クエスト4-8 始まりの終わり

 




 イヤーズポート生活、8日目。




 昨日のプレゼントだが、トルカからはお菓子、フィンからは裏側に術式を刻んだより鮮やかな赤色の新しい鉢金、ピスからは赤い宝石の嵌ったペンダントを貰った。

 鉢金には傷の治りを早める効果が、ペンダントには力をより引き出す効果があるらしい。

 お菓子はクラッカーだった。美味しかった。




 ついに出航の日を迎えた俺達は、船の停留所に行き、バンダナの船乗りの男を探す。



 昨日は降星祭を思いっきり満喫したせいか、俺も含めて全員が微妙に疲れの残った顔をしている。


 1日空けるべきだったか……まあ今更なんだが。



「おお、遅れず来たか。こっちだ」


 初めて会った時と同じ場所に、船乗りはいた。

 彼に切符を渡し、船に乗り込む。



「荷物はここに置いときな」

「はい」



 言われた場所に荷物を置き、甲板へと出てみる。




「ついに、海を渡る時が来たか……」

「どんなものがあるのでしょう……ボク、ワクワクしますデス!」

「船旅は初めてなので、少し緊張しますね……」

「どきどき……」



 俺達の期待と不安を乗せ、船は港を離れた。








 フィンは離れていく港を見つめ、トルカとピスは水平線をじっと見ている。






 やがて港は見えなくなり、空の青と海の青が視界の大部分を埋め尽くす。






 潮風を全身に感じつつ、水平線をじっと眺める。




「風、気持ちいい……」

「そうですね……」



 フィンとトルカは潮風に当たっている。


 兜を脱ぎ、風に揺れる金髪と穏やかな表情のフィンはなんだか画になる光景だ。



 フィンの鎧に関しては、船上で魔物に襲われた時を考慮して魔法による防錆処理とコーティングを行ってもらったらしい。俺もするべきだったか……





 トルカはいい感じに照りつける太陽とそよぐ潮風が気持ちいいのか、今にも眠りこけそうな顔をしている。



「トルカちゃん、そこで寝ると危ないですよ?」

「んー……」




 そうして、俺達の船旅が始まりを告げた。







 ……………………





 ………………







 2週間後。






「うぇ……」

「大丈夫ですか?」




 甲板に出てみると、トルカがフィンにもたれかかってぐったりしており、フィンが心配そうに背中をさする。


 これで何度目かは忘れたが、船酔いでリバース寸前のトルカ。





「トルカ、大丈夫か?」







 俺が2人に歩み寄ろうとしたその時だった。






 突如甲板の中心の空間が裂け、そこから下半身の無い仮面の道化師と、禍々しいオーラを身に纏った、魔王のような姿の男が現れる。


 それに乗じて穏やかな空模様も一変し、暗雲が立ち込める。


「ふむ、此奴らが件のヒトガタか……」

「だ、誰だお前ら!」



 咄嗟に剣を抜き、構える。

 魔王のような姿の男からは、まるで巨大な魔物の前にいるかのようなプレッシャーを感じる。



「そいじゃアシュバルグ様、ドカンと1発、お願いしゃーっす!」


 アシュバルグ……!?


「よかろう。ぬあぁぁぁ!!」




 俺達には目もくれず、アシュバルグと呼ばれた男は右手に力を集めて甲板を殴りつけると、一瞬にして船は真っ二つに砕かれた。



「トルカ!! フィン!!」

「シンヤ!!!」

「シンヤさん!!」



 船尾側にいた俺と、船首側にいたトルカとフィンは、離れ離れになる。



「トルカちゃん!」

「フィン……!」

「シンヤ様!! 一体何が!? おわーっ!? 何が何なのデスかこれ!?」




 フィンがトルカの手を掴んで船の柵に掴まっているが、このままでは船ごと海に沈んでしまう!



 直後、



「しまっ……!」




 ガタリと俺のいる側の船体が傾き、足を滑らせる。




 まずい、落ちる……!





「シンヤ様!」



 ピスが咄嗟に差し伸べた手に掴まり、一命は取り留めた。




「んぐぐ……大丈夫デスか!?」

「一応はな……そうだ、ファルコンソード!」



 ファルコンソードを呼び出し、装備すると軽量化する性質を利用して、ピスの負担を減らす。



「あれ、軽くなったのデス」

「ファルコンソードは装備者を軽くする特性を持つからな」



 とりあえず溺死は一旦回避したが、事態はまだ解決していない。

 船を破壊したやつらも宙に浮いて俺達の様子を窺っている。




「へぇ、即落ちかと思ったけど、やるじゃん。まあでも……」





 仮面の道化師はそう言った直後、巨大な水球を生成し、フィンに向ける。



 あいつ、ぶつけて落とす気か!





「プッシュ・ウィンド!!」

「シンヤ様!?」




 ピスに掴まった手を離し、プッシュ・ウィンドで仮面の道化師の元へ向かう。






「させるかぁぁぁぁ!」




 ファルコンソードを送還し、鉄の剣を抜いて斬りかかる。





「フラッド・プリズン!」



 斬りかかるまであと少しのところで奴は水球を俺に向けて飛ばし、俺の身体は巨大な水球に閉じ込められる。




「仲間の危機に捨て身で立ち向かう……馬鹿だなぁ、実に馬鹿だよ! ボクがそのくらい予想してないとでも? クヒヒヒッ!」

「ぐっ……がは……っ」




 息が……できない……!




「さーてと、邪魔者は……ぽいっ!」




 俺の身体はぐわりと引っ張られ、水球ごと海に落とされる。







「仲間を救えなくて残念だったねー、ボクら魔王軍に楯突くおバカで弱っちい空っぽの勇者さーん。悔しかったら生き延びてボク達を倒してみなよ!まあ無理だと思うけどね。クヒヒヒヒ、ケヒャヒャヒャヒャ!!!」




 沈みゆく身体、揺らめく群青の視界、奪われていく体温。






 アシュバルグ。





 サンドラールで読んだ本に載っていた、魔王の名。その隣にいた道化師はおそらく、四天王の1人。





 動きを読まれ、先手を取って潰された……ということか……!











 だが、今更気付いても、もう遅い。





 既に身体は動かず、どこが上でどこが下かも分からない。






 身体も意識も、深い闇の底へ消えていく。









 酸素が行き渡らず、息苦しさで朦朧とする意識。















 その中で、俺を嘲笑うような、道化師の耳障りな笑い声だけが、いつまでも脳に響いていた。

















 ――現在のギルドカード――







 名前:シンヤ・ハギ   種族:荒野の民

 属性:無  レベル:22 職業:勇者

 体力:49 魔力:0

 筋力:42 敏捷:41

 創造:3  器用:32



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