クエスト4-6 まさかの再会

 



 イヤーズポート生活、5日目の朝。








 またしても別行動中の俺は今、ピスと一緒に大通りで色々な店を見て回っている。

 降星祭まで残り2日、準備に向けてせわしなく動く人も少なくない。



「悪いな、マジックミサイルの練習中に呼び出しちまって」

「いえいえ、問題ありませんデス!」




 降星祭には、親しい間柄の人に感謝を込めて贈り物をするしきたりがあるようだ。


 皆には大変お世話になっているので、ちょうどいい機会といえる。







 とはいえ、旅の最中。あまり実用性の無い物を贈るのはあまり良い事ではないだろう。

 食べ物や消耗品、能力を高める効果のあるアクセサリー辺りだろうか。


 とある冒険者向けの店員に聞いたところ、オススメは武器の手入れ用の道具であったり、食べ物であったり、能力を上げるアクセサリーの類だとか。

 逆に避けるべきなのは武器や防具、ピアス、その他やたらと高価な品だそうだ。


 武器や防具は合う合わないがあるし、高価な品を渡されるとお返しで気を病む……ということだろうが、ピアスは何故?


 聞いてみると、ピアスは特に親しい間柄で片方ずつ付ける文化があるらしい。

 言うなれば愛の告白みたいになってしまうそうな。




 贈り物事情も判明したところで、再び探しに出る。


 トルカは甘いお菓子が無難なところだろう。

 フィンは……どうしようか。手入れ用の道具がいいかな?良い感じの効果のあるアクセサリーがあればそっちにするか。



「贈り物であれば、ボクは創造を上げるアクセサリーが欲しいデス!」


 ピスは聞いての通り。


 いざという時の連絡役としてピスを連れているが、本人のいる前でプレゼントを探すというのは何ともおかしな感じだ。

 日本ほど治安は良くない分単独行動は危険だから致し方無しではあるが……


「シンヤ様は何が欲しいデスか?」


 まあ目の前で探されてるのは俺も同じなんですけどね。


「何、って言われてもなぁ……」


 魔剣クロノスの事を考えると、アクセサリーの類は俺が装着しても効力を発揮しない可能性がある。

 それを抜きにしても何を伸ばすべきか……

 手入れ用の道具は今のところ大丈夫だし、食べ物は名前が分からないので具体的な指名ができない。何でもいいは1番困るやつだし。



「取り敢えずアクセサリーショップ寄っていい?」

「がってんデス!」



 ……………………






 ………………




 というわけでやってきましたアクセサリーショップ。


 様々なアクセサリーが売られているが、そのほぼ全てに宝石が付いている。これが力を引き出す源だろうか。




「いらっしゃいませ〜」



 ゆるふわな感じのする、洞窟の民の女性店員が出迎える。

 そういや行く先々の店に洞窟の民の店員が多い。彼らはそういう性分なのだろうか?



「あの、試着ってできます?」

「はい、大丈夫ですよー。どれにします?」


 試しに筋力上昇の効果を持つアクセサリーを装着してみる。



 確かに、力が湧き出る……気がする。

 剣を鞘に入れたまま手で持ってみると、いつもより軽い……ような……?


 とりあえず、全く効果が無いわけではないらしい。

 プラシーボ効果かもしれないが。



「ピス、お前が俺に似合いそうなものを見繕ってくれないか。贈り物なわけだし、お前のセンスに任せる」

「がってんデス!」




 2人別々にアクセサリーを探す。


 クラフトペンダントという、白い正方形の宝石が嵌った、ブロックの集合体のような銀のペンダントをピスに買うことに。


 その後も店内を見て回り、トルカには蒼月の髪飾りという青い宝石で出来た三日月型の髪飾りを、フィンにはソウルリングという緑色の宝石の嵌った、天使の意匠が見える腕輪を買う。


