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 沈みゆく、シンヤ達勇者一行の乗る船。



 それを上空から見つめるのは、仮面の奇術師と禍々しい魔力を纏う魔王、アシュバルグ。



「沈んだか……」

「これで第1段階は終了、っと。いやぁすいませんアシュバルグ様、わざわざ手伝ってもらって」

「構わぬ。我も奴の面を見れて満足だ。あやつ、生命の危機に陥っても尚、我に向かうとは……中々見上げたヒトガタよ。してマジクス、これには何の意味がある?」

「まー簡単に言えば、今のはさっきのヒトガタが勇者かどうかを見極めるための作業っすね。ほら、本物の勇者ってのはどんな状況に追い込まれても何だかんだ生きてるものじゃないっすか」

「ほう……確かに、かつて我に立ち塞がった勇者は、いくら叩きのめしても起き上がるような奴だった。すなわち、真なる強者は運命に愛されし者……そう言いたいのだろう?」

「ま、そんなところっすね。生きてりゃ本物っすし、死んでりゃただの勇敢なだけのボンクラ、ってわけっす」

「ふむ、なるほど。考えたな」

「ボクみたいに力の劣る奴は、こうやって頭を使わないと」

「ふむ。マジクス、お前の働きに期待しているぞ」

「お任せあれ、アシュバルグ様!」



 直後、魔王アシュバルグは空間を裂き、姿を消す。





「いやー、楽しみだなぁ! こいつら、どうしてやろうかなぁ……まあ予定は立ててあるんだけどね。この手の奴らは集まると結束して厄介だから、分散からの各個撃破が基本だよねー。後は結束の力を逆手に……こっちはまだいいか。クヒヒ……期待されてるなんて言われちゃ、頑張らなきゃねー」




 奇術師は海を見つめながら、独り言を呟く。





「にしてもアシュバルグ様って変わってるよなー。強い奴と戦いたいから魔王するって。ボクは弱い奴を痛めつける方が楽しいのになー……まいっか。アシュバルグ様結構放任主義だから好き勝手やっても怒られないし、結果を出せば認めてくれるし。さーてドルーパー回収して、仕上げと行かなくっちゃ」




 奇術師は海に向かって文字通り手を伸ばすと、船乗りの男の足を掴んで持ち上げる。



 船乗りの男の肉体は溶け落ち、それは鎧を纏った兵士へと変貌する。


「おーい、生きてるー?」

「ドルー!」

「大丈夫っぽいな。さーてと、ほいじゃ仕上げに……荒れろ、荒れろ、荒れろ! 豊穣をもたらす水よ、穏やかなる海よ、その慈悲深き仮面を外し、今こそその本性を思い知らせてやれ! ダイダルウェイブ!!」



 兵士を持ったまま、奇術師はもう片方の手を海に向け、振り上げる。

 直後、海はまるで巨大な生き物のように荒れ狂い、沈み行く船を完全に飲み込み、咀嚼するように彼方へと攫っていく。


 やがて暗雲からは大粒の雨が落ち、空も海も荒れに荒れ、雷鳴が轟き、大嵐が巻き起こる。



「ま、ざっとこんなものだね。クヒヒ……あー疲れた。やっぱダイダルウェイブ嫌いだなー。さ、かーえろ」




 奇術師は嵐の中、水を纏って消えた。








 ……………………







 ………………








 玉座の間。




「して、ヴェーレンよ。今の状況はどうなっている?」



 玉座に座ったアシュバルグがスーツを着た悪魔の女に問うと、彼女は事務的に答える。



「アリエスフォッグ様が竜の大陸の侵略を、バルトソル様が光と闇の大精霊の捜索を始めたようです。具体的な成果報告はまだ届いていません」

「ほう……動き出したか。下がってよいぞ」

「はっ」





 スーツを着た悪魔の女が姿を消すと、アシュバルグは頬杖をつき、1人微笑んだ。
















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