*おさらい
「では、おさらいをしよう」
聞いた話をまとめるべく、謎をつらねていく。
「第一はプールに立ちつくす少年の霊。第二は美術室で一人、暗闇で絵を描いている少女。第三は音楽室の肖像画。第四が理科室の人体模型に──」
第五は音楽室のピアノ。第六が体育ドーム。そして、最後が食堂。音楽室が二つと被っている感はあるが、何か理由でもあるのだろうか。
「トイレには無いんだね」
学校ならデフォルトだと思ってた。
「確かに、そうだね」
匠が小さく唸る。
「階段もないし」
数えながら降りると一段、増えているというものだ。
あれは単なる数え方の違いである事が多いのだが本来、七不思議の中に入っていてもおかしくはない謎ではある。
「十二段の階段がうちには無いとかかな」
「それは考えられるね」
ただ、別に十二段である必要はそれほど無いような気はする。
勿論のこと、十三段になった方が恐怖は増すのであるがしかし、段数に拘わらず数に変動があれば誰しも奇異な事象に畏怖の念は拭えない。
ともあれ、全ての謎が揃った。いまこそ、動き出すときだ。
「健」
「なに?」
「今夜二十時。教室に」
「何時?」
「八時」
「ええ~?」
健は見たいテレビがあるのにと邪魔くさそうに顔をしかめる。されど、もっと楽しいものを目の前に吊せば──
「明日は大盛りプラス、ドリンクLサイズだ」
「交渉成立!」
健は勢いよく立ち上がり、食べ終わった食器を返却口に置いて食堂のおばさんに笑顔を振りまき、颯爽と食堂から出て行った。
彼とは学園に入学してからの付き合いだが、食べ物で釣られてくれるところが人の良さを表している。
そして、匠の引き起こす騒動のほとんどに関わっているのも彼であり、大いに楽しんでいる。
健にとっては、美味しいものを食べさせてくれて尚且つ、楽しい事を思いつく優しいイベンターくらいの認識かもしれない。
──頭脳の匠、行動の健──
匠については、それを知っていて気付いていない振りをしているのは明らかだ。彼にとって、気にするような事柄ではないだけでなく、褒め言葉とも捉えている。
匠はその高い知能に、健はその高い運動能力に、それぞれ学園では一目置く存在なのである。
それ故に、教師たちでさえ彼らを止めることは出来ない。加えて、彼らは学園の外では決して大きな騒動は起こさない。(バレていないだけともいう)
学園内であるなら、まあいいか──そんな校長をはじめとする教師一同の心の声が、二人の行動に拍車を掛けていた。
この学園は、ひとクラス約三十五人、いち学年十二クラス。全校生徒は、千二百人以上と本当にあの二人がいることを除いては、ごくごく普通の学び舎なのである。
──放課後
レンガ造りの校舎がオレンジに染まっていく。
生徒たちは寮や家にと家路に急ぎ、重い鉄製の正門が閉じていくこの時間から、匠と健の今宵の楽しいイベントが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます