クエスト4-5 めぐりあい(後編)

 






「お前、俺の親父の店の前で何をしている?」



 食事処『野良犬』にて、念願の米を食すことができ、大満足の俺。



 店を出た俺たちの前に現れたのは、かつて剣を交えた相手、ラガード・ワイラー。




「親父の、店……?」


 ということは、あのおやっさんの言ってた馬鹿息子が、こいつ……?




「そもそも何故貴様がここにいる? ニーナナイの町で船に乗った時に貴様を見かけた覚えは無いがな」

「そりゃそうさ、俺達は陸路で来たんだからな」


 喋りつつピスの前に立つ。


 戦闘においてピスが出来るのはフラッシュ程度だし、攻撃手段は無いに等しい。

 万が一戦闘に突入すれば危険だ。



「陸路……フフ、ハッハッハッハ……冗談も大概にしておけよ雑魚め、お前ごときにサンドラールが越えられる筈がない!」



 ラガードは歪んだ笑みを見せる。

 かなり舐められているな、これは……



「俺1人ならそうだったろう。だが、俺には仲間がいるんでな」

「仲間? はっ、笑わせる。所詮お前は他人頼りの寄生虫、ってわけだ」

「何とでも呼べ、お前はその寄生虫に負けたのだからな。お前こそあの2人の仲間はどうした?」

「仲間ぁ? あんなものは仲間ではない、ただの手駒だ。いらない手駒を持つ理由など無いだろう?」



 こいつ、どこまでも落ちぶれてやがるな。



「それに、仲間が何だというならあのチビはどうした? どうせ捨てたのだろう? いや、捨てたられたかぁ?」



 おーおー煽る煽る。


 だがこちとらもっとタチが悪い奴に死ぬほど煽られた経歴持ちだ、この程度は屁でもねぇ。

 レベルが低いんだよレベルが!



「何なのデスか貴方は! シンヤ様と面識があるようデスが、さっきから聞いていれば侮辱に次ぐ侮辱! 貴方がシンヤ様の何を知っているのデス!」

「ピス、待て。お前が何でヒートアップするんだ」

「シンヤ様が努力を重ねた姿を知っているからデス! シンヤ様、ここはガツンと1発やってやりましょう! こんな努力を忘れた口だけ野郎なんかに、シンヤ様は負けないのデス!」



 ピスの言葉に反応し、ラガードが剣を抜く。



「ほう、やってみるか? お前ごときに負ける道理など存在せんがな」



 剣を抜いた音と姿‎に反応したのか、野次馬が増えてきた。



「何だ何だ?」

「決闘か?」

「あれはクルセイドの新人と……もう1人は誰だ?」

「あっちはシャークファングの元メンバーじゃね?」

「あいつ見たことあるぞ! ラガードだ!」

「ラガード? 待てよ、聞いたことあるぞ……」




 冒険者というものは喧嘩を観るのが好きらしい。

 あっという間に俺達を取り囲んで、即席のコロシアムが出来上がる。

 そしてそれは、逃げ場が無くなる事を意味する。




「やるしかねぇか……」



 俺も剣を抜くと、周囲がざわつき始める。

 決闘を承諾し、これから戦いが始まることに興奮しているのだろう。



「ボクも一緒に戦うのデス!」

「お前フラッシュしか使えないだろ。やるなら妖精態でやれ」

「がってんデス! ……あ、シンヤ様」


 ピスは唐突に耳打ちする。


「どうした」

「人前で変身する時は魔法っぽくした方がいいデスかね?」

「おそらく」

「がってんデス」


 ピスは一歩下がると、詠唱を始める。



「えー、あー、我が身は真実にして虚構、我が姿は一つにあらず! トランス・オリジン!」



 そこからバック宙をし、デジタルチックなエフェクトを纏って妖精の姿に戻る。



「変身した!? 草原の民でもないのに!?」

「まるで妖精みたい!」

「クルセイドの新人、かなり恐ろしいな……」



 何か全部持っていかれてる感。まあ注目浴びるのも良し悪しだし、気にしても仕方ないか。




「ふん、そんな姿になったところで何の意味がある。あの時のように2人まとめて叩き潰してやる」




 ラガードは剣を構える。





 フィンと比較すれば大したことはないが、こいつも戦士だけあってそれなりにガタイはいい。間違いなくステータスは全部俺の方が下だろう。


 この先こんなケースが10割になる以上、ここで打ち勝たなければ一生トルカとフィンにおんぶに抱っこ、非力さと罪悪感で延々と苦しみ続ける。いやその前にファフニールで詰む。


