クエスト5 再起(集の大陸・シュティリ島編)

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(今回は少々ですが残酷な表現がありますので苦手な方はお気をつけください)




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 またか。









 またなのか。












 真っ暗で歪なこの空間も3回目。





 ちょっと慣れてきてしまった。







 2度ある事は3度ある、とはよく言ったものだが……









 相変わらず人の気配は無い。




 今度は行き先がスポットライトで照らされている。







 兎にも角にも、進まなきゃ始まらないので、歩き出す。









 ある程度まで歩くと、パッとスポットライトのような明かりが、透明なケースに保管された古いゲーム機を映し出す。


 その明かりで自らの姿を確認してみると、やはり中学校の時の制服だった。







 展示されていたのはVG8。正式名称ヴァーチャルギア8(エイト)。


 最初に発売された家庭用ゲーム機で、日本のゲーム文化を語る上で外せないものだ。


 フルダイブ型VRゲームも出始めた俺達の世代にとってはもはや化石とも言える品物だが、俺にはこれに特別な思い入れがあった。


 なにせ、俺がゲームにハマるきっかけになったのだからな。









 それは中学2年生の秋頃。




 俺のクラスに転入生が来た。






 名前は松山龍之介。




 そいつと席が隣になった俺は、ノートを貸した事をキッカケに仲良くなっていった。

 黒田と仲良くなったのもこの辺の時期だったな。松山を介してだから、友達の友達といった関係から、友達に……といった感じだろうか。





 ある日、松山の家で勉強会を行った時、家にあったのがこれだった。



 何でも、彼の父親がものすごいレトロゲームマニアで、様々なレトロゲームを集めていたそうだ。







 その日はやらなかったものの、後日松山の家に遊びに行った時にそれをやらせてもらった結果、大ハマりした。


 どことなく空虚な生活が、一瞬で様変わりした。




 時に理不尽にも思える、ユーザーへの挑戦状のような難易度、最新鋭のゲームとは違う独特の魅力を持ったグラフィックや音楽、今やその名を知らぬ者はいないほどの知名度を誇るゲームブランドの始まりとなったゲームの数々……




 言葉ではうまく言い表せないが、すごく楽しかった。

 対戦ゲームでは松山にしこたまボコられたが、中古ハードを手に入れ、当時の攻略サイトなどを見て対処法を覚え、必死に対抗した記憶がある。



 最終的な勝率は五分五分だったな。




 松山とはあっという間に仲良くなったし、黒田とも仲良くなった。





 ……っと、思い出に浸っていても仕方ないか。先を急ごう。









 次に展示されていたのは2年2学期の期末テスト。これまでのテストよりも大幅に点数を落としている。



 くそっ、ストレートに嫌なもの見せやがって……






 まあ松山と黒田とレトロゲームで盛大に遊びまくっていたせいなんですけどね。






 毎日ゲームで遊びまくり、テスト週間になっても勉強会を途中で放り出して皆でゲームしていたせいで、松山と黒田の点数がかなり悲惨なことになり、俺も平均点を僅かながら下回る結果になってしまった。




 一見すると俺だけ軽傷のように見えるが、それまでは相澤としのぎを削っていた分元々の点数が高かったために下げ幅としては同じで、親には叱られたし、先生にも叱られたり心配されたりした。


 社会の先生は事情を話したら萩は遊びに対しても真面目だな、とか言われて爆笑されたが。





 まあ大人からそう言われるのは分かるが、相澤にキレられたのはよく分からなかった。



 今思えば、引き立て役としての箔がつかないからだろうが。







 …………







 ………………







 更に進んでいくと、またも展示品を見つける。




 封筒の中に入れられた剃刀の刃。


 これは……バレンタインにチョコと一緒に靴箱の中に入ってたものか。





 相澤には圧倒的な才能と優れた容姿(個人的な恨みを無視して考えれば、確かに優れているとは思う)で、学校には男女問わずファンが多かった。


 そういう連中からすれば、常に側にいるくせにアンチのような態度を取る俺の存在は気に食わなかったのだろう。



 その時までは睨まれたりすれど特に突っかかられることはなかったが、2学期末のテストのしくじりで付け入る隙みたいなものを与えてしまった結果、たまに面倒なのに突っかかられる事が出てきた。



 イヤーズポートで再会を果たしてしまった大和田が良い例である。まああいつが手を出したのは3年に入ってからだが。




 やる事は知れているので俺が被害に遭う分にはどうとでも対処できたが、松山と黒田、特に松山を狙ってくるのが問題だった。







 2人の分の被害もまとめて調べ上げ、とりあえず実行犯を炙り出して証拠と共に先生に突きつけた結果、きっちり対応してくれたらしく次第に沈静化していった。








 …………








 ………………






 次に見つけたのは、展示品ではなく1/1スケールのジオラマ。



 中学校の通学路に存在する交差点とガードレールと、その近くに置かれた花束。




 事故現場だ。






 松山が事故死した、その現場だ。









 それは3年の1学期、学校の帰り際。




 俺と松山と黒田は途中から帰り道が別になるので、当然途中から別々に帰る。




 その分かれ道になるのがその交差点だったわけだ。



 いつものように別れて歩き出したその直後、ドンと大きな音がした。






 まさかと思って振り返ったら、そのまさか。


 そこには、フロントのへしゃげたハイブリッドカーと血を流して倒れる松山の姿があった。





 あの時の光景と、動悸やら吐き気やらが一気に襲ってきた感覚は、忘れはしない。




 だってそうだろう?


 さっきまで談笑してた身近な人が、ものの数分で血塗れなんだぜ?