 効果はそれぞれ呪文封じ耐性の強化、精神干渉耐性の強化。


 前者は文字通り、後者は別の言い方をするなら、気持ちを落ち着ける効果を持つ……といった感じだろうか。




 トルカにはお菓子を贈ろうかと思ったが、ダブり回避のためアクセサリーにすることにした。

 ……トルカならお菓子に限ってダブっても御構いなしな気がしないでもないが。





 俺の買う分を終えた後は、ピスが買う分の贈り物を見に行く。


「ピスは2人に何を贈るかもう決めてあるのか?」

「はい、バッチリデス!」

「おお、流石だな。何を贈るんだ?」

「トルカ様にはクッキーを、シアルフィア様には武器の手入れ用の布を贈らせていただきますデス!」

「なるほど……どこで買うのかは決めてあるのか?」

「勿論今から探しますデス!」

「……だろうな」


 ……………………






 ………………



 色々探し回った結果、ちょっとリッチな店にあった、ジャム入りクッキーを購入。

 試食させてもらったが、すごく美味しかった。

 これなら満足してくれるだろう。


次に武器屋に立ち寄り、手入れ用の布を購入。

高品質なものを買ったため、手触りが良い。手入れ用に使うのが少々勿体無く感じる。




 昼はトルカとフィンと合流し、一緒に昼食を取る予定だ。

 ピスのボックスで贈り物を一旦しまい、宿屋に戻る。




「これで贈り物はバッチリデスね! 早くお2人の喜ぶ顔が見たいのデス!」

「そうだな。喜んでもらえると俺も嬉しい」

「それで、今日のお昼はどこの店にする予定デス?」

「んー、どうすっかなぁ。野良犬にもう1回行きたいけど、2人の口に合うかどうか……ん?」




 ピスと話しながら宿屋への道を歩いていると、ガラの悪そうな男達に絡まれている2人の冒険者の少女を見つける。

 装備が新品なところを見ると、駆け出しだろう。



「私達は……間に合ってます……ので……」

「そうよ、ナンパなら他を当たってちょうだい!」

「まあそうカッカすんなよぉ、ちょっと一緒に遊ぶだけじゃねぇか。いい店知ってるぜぇ?」

「何ならパーティ組んでやってもいいぜぇ? 俺達と一緒に楽しく気持ちよく冒険しようぜぇ?」

「そりゃいいや! ギャハハ!」

「だ、誰があんたなんかと……!」

「誰か……助けて……」




 冒険者の少女の1人と、目が合う。

 その目は、助けを求める目だった。




「助けに行くぞピス、フラッシュの準備だ。割り込むと同時に放ってくれ」

「がってんデス! 光よ、我らを隠す外套となれ……」



 俺とピスは彼女達の元へ走り、前に立ちはだかるようにして割り込む。



「なんだてm「フラッシュ!」

「うぉっ!?」



 ピスがチンピラ連中にフラッシュを浴びせて視界を遮り、その間に冒険者の少女達を奴らから引き離す。



「今のうちに逃げろ。大通りに出れば追ってこないはずだ」

「あ、ありがとう! 助かったわ!」

「い、いつか必ずお礼を……」

「いらん! 早く行け!」



 2人が走ってその場から離れるのを見ると、チンピラ連中の方に向き直る。





 取り巻きである2人はなんて事のないただのチンピラだったが、リーダー格と思しき男の顔を見て、俺は絶句した。





「新人を付け狙ってナンパとは感心しな…………!?」

「てめぇ、よくも俺達の…………!?」







 それもそのはず。







「お前が……お前が何でここにいるんだ……!?」

「くそっ、集合場所にいなかったから来てないと思ったらやっぱりいやがったか!」








 何故ならそいつは、中学校の時のクラスメイトであった大和田一剛おおわだかずよしに余りにも似ていたからだ。








「こっちでも相変わらず真面目君してるようだな萩ぃ? 相変わらず正義のヒーローごっこかぁ?」



 何やら白と青のファンタジーっぽい軍服を着ていたせいでパッと見では分からなかったが、俺の名前を知っていて、なおかつ名前呼びが主流のこの世界でわざわざ名字から呼ぶ辺り、他人の空似とはとても思えなかった。







 大和田一剛。


 俺と同じ美多原みたのはら第三中学校99期生にして、同期の中でもかなり素行の悪い人物である。


 体格は(一般的な同年代の日本人と比較して)良く、浅黒い肌を持ち、髪は入学当初から金髪に染めていたらしい。


 強面で人相の悪い顔つきであり、その第一印象に違わぬ性格を持つ。

 授業態度は最悪、乱暴者で自分より弱い生徒に対しいじめやカツアゲを行う……まあDQNってやつだ。




 そんな大和田は相澤に惚れているらしく、彼女の手先として暗躍することもあったらしいが、許可なくあだ名呼びをして訂正されたり、やたら聞かされる自慢話を苦笑いで聞く相澤の表情を見る限り、その好感度に関しては言うまでもない。



