*学食にて
「でね。三つ目が面白いの」
あっという間に午前の授業が終わり、健と匠は学食で語り合っていた。食事を終えた匠は約束通り、健に昼飯をおごっている最中だ。
美味そうにミートスパゲティをがっつきながら調べた事をまくしたてる健を、白い長机に肘を突いて微笑みの眼差しを向けている。
決してほほえましく眺めている訳ではなく、彼の食べっぷりに呆れている表情なのだが、女子から見れば溜息ものかもしれない。
「それで?」
「三つ目は音楽室なんだけどね。作曲家の肖像画があるでしょ? あれが泣くんだって」
笑うのではなく、泣くのか。確かにそれは面白い。
学校に忍び込み、あるいは帰らずに肝試しを実行した生徒がもし、それを目撃したならば、さぞかし困惑することだろう。
「四つ目は?」
「理科室の人体模型だよ。あれがさ、縄跳びするんだって」
「ほう」
これはまた
どう見積もっても運動上手とはいえそうもない人体模型が、果敢にも縄跳びに挑むとは感心する他はない。
「でさでさ、五つ目なんだけど。音楽室のピアノが、誰もいないのに曲を弾くのは定番だけど。その曲がね。犬のお巡りさんなんだって」
「ほ、ほう」
それはさすがに予想外だった。
一体、どんな曲調で弾いているのだろうか。どれほど暗いリズムでも、その作品では恐怖をかきたてられない。
スパゲティを食べ終えた健は、ナプキンで口を拭いオレンジジュースに手をのばす。
「六つ目はね。体育ドームの真ん中であやとりする少女の霊」
匠はそれに眉を寄せた。
「体育ドームで、あやとり?」
何故そんな、だだっ広い場所であやとりを──我が学園の七不思議はどこかおかしい。
「意味わかんないよね~」
箱ジュースのストローをガシガシと噛み、健は最後の不思議を語り始める。
「七つ目はね。ここ、食堂での話」
いよいよかと匠は自然と身を乗り出す。よく、七つ全てを知れば死ぬと言われる学校もあるようだが、この学園はそんなことはなさそうだ。
向かいに座っている健は、今までにない表情で声をひそめる。どうやら、これまでの七不思議とは毛色が違うらしい。
「厨房で一人、白衣を着た男が料理してるんだって。──自分の頭を」
最後はどうやらまともな話のようだ。
このまま全ておかしな七不思議だったらどうすべきかと思っていたが、どうにか幾つかは普通にオカルトとなっている。
匠は安堵して、ポリカーボネイト製の椅子に背中を預けた。
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