僕には関係ない。

 耕平はそう何度も自分に言い聞かせ、七不思議の解決にひと役買った事を忘却の彼方に投げ捨てた──




END

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学園スパイラル~七不思議編~ 河野 る宇 @ruukouno

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