「ちょうどいい、お前をボコボコにしてストレス発散するか。お前には中学の時にスポーツ推薦を潰された恨みがあるからなぁ! そしてきらちゃんを俺の物にする!」




 俺は相澤と仲が良い(ように振舞ったつもりは無いが、相澤がやたら絡んでくるせいかこいつ含めて周囲はそういう認識になっている)ので、大和田には思いっきり目の敵にされている。


 それで一時期標的にされた訳だが、友人の黒田を始めとした被害者だった生徒に協力を仰いで俺以外にやっていたいじめもまとめて証拠を可能な限りスマホに録音、録画して先生に直訴した。

 そこからは詳しく話すと長いので結果だけ言うと、大和田の高校推薦は全部潰れた。


 ちなみに他の被害者の分まで出したのは、証拠が多い方が確実だと思ったから。




「カズの兄貴、あいつら知り合いですかい?」

「あのロン毛は知らんが、黒い髪の奴は俺を罠に嵌めて将来を潰しやがった男だ!」

「そいつはいけねぇ、やっちゃいましょう兄貴!」

「お前らは下がってろ、俺様直々にあいつをボコす! どうせゲームだし、殺しちまっても問題ねぇな!」

「さっすが兄貴! 容赦ないぜぇ!」




 ニヤニヤ笑いながら指をポキポキと鳴らす大和田と、それを囃し立てる2人のチンピラ。



 正直頭はまだ混乱しているが、今はそれどころではない。黙って背中の剣を抜き、構える。


 こいつに1発ぶちかましておきたいという個人的な感情を抜きにしても、とりあえずさっきの2人が逃げきるまでの時間を稼ぐ必要がある。

 ゲームと勘違いしているのか知らないが、向こうは殺す気でいる。




「何だ、やる気かぁ? 動画撮ってセンコーにチクるくらいしか出来ない腰抜けの癖によぉ!」

「ただでやられるつもりは無い」

「調子に乗るなよガリ勉がぁ!」




 飛び込む構えを見せた大和田に対し、サイドステップを行う。


 次の瞬間、メリケンサック付きの拳が頰を掠めた。








「なっ……!?」







 速い……!?







 予め飛んでいなければ回避できなかった。

 俺は冒険者としては平均を大きく下回るが、一般的な地球人に比べば遥かに強くなっているはず……


 ということは、こいつもレベルを上げている……?






 いずれにせよ、ナメてかかって倒せる相手じゃない!

 殺るか殺られるかの勝負……!






「避けてんじゃねぇぞオラァ! オラァ!」





 大和田は次々に拳を繰り出してくる。






 動きは速いが、その動き自体はでたらめだ。

 ただ速いだけ、殺意が足りない。






「うおらぁ!」



 大振りの攻撃! だったら……!




「ガイアエッジ!」



 そう叫ぶと同時に、上へ飛ぶ。



 次の瞬間、轟音を立ててガイアエッジが昇り龍のごとく現れる。





 それを跳躍して手に取り、大和田めがけて振り下ろす。






「ぅおっと!」




 大和田はそれをかわし、着地を狙って拳を振るってくる。






「死にさらせぇ!」

「はっ!」



 ガイアエッジを出したまま回避行動を取り、ケーブルに足を引っ掛けるように誘導する。



「うぉっ、とぉ!?」




 大和田の体勢が揺らいだのを確認すると、一気に距離を詰める。




「そらっ!!」






 低い姿勢から一気に飛び上がり、斬りあげる。




「ぐぉっ!?」

「「あ、兄貴!」」



 ガイアエッジによる斬撃は、突っかかる感覚も無くスラリと奴に大きな斬り傷を負わせた。





「うぉあぁぁぁぁ!? 痛ぇ、超痛ぇ!! ゲームじゃねぇのかよ!?」



 大和田は痛みに悶え苦しむ。


 こっちは遊びじゃねぇ! 命を懸けて戦う事を知らない奴に、負けてたまるか!




