*検証の始まりだ

 ──健は二年五組と書かれたプレートを見上げ、目の前にある木の扉をゆっくりと引いていく。

 不気味な音が廊下に響いた。

「早かったね」

 真っ暗な教室にぽつんと一人、匠が自分の席に腰掛けていた。

「怖くないの?」

 何にも見えないよ。

「灯りをつけると見つかってしまうからね」

 もう大丈夫だろうと持っていた懐中電灯のスイッチをオンにする。

「不思議なんだけど、とっても都合良く正門が少し開いてたよ。教室もカギかかってないね」

 わざとらしい健の言葉に、匠は何かを含んだ笑みを浮かべた。



 ──準備は万端。

 いざ、七不思議の謎を解き明かそうと立ち上がった匠は、健と共に教室をあとにする。

「ここから近いのは理科実験室だね」

「うん」

 とはいえ、理科実験室や特殊音楽室などの特別教室は別棟にある。

 一年棟、二年棟、三年棟、職員室がある特別棟と、それぞれの棟はつながっており十字の形となっているという訳だ。

 もちろん一年棟や二年、三年棟にも理科室のような教室はあるのだが、比較的危険だと思われる実験を行う教室は特別棟の理科実験室となる。

 第三と第四の謎は、いずれも特別棟にある教室だ。ついでに季節の行事に使われる物も特別棟に詰め込まれている。

 学生たちは理科室も理科実験室も「理科室」と呼び、音楽室も特殊音楽室も同じく「音楽室」と呼ぶ。

 そのおかげでどちらに行くのか解らなくなり、彷徨う学生があとを絶たない自爆的な状況となっている。

「おい! そこで何している」

 突然、背後から声をかけられ振り返る。

 そこにいたのは──

「生徒会長か」

「あ。斗束とつかだ」

 銀色のフレームのメガネを左の中指でずりあげ、生徒会長の斗束 耕平とつか こうへいは二人をジロリと睨みつけた。

「君こそ、こんな時間にどうしたんだい」

「僕は予習で遅くなったんだ」

 あまりに集中していたため、先生に声を掛けられなければ外が暗くなっていたことにも気がつかなかった。

「お前ら。また何か良からぬ事を企てているんじゃないだろうな?」

「企てるなんて、やだなあ」

「我々は人助けをしているんだよ」

「人助け?」

 耕平の片眉がぴくりと上がる。

 こいつの人助けなんてロクなもんじゃない。今までこいつがしてきた事を思えば、人助けなどという善意的なものではなく、単なる好奇心からだ。

 常に自分の上をいく成績の匠に、耕平は少なからず妬みを抱いている。

「乗りかかった船だ。君にも手伝ってもらおう」

「ちょ──!? 待て、待って! 乗りかかってもいないぞ僕は!」

 匠の言葉に、健は有無を言わさず耕平の首根っこを掴んで引きずっていった。

「あれ? 理科実験室じゃないの?」

 目的の場所とは異なる方に足を向けた匠に健は小首をかしげる。

「うん。やはりプールから行こう」

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