サブクエスト3 少女達の休日

この回は4-4、4-5の時間軸におけるフィンとトルカの話となります。




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 朝。




 フィンは起きてすぐに水場で顔を洗い、鎧を纏って鍛錬を行う。



 休暇中だが、彼女は宿屋以外ではいつも通り、きっちり武装していた。

 有事の際に備えるというよりは、それが無いと不安で落ち着かない……というのが彼女の心情であった。



 鍛錬を終えて宿屋に戻ろうとした時、白く光る鷹が肩に止まり、それは1枚の手紙へと変化する。

 レターバードという、遠方の相手に手紙を届ける魔法である。



 送り主はカルネリア家の長男であるジークヘルム。

 彼は現在、様々な事情で次男ディハンドと三男バルボディを護衛に引き連れて各国を渡り歩いている。






 ジークヘルムとフィンはレターバードを駆使して、連絡を取り合う仲であった。





 ベルデン王国の貴族達に奴らにはホブゴブリンかオーガの血でも混じっているのではないか、と言わしめるほど、代々怪物のような体躯を持つ人間を輩出し続けるカルネリア家。

 現在でもそのジンクスは続いており、6人いる現当主ディルファングの子のうち比較的マシなジークヘルムとフィンを除いた4人は見事に怪物のような体躯を引き継いでいる上、揃いも揃って脳筋揃いであった。


 フィンからしてみればジークヘルムは兄達の中で唯一恐怖心を持たず話せる存在であり、ジークヘルムからしてみれば後継者候補から外されるレベルの脳筋揃いの弟の中で唯一まともに話を聞いて理解してくれる癒しの存在であった。







 宿屋に戻ったフィンは、早速手紙を読む。


 ある事柄の調査が一段落すればカルネリアへ帰れる、という旨が書かれていた。

 フィンは直近の活動を書き記す。



「聡明なる理の女神よ、我が想いを遠方の兄上の元へお導きください、レターバード」



 手紙を書き終えると、フィンは手紙に魔法をかける。

 フィンが書き記した手紙は白く輝く鳩となって、空へ羽ばたいていった。



「フィン、今の、何?」


 フィンが鳩を見届けると、髪をくしゃくしゃにした、瞼の重そうなトルカが話しかける。


「レターバードという魔法です。遠くにいるお兄様にお手紙を届けていたところですよ」

「ふーん……」

「さて、支度しましょうか、トルカちゃん」

「ふぁーい……」



 夢うつつなトルカがフィンの膝の上に座ると、フィンは櫛を持ってトルカの寝起きの髪をとかしていく。



「トルカちゃんの髪はふわふわで可愛いですね」

「んー?」



 トルカは飼い主に撫でられる小動物のように目を細め、フィンも上機嫌で櫛を持つ手を動かす。




 几帳面な傾向にあるフィンに対してトルカはものぐさな傾向にあり、こうしてフィンがトルカの世話を焼くのは日課になっていた。




 フィンがこうして世話を焼くのは彼女が几帳面な部分も関係するが、それ以上に兄ばかりの家庭環境だった故に弟と妹の存在を欲していた部分が大きかった。





 仲間になりたての頃は接し方が分からないフィンの挙動不審さによってトルカに嫌がられていたが、旅を続けていくにつれて少しずつ距離を縮めていき、今では時折トルカの方からせがむ程になっている。

 フィンは自分でできるようにならなくちゃ、とトルカに言いつつも、満更でもない表情を浮かべていた。




「はい、終わりましたよ。トルカちゃん」

「ん、ありがと……」

「うふふ、どういたしまして」





 支度を終えて宿屋で朝食を取り、早速町へと繰り出す。

 眠そうにしていたトルカも、カモメの鳴き声と潮風、そして町行く人々の声によって、少しずつ目が冴えてきたのであった。





 マイティドッグの一件以降、トルカは他人に対して警戒心を抱くようになったが、シンヤと行動を共にするようになってからは徐々に軟化していた。

 フィンに対しては、自身とシンヤを救ってもらった恩義と、彼女の持つ雰囲気がなんとなく安心できたのと、いざという時は脅せば主導権を握れるという根拠の無い自信が合わさり、そこまで警戒心を抱いていなかった。


 脅せば主導権を握れるという自信は風穴の洞窟ので瓦解したが、行動を共にするにつれて、そのような手段を取る必要は元々無かったと考える程度には信用を得ていた。

 今となっては、トルカにとってフィンは姉に似た存在となっており、内気な性格からくる挙動不審さには眉をひそめながらも頼りにしていた。







 町に繰り出した2人は、はぐれないように手を繋いで散策を行う。

 戦闘から解放された2人の少女の足取りは軽かったが、側から見れば大柄な騎士と小柄な少女という奇妙な取り合わせであった。




 町を歩く中、フィンが足を止めたのはアクセサリーショップ。

 つられて足を止めることになったトルカは店とフィンを交互に見比べるが、フィンは店をじっと見つめたままその場から動く気配は無かった。



「行かないの?」


 不思議に思ったトルカが尋ねるが、返事が無い。




 フィンは悩んでいた。


 今の自分の格好では店員を怯えさせてしまうのではないか。

 男に間違われて追い出されないだろうか。

 見て回りたいが買わずに出るのは失礼にあたらないか。

 軽装で来るべきだったか。



 このような悩みが頭の中を占領して、フィンは二の足を踏んでいた。

 他人からすれば取るに足らない悩みであるが、彼女はそんな悩みで足を止めがちな人種であった。

 要するに優柔不断なのである。



「フィンー、フィーンー」



 トルカが繋いだ手を揺らすと、フィンはようやく我に返る。




「あっ……ごめんなさい。どうかしましたか?」

「行かないの?」

「えっと……あの……」



 煮え切らない態度に痺れを切らしたトルカは頰を膨らませ、フィンを引っ張って店に入る。


 どちらかといえばトルカは待つのが苦手な人種であった。






 店の中にはアクセサリーや小さい置物などが並べられており、店の奥からはほんわかした雰囲気を持った洞窟の民の店員が現れる。



「いらっしゃいま……わっ」

「こわくない、よ……」


 フィンに少し驚いた様子を見せる店員に、トルカは宥めるように言う。


「す、すみません、驚かせてしまって……」


 フィンは兜を外し、しゃがんで目線を合わせる。


「あ、いえいえ! ごゆっくりどうぞ!」



 笑顔で話す店員に、フィンは心を救われた気持ちだった。







「キラキラ……」

「どれも可愛くて素敵です……!」


 宝石が入った、様々なデザインのアクセサリーの数々。

 それらの一つ一つを手に取り、フィンは目を輝かせる。

 トルカもキラキラしたアクセサリーの数々に魅入ってはいるものの、フィンほど熱心には見ていなかった。


 フィンは可愛いものやお洒落なもの、華やかなものが好きな、いわゆる少女趣味の持ち主であった。

 トルカにもその傾向が無いわけではないが、どちらかといえば見た目より実用性を重視するタイプであった。


 さらに言えば、フィンはどちらかといえばオシャレをしたり、他人を着飾らせたりする事を楽しむ人間であったが、トルカは甘味に舌鼓を打つ事を1番の楽しみとする人間であった。







 この世界で作られるアクセサリーには、魔力の増強や伝達の流動化、秘めたる力を引き出す効果を持つものが多く存在し、女性冒険者をメインターゲットにするこの店でもそういったアクセサリーが売られていた。



 トルカは自分に見合う効果を持つアクセサリーを店員に聞き、フィンは見た目が気に入ったものを中心に値段と効果の書かれた札を見る。




 トルカは装備者を一度だけ守る効果を持つ白いお守りを即決で買い、フィンは緑色の宝石の付いた、天使の意匠が見える腕輪を15分ほど悩んだ末に購入を断念した。





「買わなくて、良かったの?」

「ええ、まあ……無駄遣いはよくないかな、と思いまして……ほら、持っていなくても困る事は無いじゃないですか」

「ふーん……」



 フィンは物を買う際に長考するタイプの人種であった。





 ……………………







 ………………












 次に2人がやって来たのは服屋。



 降星祭が近いのもあって、星や夜空の意匠が散りばめられた、煌びやかな衣装や可愛らしい衣装が展示、販売、貸し出しされている。



「フィン、あの綺麗な服、なに?」

「あれは降星祭用の衣装ですね。降星祭当日はあの服を着て、歌ったり踊ったりするのです」

「ふーん……」



 トルカは店内の商品をぐるりと見て、再びフィンの方を見る。


 トルカにとっての1番の幸福は甘いものを食べることだが、彼女も年頃の少女。可愛い服やお洒落な服に興味が無いわけではない。



「フィン、一緒に、着よう」

「わ、私ですか?」




 フィンは困惑した。




 恐怖を克服するために騎士学校では勉強と鍛錬に明け暮れ、幼少期のある時期を境に同年代の女子と比較して異様に優れた体格へと成長した彼女は、着飾って外を出歩く機会が少なかった。




 可愛い服やお洒落な服を着たい気持ちが無いわけではないが、その優れた体格をコンプレックスに思っている彼女にとって、着飾って外を出歩くのにはかなりの勇気が必要であった。




「着よう?」



 だが、曇りのない瞳で、上目遣いでそう迫るトルカの誘いを跳ね除けるのもまた、フィンにとっては心苦しいものだった。



 トルカにしては戦闘続きで着飾る機会があまり無かったため、折角だから2人一緒に……という単純な思いなのだが、フィンとしては葛藤を呼び寄せる結果となったのだ。



「わ、私には似合わないでしょうし、それに私が着ることの出来る大きさの服はおそらく無いかと……」

「あるわよ」

「うわぁっ!?」



 この店の店長であるボブカットの洞窟の民の女性が、突如2人に割って入るようにして現れる。


 フィンは驚き身構え、トルカは珍妙な顔つきで店長とフィンを交互に見る。




「全ての人には着飾る権利がある……着る服が無いなんて理由で1年に1度のおめかしを諦めるなんて、そんな勿体ないことはこのアタシが許さないわ」

「は、はぁ……」

「貴女も、本当は着飾ってみたいのでしょう?」

「そ、それは……そうですけど……」

「なら決まりね。ツロメちゃーん!」

「おいっすー!」



 奥から背の高い、猫の力を持つ草原の民の店員が現れる。


「この子に合う大きさの降星祭用の衣装を持ってきてちょうだい」

「了解っすおやびん! ほいじゃちょいと鎧を失礼するっすねー」

「えっ!? あっ、ちょっと!?」


 いわゆる猫耳と尻尾を生やした獣人種族である彼女は、巻尺を片手にフィンを店の奥に連れ、一瞬のうちに鎧を外して採寸をする。



「う、うぅ……」




 フィンにとって他人の目の前で鎧を着用しないという行為は非常に恥ずかしいものであったため、半泣きになりながら耐え、採寸を終えた後は自分が持てる力を全て使って全速力で鎧を着直した。





「これなら着れそうなのがあるっすね。じゃ、ちょっと待ってるっすー!」

「えっ……?」




 てっきり合うサイズが存在しないと思っていたフィンは、その発言に面食らっていた。



 フィンが自分でも分からない緊張と不安に駆られる中、トルカは洞窟の民の店長と共にやや広めの試着室で様々な衣装を試着していた。



「これはどうかしら?」

「かわいくない……」

「なら、これはどう?」

「腕、きつい……」

「こっちはどうかしら?」

「これに、する」



 トルカが選んだのは、明るい青を基調にした可愛らしいデザインのエプロンドレス。

 パーティードレスのような派手さは無いが、民族衣装のような雰囲気と可愛らしさを醸し出している。



「それじゃあ、あとはこれをつけて、と……どうかしら?」


 店員は花飾りのついたカチューシャをトルカに付ける。

 鏡の前の可愛らしく着飾った自分を目の前にして、トルカは目を丸くした。




「トルカが、トルカじゃないみたい……」

「カチューシャはきつくないかしら?」

「うん、大丈夫。フィンに見せて、いい?」

「あの背の高い騎士の方かしら?」

「うん」

「いいわよ。綺麗になったその姿を見せてあげなさい」


 トルカは試着室を出て、フィンを探す。

 周囲を見回していると、たまたま顔を出していた、ツロメと呼ばれていた草原の民の店員と目が合う。


「お連れさんなら今お着替え中っすよ。もうすぐ終わるんで、ちょーっと待ってほしいっす!」

「はーい」





 しばらくして、後頭部に夜空のような色のリボンをつけ、紺色を基調とした色合いのドレスを身に纏ったフィンが姿を現わす。

 それは清楚な雰囲気を出しつつも、どこか少女らしさを残した代物だった。

 恥ずかしさで少し顔を赤くしていたフィンだが、可愛く着飾ったトルカを目にすると、自らの事を忘れて綻んだ表情を見せる。



「似合う?」

「はい、よく似合ってますよ、トルカちゃん! とっても可愛いです!」

「フィンも、かわいい!」

「そ、そうでしょうか……」



 自らの格好を思い出し、照れと恥じらいで再び赤面するフィン。



「あら、よく似合ってるじゃない! 気品があって素敵よ」

「あ、ありがとうございます……」

「さて、すごく気に入ったなら購入してもらっても構わないけど、そう何度も着るものじゃないし、1日限りの貸し出しなら安く済ませられるけど、どうかしら?」

「でしたら、それでお願いします。日付は降星祭当日で」

「はーい、まいどあり。はいこれ予約券。当日持ってきてちょうだいね」

「分かりました、ありがとうございます」






 料金を先に払っておき、元の服に着替えて店を出る。





「もうすぐお昼時ですね。昼食にしましょうか」

「パンケーキ!」

「ふふ、それは食後に食べるものですよ?」



 トルカとフィンが食事処を探していると、




「あっ、貴方達は確か……あの黒髪の子のお連れさんね?」



 ニルスの相方である、槍を背負った兎の草原の民が2人に声をかけた。


「貴女は……」

「変なやつの隣にいた、兎のおねえちゃん!」

「あー……まあ確かにアイツは変な奴だけどさ。私はキャロルライン、長いからキャロでいいわよ」

「えっと……キャロさん、何かご用でしょうか?」

「いや、何でもないわ。見かけたから声かけただけ。別に一緒にご飯食べに行こうなんて……あっ」


 しまった、と言わんばかりの表情をするキャロの顔を、トルカが下から覗き込む。


「行きたいの?」

「う、うん……」

「じゃあ、一緒に行きましょう」

「し、しょうがないから私のオススメを紹介してあげるわ!」


 照れ隠しに上から目線になるキャロであった。




 ……………………





 ………………





 キャロが案内したのは、山羊の力を持つ草原の民が店主を務める、やや上品な雰囲気の漂う店。


 店内は酒場と違ってあまり騒がしくなく、女性客や魔法使いの客が多数を占めている。



 キャロは野菜スープと野菜のスティック、トルカはサラダとパンケーキ、フィンはコンソメスープとミートパスタを注文し、それらにありついていた。


「静かでいいでしょ、ここ。ちょっと高いけど、ご飯もデザートも美味しいし、突っかかってくる奴もいないし、快適よ」


 キャロの言葉にトルカは首を傾げ、フィンは何かを察する。


「突っかかる……?」

「あー、アンタは知らない方がいいわ。知らない方が良い事ってのは、世の中にはあるのよ」

「ふーん……」



 トルカはサラダを頬張る。



 魔物の中には、草原の民の獣人態と似た姿の魔物が幾らか存在する。

 そのため、魔物の仲間として差別的な目を向ける者が少なからずいた。

 また、大きな力を秘める彼らを弾圧したり、奴隷化したりする存在もいた。



 400年程前はこうした動きが活発であったが、あちこちで起こった武力抗議や平等条約の締結、魔物の活性化によって徐々に鳴りを潜めたが、こうした動きが完全に消滅したわけではなかった。



 シンヤとトルカはこの背景を知らず、フィンの身近には草原の民を蔑視する人がいなかったために蔑視の起こり得る理由は無いに等しいのだが、キャロにしてみれば、理由が何であれ普通に接してくれるのが嬉しかった。



「ま、そんな事よりも食事を楽しみましょ。女の子だけでこうして食事するの、ちょっと憧れてたの」

「そうですね」

「……ねぇねぇ」



 サラダを完食したトルカが、キャロに話しかける。



「キャロは、なんであの変なやつと一緒にいるの?」

「あー、アイツね、変な奴だけど一応アタシの命の恩人なのよね。助けてもらった時はかっこよく見えたけど、まさか無属性しか使えない魔法使いとは予想外だったわ」

「そうなのですか?」

「そうらしいわ。あそこまでマジックミサイルに入れ込んでるのも、それなのかも。それよりもさ……」



 キャロはそこまで言うと一呼吸置く。

 トルカはパンケーキを食べながら、フィンは5皿目のミートパスタをフォークで巻き取りながらその様子を見る。



「アンタ達って、どっちがあの黒髪の子の事狙ってるの?」

「?」

「えっ?」



 トルカは首を傾げ、フィンは巻き取る手を止める。





「私はそのようなつもりはありませんが……」

「そう? 彼結構イケメンだし、誠実そうだけどなぁ」

「シンヤさんはあまりそのような事を考えていないと思いますよ?」

「へぇ……じゃあもし考えていたら?」

「そう言われましても……」


 フィンは困った顔をする。



 フィンとしては、努力を怠らず、ひたむきに頑張る姿や、それとなく自身を気遣ってくれるシンヤに年下ながら尊敬の念と友人としての好意は少なからずあったものの、自身から見て色々と謎が多い存在である彼に少し警戒心を抱いていた。


 また、自分が年上にも関わらずしっかりしていないという根拠のない観念が自身の中にあり、表向きは優しく接していても裏では面倒に思われているのではないかという考えがあり、それが様々な要因と結びついて関係の発展にブレーキをかけていた。





「アンタはどう?」

「うーん、シンヤのことは、好きだけど、好きじゃない……」

「どういうこと?」

「信頼しているけれど、恋愛的な感情は持っていない……ということでしょうか?」

「多分、それ……」

「へぇ、貴方達意外とあっさりしてるのね」




 トルカとしては、シンヤに助けられた事や、魔法使いとして戦える程の命中率に改善するために協力を惜しまない事、自身を大事に扱ってくれている事は大いに感謝しているし、そんな彼を好いてもいた。

 だが、それは友人として、兄代わりとしてという意味であり、異性として好きかというとそれは全くの別問題であり、異性としては特段好きでも嫌いでもなかった。




「キャロは、マジックミサイルばっか言う、変なやつのこと、好きなの?」

「わっ、私は別にそんなのじゃないし! 助けてくれたのは嬉しかったけど、別に好きとかは……そ、それよりも、あんた達は何であの黒髪の子と旅してるの? 教えて教えて!」


 キャロは顔を赤くし、早口になる。



「トルカは、シンヤに、助けられた。帰るところも、分からない。そんな時に、誘われた。だから、ついていく……」

「へぇ、私と似たような感じなのね。アンタは?」

「私も、シンヤさんとトルカちゃんに救われたのが出会うきっかけでしたね。旅に同行した理由は色々ありますが……1番は、自分を変えたかったから、でしょうか」

「へぇ、自分を変えたいなんて、中々良い心がけじゃない」

「そ、そうでしょうか……?」

「ねぇねぇ、キャロは変なやつの事、好きなの?」

「そっ……それはもういいでしょ!」

「えー知りたーい」

「ま、また今度話してあげるから! ね?」

「今知りたいなー」

「トルカちゃん、ほどほどに……」

「やー」








 3人はその後も食事を談笑を楽しんだ。




 ……………………





 ………………





「ごめんね、付き合ってもらって。じゃあ、私は行くところあるから、これで。バイバイ」

「私もお話しできて楽しかったです。ごきげんよう」

「ばいばーい」



 キャロと別れた2人は、再び町を散策する。




 吟遊詩人による弾き語りに聞き入ったり、海を眺めてみたり、服やアクセサリーを見て回ったり、見知らぬ冒険者が行っていた手合わせを見学したり、露店の食べ歩きをしたり……



 冒険者ではなく、2人の少女として、観光を楽しんだ。







 ……………………






 ………………





 夕方。




「今日は楽しかったですね、トルカちゃん」

「ん……」

「お疲れですか? よろしければ、宿屋までおぶって差し上げましょうか?」

「うん……」




 歩き疲れたトルカを背負い、フィンは宿屋へと戻ったのであった。 





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