「……殺す。萩、てめぇは絶対殺す」



 俺が反応するよりも速く、大和田の拳が飛ぶ。




「ぐぁっ……!」



 顔面を殴られ、俺の体勢が大きく揺らぐ。



 くそっ、さっきは余裕かましてたのかこいつ!





「おらおらぁ!」



 続け様に左手での殴打が飛び、




「避けてみろよおらぁ!」



 更に右手による一撃を叩き込まれる。




「イキってんじゃねぇぞ雑魚がぁ!」




 速度を上げ、力任せの殴打の嵐。





 動きが分かっても回避が間に合わない。




 まさにサンドバッグ。





「死ねやうらぁ!」



 とどめと言わんばかりに、地面に叩きつけられる。




 辛うじて意識は手放さなかったが、これ以上の戦闘は厳しい。



「く……」

「シンヤ様!」

「折角だ、俺の必殺技を見せてやる! 阿修羅あしゅら猛悪怒もおど! うおおおおおおおおおお!!」






 俺が何とか立ち上がるのを尻目に大和田はそう叫ぶと、目に見えるほどのオーラを身に纏う。



 まだ隠し玉を用意していたのかこいつ……!




「で、出た! 兄貴の必殺技、阿修羅喪悪怒!」

「兄貴の本気に勝てた奴はいねぇ……終わったな、あのガキ!」






 やがて全身が赤黒く変化し、まるで炎を纏ったような姿へと変化する。

 ワールヴェントを前にした時のような、凄まじいオーラを纏う大和田。



 俺とピスだけでは勝てない。



 本能がそう告げた。







 大和田は強くなった自分に酔いしれているのか、さっきから高笑いを続けており、連れのチンピラ2人はニタニタと笑っている。




 とにかく、こうなった以上は逃げるしかない。戦うなんて無理だ、絶対死ぬ!