 つまり、ここで勝てるかどうかが冒険者としての分水嶺……負ければ終わり!




「やってみろよ、お前なんざ俺1人で十分だ」

「シンヤ様!?」

「ピス、ここで勝たなければ、俺はこの先誰にも勝てないんだ……頼む」

「……がってんデス」



 ピスは高度を上げ、ラガードの剣の届かない所で俺を見守る。







 静かに剣を構え、相手となるラガードを見据える。

 ラガードは幅広の剣をやや猫背気味に構える。テニスの構えっぽい感じと言えば分かりやすいだろうか。





 ……あいつあんなフォームだったか?















 ラガードの構えは、フィンと比較すると隙だらけだ。

 構えの時点で詰みゲーの匂いがするフィンと違って、打ち込めそうな箇所がいくつかある……気がする。

 後は俺次第か……






 神経を研ぎ澄まし、ラガードの一挙手一投足に集中する。




 タイマンの時は何があっても敵から目を離すな……フィンはそう言っていた。






 周りの雑音がどんどん消えていく。





「おらぁぁ!」

「はぁぁぁ!」






 俺とラガードは同時に飛び出し、剣で打ち合う。






 パワー差がある場合は受け止めるより受け流すか回避に徹するように、というフィンの言葉を思い出す。


 悲しい話だが、まともに張り合って勝てる程のパワーは俺には無い。










 不思議なことに、ワーテルで対峙した時よりも奴の挙動が遅く感じる。





 何というか、奴の動きが0.8倍速くらいに見えるのだ。








 攻撃においてはパワー不足が足を引っ張って思うように攻撃が通らないが、防御においては攻撃をかわしたり受け流す余裕が出来ていた。





 攻撃をかわし、受け流し、隙をねらってぶち込む……!



 どう攻めても打ち崩せなかったフィンに比べれば、この程度は余裕だ!








「小癪なぁ!」






 奴の剣による攻撃が1度止まる。



 これは……膝蹴りか!



「その手はワーテルで通った道だ!」







 ラガードの繰り出す右膝蹴りをサイドステップでかわし、そのまま背面に回り込む。







「そらっ!」





 左足の太腿を狙って一撃を叩き込む。基本は……足!



「くっ!」




 手ごたえはあったが、ラガードは怯んだ様子を見せない。



 やはりパワーが足りないか……!




「この野郎!」



 ラガードは軸足を変え、反転して斬りかかる。



「しまっ……!」



 流しきれず、剣先が頰を掠める。





 頰に痛みと熱が走る。




 だが、この程度なら何ら問題は無い。







 次々と飛ぶ攻撃を受け流し、打ち合い、切り結ぶ。







 何度も響く金属音。





 お互いにどんどん増えていく傷。






 どんどん消耗していく体力。












 だが、俺の心は落ち着いていた。






 死闘に次ぐ死闘のせいか、それとも1ヶ月に渡るフィンとの特訓の成果か、あるいはファフニールによる蹂躙か。



 原因は分からない。


 湧き上がる興奮も、恐怖もあった。高鳴る鼓動も感じられた。




 しかし、頭はスッキリしていた。雑念は消え、目の前の敵に集中できた。







 10回、20回、30回……





 何度も何度も剣を打ち合い、流し、斬り込む度に、ラガードの動きが見えてきた。




 次にどう出るかが分かってきた。





「くそっ、何なんだ貴様は! 雑魚は雑魚らしく倒れろ!」

「言いたいことはそれだけか」

「黙れ!」




 剣を両手で持った、大振りの一撃。






 飛び込むように回避し、脇へと回る。




「!?」




 低姿勢から飛び上がり、下から上へ一気に斬り上げるアッパーカットのような斬撃は、ラガードの脇腹から背中にかけて大きな縦一文字を刻みつける。




「ぐっ!? 貴様ぁ……!」




 袈裟懸けのような斬り返しを受け損ねて手痛い傷を負うが、ぐっと堪えてもう一撃を叩き込む。






「ぐおっ!?」

「ハァ……ハァ……」




 かなりダメージを与えたつもりだが、度重なる打ち合いでこちらもスタミナが残り少ない。






「こうなったら……俺のとっておきで葬ってやる……覚悟するがいい」






 ラガードは腰を落として剣を構え直す。





「コォォォォ……」





 剣に魔力と思われるものが集まって白く発光する。


 ならば……!







「ファルコンソード!」




 剣を納めてファルコンソードを呼び出し、居合の構えを取る。








 奴が出すのはおそらく遠距離攻撃。





 それならば、カマイタチを出して攻撃を相殺し、プッシュ・ウィンドでかっ飛んで蹴り飛ばす。


 もし直接攻撃でも時間稼ぎにはなるだろう。







 要は力のぶつけ合いに見せかけたフェイント作戦、というわけだ。







「ガルムブレード!」

「カマイタチ!」





 奴が放った凶暴な犬の頭の形をした衝撃波と、俺が放った三日月型の衝撃波が衝突し、爆発を起こす。





「プッシュ・ウィンド!」





 間髪入れずに地面に向けてプッシュ・ウィンドを放ち、巻き起こる煙の中に突っ込む。







「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 ファルコンソードを送還し、勢いを利用してキックを叩き込む。


 ワールヴェントの時‎にやった、高速突貫の応用だ。






「ぐぉっ!?」




 俺の蹴りはラガードの胸に突き刺さるようにヒットし、奴を吹っ飛ばす。





 転がって着地の衝撃を逃し、立ち上がる。




「ハァ……ハァ……どうだ、ラガード……!」

「貴様……!」




 身体を起こそうとするラガードを見つめ、剣を抜き、構える。



「お前のとっておきとやらは既に見切った。まだやるか?」


 これ以上の継戦は不可能だ、あとはハッタリ勝負……




「……ぐっ……!」





 ……と思った矢先、ラガードが起き上がれず倒れた。




 ……勝てた。



 精霊剣は使ったが、トルカやフィンやピス、皆の力を借りず、1人で。


 少しは強くなった……のかな。




「何故だ……」

「?」



 ラガードは地面に大の字になったまま話し始める。




「何故俺は負けた……俺の方が……強いはずなのに……体格もお前よりある……レベルも20……なのに……」

「強くなろうという意思を忘れ、ただ格下の冒険者を虐めていただけのお前に、努力を重ね続けたシンヤ様が負ける理由など、存在しないのデス! イチから鍛え直すか、家に帰って家業を継ぐのデス!!」

「そういう事だ、ラガード。さて、行くぞピス。薬草もくれると助かる」

「がってんデス!」



 身を翻し、歩き出す。

 努力を超越する才能は存在する……が、それを奴は持ってなかった、それだけだ。

 まあ、トルカといる時に鉢合わせしてトルカのトラウマを掘りを起こさなかっただけマシとするか……





 まばらに歓声と拍手を送る人混みを裂くように通り抜け、その場を後にした。




 ……………………







 ………………








「とんだ無駄足を食ったものだな……」


 ラガードを退けた俺は、様々な店が立ち並ぶ通りに来ていた。

 ピスも人間態に戻っている。


「シンヤ様! 先程の勝負、お見事デス! 奴の奥義を真正面から潰すとは、流石デス!」

「そうは言っても辛勝だからなぁ……せめてファルコンソードを使わずに勝ちたかったが……」

「扱いにくいあの剣をあれだけ使いこなすだけでも、ボクは凄いと思いますデスよ?」

「それだけじゃ駄目なんだよ。その手の武器を封じるファフニールに勝つためにはな……話は変わるが、お前服が欲しいとか言ってなかったか?」

「む、確かに言いましたデス! でも、かっこいい武器も欲しいデスね!」

「だったら買いに行くか……ん?」



 通りを歩いていると、見知った顔に出くわす。


 あれは確か……マジックミサイル野郎の……やべぇマジックミサイルの印象が先行して名前が出てこねぇ!

 そういや兎耳の女槍使いはいないな。



「よう、また会ったな」

「お前は……」

「そう、俺は人呼んでマジックミサイルの伝道師、ニルス・バンカード!」



 ああ、そうだ。ニルスだ。



「マジックミサイル……デスか?」



 あっ、長話の予感。



「そう、マジックミサイル! 無属性初級魔法であり、魔力を持つなら誰にでも使える魔法だ! 標的をどこまでも追いかけ、無属性故に通らない魔物は存在しない! 凄いだろう?」

「おお……! すごいのデス!」

「ふふふ……そう、マジックミサイルは極めて優秀な魔法だ。にも関わらず魔法使い達に見向きもされない。おかしいとは思わないか?」

「た……確かに、見たことがないのデス……」

「ふむ。君は中々分かってくれる人のようだ。これを授けよう。マジックミサイルの魔導書だ。丸暗記した俺にはもう必要無いものだが、君ならば役立ててくれるだろう」

「あ、ありがとうございますデス!」



 同調した……?



「何でもいいけどお前ここで何やってんだ? 相方はどうしたよ?」

「休暇みたいなものだ。お前こそ、あの2人の女性はどうした?」

「お前と一緒だよ。今はこいつ……ピーステールの武器と服を探しに行くところさ」

「ほう、魔法使いの武具か……ならばマジックミサイルの伝道師であるこの俺に任せてもらおう」

「ありがたいけどそれいちいち言う必要ある?」



 微妙に信用ならないが、魔法使いの装備は魔法使いに聞くのが一番だろう。

 ここは頼っておくか。




 ……………………





 ………………




 というわけでやって来ました武器屋です。


 武器が所狭しと並ぶ光景にもすっかり慣れてしまいました。

 ピスは大はしゃぎです。



「魔法使いの武器といえば魔導書か杖だが……ピーステールと言ったかな?」

「はいデス」

「ギルドカードを見せてもらったが、レベル1であの数値なら将来はかなり有望だ。スタンダードにウィザードスタッフでもいいが、変わり種もありだな」

「おお、なんだかかっこよさそうデス!」

「ならばこの2つがオススメだ。このフォースワンドは魔力を力に変換し、こっちのスルードダガーは魔力の刃を形成できる」

「この2つの武器の違いは何デスか?」

「フォースワンドは物理攻撃、スルードダガーは魔力を伴った攻撃だ。魔法と似たようなものさ」

「ふむふむ……」



 ニルスがピスの装備を見繕う間、俺は剣を見る。

 いくつか持たせてもらったが、魔力がいるか重いかのどちらかなので更新は見送った。



 ピスはフォースワンドという銀色の杖を選んだようだ。






 続いて防具屋に寄る。


 店主に下に鎖帷子を着込んでみてはどうか、と言われたので、試しにやってみた。

 少々重いが、防御力の向上に期待できそうなので採用、そのまま購入した。


 ピスはというと、緑色のコートと羽帽子を買っていた。

 あまり話し込んだ様子が無かった辺り、ほぼ即決と見える。






 店を出てからも、しばらくニルスと共に付近をぶらついていた。




「ところで黒髪の、お前の名前はまだ聞いたことが無かったな。名前は?」

「シンヤ。シンヤ・ハギだ」

「シンヤか……。なあシンヤ」

「何だ?」

「お前、魔法使いのおチビちゃんとデカい盾を担いだ長身のお嬢さん、どっちを恋人にしたいんだ?」

「えっ」





 えっ












 えっ?






「その様子だと、まだ決めきれていないようだな。優柔不断な男は嫌われちまうぞ?」

「いや、あの」



 待って



「両方とも娶るつもりなら腹くくれよ? 一夫二妻の結婚は認められてはいるが、妻同士の仲が良好なのと、夫が2人を平等に愛することが条件だからな。そんでもって一夫二妻は三大神様の真似事だ。ちゃんと出来なきゃ神罰が下るらしいぜ」

「えっ」



 一体何を








「ま、あのおチビちゃんは15超えてなさそうだし、手を出すのにはちと早い年齢かもしれんな。どちらにせよ、半端な態度は失礼、ということを覚えておけ。じゃあな」







 ……あいつ言うだけ言ってどっか行きやがったぞ。








「次はどこへ行きますデス?」

「……釣りでもしよう」

「がってんデス!」






 ……………………







 ………………





 恋……人……俺と……あの……2人の……はっ!?







 釣り場と化した波止場の一角へと赴き、スタッフに料金を支払って釣竿と餌を受け取り、冒険者や釣り人に混じって釣りをする。

 釣った魚を料理できる施設もすぐ近くに備わっていたので、釣りたてを焼いて塩振って食うのもありだな。





 ピスにやり方を一通り教えて、2人並んで釣り竿を海へと向ける。



「あとはどうするのデス?」

「獲物がかかるまでじっくり待つ」

「がってんデス!」





 波の音に耳を傾け、じっと獲物を待つ。



 かつて親父と釣りに行った時はそうやって釣りを楽しんだものだが、今はそれどころではなかった。





 ニルスの言ったことが頭の中をグルグルしていたのだ。




 考えたことなど無かった。いや、生き抜くのに必死でそんな余裕は無かった。




 トルカは何だかんだ素直で可愛いし、フィンの物腰柔らかで清楚な感じも大変魅力的だ。

 見た目に関しても2人にそれぞれ良さがある。言葉にすると纏まらないので詳細は省く。



 だけどトルカは妹的な感覚だし、実感が湧かない。

 対するフィンも高嶺の花って感じだし、あいつは貴族だ。手を出せば今後何かしら面倒な事が起きそうな気がする。



 そもそも、それ以前に今の俺では劣等感に潰されて心が死ぬ。





 失望されるんじゃないかとか、似つかわしくないんじゃないかとか、そういった考えが常に付き纏う。戦闘面で負んぶに抱っこな今の状況でも少なからずそう思っているんだ、深く付き合えば加速するに決まってる。

 たとえ2人が許してくれても、俺が許さない、許せない。





 でもそれが無くなって、2人に並び立てるようになったら?

 そうなれば、俺の心にも変化が訪れるのか?



 俺は……



「シンヤ様! 何か竿が引っ張られてますデス!」

「かかったか! よし、しっかり持て! それからリールを……あっリール無いのかこれ、一気に引っ張り上げろ!」

「こ、こうデスかっ!?」



 ピスの持つ竿の釣り針には、1匹の魚が食いついている。




「おお、これが魚釣りデスか! これは楽しいデスね!」




 それは決して大きくはなかったが、ピスは大喜びだった。




「よーし、たくさん釣って、たくさん食べるのデス!」

「さっき飯食ったばかりだろうに……」





 何にせよ今の俺に色恋沙汰に足を突っ込む余裕はないので、考えるのをやめ、釣りに没頭することにした。




 水平線と入道雲を眺め、波の音を聞き、魚を釣り上げる。


 そんな穏やかな午後を過ごした。




 ……………………





 ………………






 日も暮れ、釣りをたっぷり堪能した帰り道。




「いやー、楽しかったデスね! シンヤ様!」

「ああ、俺も久々に釣りを満喫したぜ」


 宿屋へ向かう最中、ピスは唐突に立ち止まって世界の終わりみたいな顔で俺を見る。



「どうした、急に……」

「お魚……食べてなかったデス……」

「そんな顔して言う事でもないだろ……」



 お魚と呟くピスを引っ張って帰り、その日の活動を終わりとした。

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