 理解できるかよ。俺は無理だった。






 理解を拒む脳とまるで夢の中のような妙な浮遊感が襲う中、ギリギリ残ってた冷静な思考が俺に119を押させた。






 間に合わなかった。








 …………






 ………………







 くそっ、さっきから一体何なんだ。昔の嫌なことばかり思い出させやがって。





 さっきが事故現場なら、おそらく次は……











 ……やっぱり。松山の葬式会場だ。




 ご丁寧に1/1スケールのジオラマにしやがって。









 葬式には勿論出た。




 ずっと泣いていた。





 信じたくなかった。





 だが、否が応でも思い知らされた。











 それだけで終わればまだ良かった。






 葬式の帰り、見つけてしまった。



 死んで清々したとのたまう相澤を。



 聞いてしまった、その言葉を、その罵りを。








 殴りかかろうとして、足がもつれて転んだ。


 相澤は気付かずそのまま去っていった。





 今思えば、相澤のシンパに更なる報復活動を許してしまう行為だから、結果的に見ればそれでよかったのかもしれない。


 でも、悔しかった。悔しくてたまらなかった。

 今でも悔しい。


 相澤が許せなかったし、相澤に勝てない自分も許せなかった。











 …………






 ………………









 まだ道は続いていた。




 今度は……高校の受験票か。








 松山の死から1週間、死んだような引きこもり生活を経て、俺が目指したのは、県で1番偏差値の高い高校への進学。それをもって中学校生活における、相澤を見返す最後の勝負に出た。


 最新鋭の設備が整い、校則も偏差値に反してかなり自由なため、進学先としても申し分なかった。





 毎日勉強を重ね、徹底的に苦手を潰し、過去問を解く。

 体調を崩さないように睡眠はしっかり取ったが、それ以外の時間のほぼ全てを勉強に費やした。







 あの時はまさしくガリ勉であったと思う。











 試験当日も万全の状態で挑み、無事合格。


 遊び呆けていた相澤に勝ったと、その時は信じていた。





 だが、相澤も合格。しかも特待生。










 その後は高校最初の中間テストを迎える前に事故死してあの世界に来たので、相澤に俺が勝てた事は終ぞ無かった。







 …………







 ………………












 スポットライトに導かれるようにして歩いていると、妙に広い部屋に出た。






 その部屋は暗いが、通路はぼんやりと明かりがついている。




 気付けば、制服だったはずの俺の服は、今まで着ていた冒険者の服に変わっていた。




 日本に住んでいた頃の過去の振り返りは終わり、ということだろうか。

 まあ、あれ以降は何も無いし、当然といえば当然か。

 だとしたら、今度は何だ……?








 広い部屋に明かりが灯ると、トルカとフィンと人間態のピスが台の上で拘束されている。








「トルカ! フィン! ピス!」





 助け出すために駆け寄るも、見えない壁によって阻まれる。



 どこからか現れた、布で顔面を覆った医者のような格好の人間達が、巨大な包丁を片手に3人を取り囲む。



「おっはよー、進也君」




 その手前、見えない壁を隔てて俺のすぐ前に現れたのは、ナース姿の相澤。




「何のつもりだ……!」

「進也君、全滅ご愁傷様でーす! 今日はそんなやからし勇者しちゃった進也君に、罰を与えたいと思いまーす! じゃ、やっちゃってー」



 今から遊びでも始めるかのような軽いノリと笑顔で、相澤はそう言い放った



「おい!! 待て!! 皆に何をするつもりだ!!! おい!!!!」






 医者のような連中は台をこちらに見えるように傾けて、包丁を握る。



 泣き叫ぶトルカと怯えきった表情を見せるフィン、そして必至に抵抗するピス。




「進也君にこんな人達、要らないでしょ」

「何!?」



 小馬鹿にしたような相澤の声が響いた後、覆面の医者もどきは、トルカとフィンに包丁を振りかざし、薬指を切り落とし、次に3人の両手を切り落とす。





「やめろおおおおお!! このっ!! このっ!! くそっ! 何なんだよこの壁!!」

「あっははははははっ!! 進也君の必死な顔、最ッ高!!」




 痛みに耐えきれず泣き叫ぶ3人の声と、悦に浸る相澤の声が反響する。




「離せ!! トルカとフィンとピスを離せ!!!」

「やーだもんっ、べー」




 壁を殴ったり蹴ったり斬ったりするが、壁はびくともしない。




 医者もどきは俺を気にも留めず、さらに腕を、足を、太腿を、肩を切り落とす。

 相澤は子供のように舌を出して挑発する。





「殺す……!! 殺してやる!!! 相澤ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あっははははは!! やれるものならやってごらん! ほら、こんな壁なんか壊しちゃってさあ!!」






 相澤が高らかにそう嘲る中、医者もどきは3人の首を切り落とし、心臓に包丁を突き刺した。







 俺はただそれを、見ていることしかできなかった。





 足の力が抜け、壁に前からもたれかかるようにして膝をつく。




「トルカ……フィン……ピス……」










 動悸が激しい。






 吐き気がする。






 視界が揺れる。





 拳と奥歯に異様な力がこもる。






 松山の事故現場を目撃したあの日の感覚が、より激しく、より鮮烈に、燃え滾る怒り乗せて襲いかかる。







「……ぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」







 怒りと、憎しみと、悲しみと、よく分からない黒い感情の渦で滅茶苦茶になる。










「可愛いよ……可愛いよ! 進也君!! あっははははははは、あっははははははははは!!」












 絶望が心を埋め尽くす中、憎き相澤の笑い声が延々と響き渡っていった。







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