 あの2人の少女も、もう遠くまで逃げたことだろう。ならば躊躇する理由は無い。




「ピス、フラッシュを頼む。これ以上の継戦は無理だ!」

「が、がってんデス! 光よ、我らを隠す外套となれ……」

「させるかぁ! 阿修羅あしゅら武殺狼死拳ぶっころしけん!」



 大和田は飛びかかり、阿修羅のごとく強烈なオーラを右手に集約し、パンチを繰り出す。



「フラッシュ!」

「うぉっ!? 目が!?」

「ファルコンソード!」





 ピスの放った閃光によって狙いが逸れた阿修羅……阿修羅の拳を回避し、ファルコンソードを呼び出す。


 今に限った話ではないがこいつを真面目に使いこなす訓練をして本当に良かった。





「ピス、一旦腕輪に戻れ!」

「が、がってんデス!」

「プッシュ・ウィンド!!!」




 ピスを腕輪に戻し、プッシュ・ウィンドを地面に放ってその場を高速で離脱した。





「ちっ、逃げたか……」

「兄貴の阿修羅猛悪怒にビビったんすよ!」

「あいつらざまぁないっすね兄貴!」

「全くだな! ギャッハッハッハッハ!!」



 ……………………






 ………………




「エアー・ダッシュ!」



 プッシュ・ウィンドとエアー・ダッシュを駆使して、屋根伝いに移動し、宿屋まで戻る。

 身体はボロボロだが、何とか動けた。



 宿屋の前の道で着地し、壁によりかかるようにして立つと、トルカとフィンが宿屋の前にいた。


「シンヤ……シンヤ!? 大丈夫!?」

「シンヤさん、一体どうしたのですかその傷!?」

「ハァ……ハァ……」

「と、とりあえず部屋で治療しますね!」



 2人の顔を見て安心したか、俺の身体が限界を迎えたか。

 身体も口も動かせず、フィンのされるがままに部屋に連れられた。






「慈悲深き命の女神よ、かの者に癒しをお恵みください……ヒール!」




 大和田に負わされた傷は、フィンの回復によって見る間に消えていく。



「悪い、助かった」

「いえ、聖堂騎士として当然の務めです。それで、シンヤさん。一体何があったのですか?」

「ガラの悪い奴に絡まれて戦闘が起こったんだが……その相手が俺の元の世界での知り合いだったんだ」

「えっ!?」

「説明は後でする。ピス」



 ピスを呼び出すと、妖精の姿で現れる。



「お呼びデスか?」

「ああ。ニヴァリスと繋いでくれ」

「ニヴァリス様に……デスか? 今は通じるかどうか……」

「とりあえずやるだけやってみてくれ」

「がってんデス!」


 とにかく何故大和田がいたのかをハッキリさせなければ、俺の気持ちが落ち着かない。


 何故あいつがいるのか。

 いるのはあいつだけなのか。

 誰が呼んだのか。




 ピスの方を見ると、モニターはノイズがかかっており、会話はできそうにない。




 ……そうだ。



「ビリー!」


 土の精霊剣が変化した指輪に呼びかけると、初遭遇の時と同じギラギラな格好のビリー……のホログラムが現れる。



「ヘーイ! どうしたブラザー? 今日はいつになくシリアスな顔つきだナ!」

「ニヴァリスの封印を可能な限り弱めてほしい。必要ならフォリウムを巻き添えにしても構わない。どうしても聞きたいことがあるんだ、頼む!」

「オーケーオーケー、オイラに任せとけ! ……と言いたいところだが、多分ショートなトークタイムになるぜ。アーユーオーケー?」



 段階的解除と長時間の会話は不可能、ってことか。



「分かった、それでも構わない。頼む」

「オッケェーイ! ちょいと待ってくれよナ!」




 ビリーが引っ込んだ後、ピスのモニターを注視する。




 ノイズが引いていき、モニターに随分とご無沙汰だった真っ白な女神の姿が露わになる。



「萩進也さん!」

「単刀直入に聞く。俺と同じ世界……しかも、向こうで生きていたはずの人間と遭遇したが、これは一体どういうことだ?」

「何ですって!?」


 ニヴァリスはそんな馬鹿な、といった表情をした。

 この反応を見るに、彼女にとっても想定外の事態とみえる。


「前にお伝えした通り、今の私は力を封じられていて、貴方以外に異世界から人を運ぶことなどできません。生きている人間であれば尚更です」

「じゃあ、何でこんな事が起こっているんだ?」

「それは、分かりません……ですが、私以外の神の誰かが異世界転生、あるいは異世界転移を行なったのは確かとみていいでしょう」

「そうだとしたら……そいつは味方なのか? それとも……」

「それは分かりません。ですが、私以外の……」



 ニヴァリスの言葉は、突如復活した砂嵐によって中断され、ピスのモニターから光がプツリと切れる。


 少しすると、ビリーのホログラムが申し訳無さそうに現れる。



「ソーリー……オイラの力じゃここまでだ。フォリウムの奴は腰がヘヴィだったもんでナ」

「いや、大丈夫だ、ありがとう」

「用がある時も無い時も、また呼んでくれよナ! シーユーネクストタァーイム!」



 ビリーのホログラムは消えた。



「さて、改めて説明しようと思う」

「……はい」


 フィンとトルカに対して、大和田との遭遇から逃亡までの経緯を語る。



「えっと……ニヴァリス様以外の神が送り込んだ、シンヤさんの元の世界での知り合いにである、えー……オーワダ? という人に襲われた……ということですか?」

「ああ、そういうことになる」

「どうして、その人はそんなことを……」

「まあ、対立していたんだよ。かつての世界で一悶着あったのさ」

「そういえば、何とかを潰された恨み……と言っていたデスね」


 俺は大和田が行ったいじめと、その証拠をかき集めて先生に直訴した過去を簡潔に話す。



「ただの逆恨みじゃないデスか!」

「ちょっと待ってください。シンヤさんの世界では、魔法も魔物も存在しないのですよね? だとすれば何故、自らを変質させるほどの力があるのですか?」

「詳しくは分からないが……異世界に来た時に送り主から授けられたんじゃないかと俺は考えている。少なくとも、元から持っていたものじゃない」

「……シンヤ、どうする? やっつけるなら、手伝う」

「捕まえて話を聞き出したいところだが……喋るとは思えないし、どこにいるかも分からないからなぁ……」

「とりあえず、遭遇しても大丈夫なように、これからは皆で行動しましょう」

「ああ、そうだな」



 大和田はこの世界をゲームと認識している旨の発言を行なっていた。

 集合場所にいなかった、という発言から、他にも日本から誰かがこちらに来ている可能性がある。



 誰が何のために大和田を異能力まで付けてこの世界に送ったのかは分からない。





 一体、何が起ころうとしているんだ……?





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