クエスト3-10 ピーステール・フォリア

 


 プッシュ・ウィンドの風圧を利用し、一気に飛びかかる俺。



 グリフォンは火球で迎え撃つ。




「シンヤさん!!」

「シンヤ!」



 放たれた火球がすぐ脇を掠め、太陽に肉薄したような灼熱が通り過ぎる。

 掠っただけなのにプロテクションが一気に破損する辺り、直撃すれば……



 滴る汗が蒸発するのを感じながら、グリフォンを見据えて大きく剣を振りかぶる。






「うらあぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」



 落下する勢いを利用し、滑るようにしてグリフォンの肩から背中にかけて一気に切り裂く。



「しまっ……!」



 が、勢いが強すぎて着地をしくじり、ド派手に転がるハメになってしまった。



 あ……頭が……グルグルのグワングワン……熱で焼けた肌が……痛い……






 ふらつきながらも立ち上がると、目の前には怒りに燃える瞳でこちらを見つめるグリフォンの姿。



「貫け、白き凍原の矢よ! フロスト・アロー!」



 蜘蛛糸で絡め取るかのようにして、トルカはグリフォンの両翼を凍らせていく。



「やぁぁぁぁぁ!!」



 氷で重くなって地面に敷かれた翼を、フィンが根元から切断する。



 翼を落とされたグリフォンは怒り狂い、フィンに前足を振りかざす。

 鋭い爪による攻撃は、盾を構えたフィンを大きく弾き飛ばす。





 再びファルコンソードを展開し、先程と同じくスラスター代わりにして、フィンに追撃態勢を取るグリフォンめがけて飛ぶ。

 ファルコンソードを即座に送還し、勢いそのままに蹴りを放つ。


 ライダーキックさながらの蹴りはグリフォンの首筋に命中し、奴を横転させることに成功する。



 そして俺は派手に着地失敗する。

 あ……あ……足が……





「シンヤさん、大丈夫ですか!?」

「……ちょっと打ったが、問題ない。それより今のうちに仕留めるぞ」

「そ、その前に……偉大なる力の神よ、か弱き我らをお守りください! プロテクション!」

「すまない、助かる!」



 ここで一気に畳み掛ける!


 起き上がろうともがくグリフォンとの距離を詰めた瞬間、








「っ!?」







 プロテクションが割れ、風圧で吹っ飛ばされる。



 な、何だ!? 何が起こった!?




 攻撃が届く前にグリフォンが態勢を立て直し、鋭い爪を振り回した事に気付いたのは、その攻撃を受けて倒れた後だった。





 体勢を立て直そうとすると、前足を振りかぶったグリフォンが目の前にいる!




 まずい……!




「プッシュ・ウィンドォォォ!!!」



 一か八かで放ったプッシュ・ウィンドは俺の身体を遥か高くまで飛ばす。

 グリフォンがフィギュアのように小さく見える。



 そのままファルコンソードを送還し、サンドサーベルを両手で持って突き刺す構えを取る。




 あとはこのまま自由落下の勢いで脳天直撃するだけだああああああ!!!!




「うらああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」




 全体重を乗せた一撃は頭頂部に直撃し、深々と突き刺さる。

 もげてしまいそうなほどの強烈な衝撃が両腕を襲い、衝撃で身体がぐわりと揺らぎ、バキンと音がして身体は地面に落下する。



 サーベルが折れた。




 一歩も動けねぇ。

 落下の衝撃で骨もやっちまったみたいだ。




 トドメを刺せていなかったら、終わりだ……




「集え我が魔よ、氷となりて全てを砕け! ブリザー!」




 トルカの声が遠く聞こえる。




 グリフォンの頭上に氷塊が落ち、砕ける音と俺の頭くらいありそうな氷片がドサドサと降ってくる。


 グリフォンはよろけ、千鳥足で右に左にふらつき、轟音と共に地面に倒れる。



 勝った……のか?





「シンヤさん、今治療します! 慈悲深き命の女神よ、かの者に癒しをお恵みください! ヒール!」



 フィンが手をかざした箇所の痛みがどんどん引いていき、ぼやけた意識も徐々にはっきりとしていく。



「すまない、助かった」

「いえ、私こそお役に立てなくてすみません……」

「何言ってんだ、フィンがプロテクション張ってくれなきゃ2回くらい死んでたっての」

「はっはっは、やるじゃないか君達!」



 身体を起こすと同時にアルサルの声が響き渡る。



 直後、倒れたグリフォンの口から赤色の煙が吹き出し、それは人間の姿を形取る。


 何というか、ランプの魔神と千夜一夜物語の主人公の姿が混ざったような見た目だ。




「私のこさえた特別なグリフォンを倒すとは、中々の腕前だ!」



 通常と違う個体だったか。



「シンヤ様ー! ご無事デスかー!?」

「シンヤ! ……なにこれ」



 飛んでくるピスと駆け寄るトルカ。

 トルカの方はアルサルの姿を見るなり怪訝な顔をする。



「さて、君達の中から1人だけ1つ願いを叶えてやろう。質問は受け付けるが願いを増やすなんてケチくさいのはアウトだ。よーーーーく相談したまえ」

「1人1つじゃねぇのかよ」

「私の力を超えているからね。色々あって願いを叶える魔人と融合してしまったのだが、まだ上手く使いこなせんのだよ」

「そんな調子で願い叶えられるのか……?」

「それを今から試す!」

「実験体かよ!」

「まあまあ、よくよく相談することだな。闘争に発展した時は審判を務めてやろう」



 アルサルを一旦放置し、俺達は輪になって話し合う。



「どうする?」

「私は……辞退します。大した活躍もしてないですし、それに……私の願いは、私自身の力で成し遂げなければ意味の無いものですから……」

「いいのか?」

「はい」


 死地を救っておきながら活躍無しってのはおかしな話だが……まあ願いがそういうことなら余計な事は言うまい。



「願いについてはともかく、俺はフィンに助けられたんだ。プロテクションが無ければグリフォンの一撃でやられていた。だから自身の事を悪く言わないでくれ」

「……ありがとうございます。ごめんなさい、気を遣わせてしまって……」

「いいさ、人は助け合いだ。そもそも俺なんかステータスがこんなだからロクに……」

「私は惚気をしろと言った覚えは無いぞ」



 突如アルサルが目の前に現れる。




「うるせぇんだよ黙って待ってろ!!」

「おお、怖い怖い」


 クソっ、男女が話せばやれ惚気だ恋人同士だって騒ぎやがって。俺はそういうバカみたいな恋愛脳が大っ嫌いなんだよ!



「っと、横道に逸れたな。んじゃ願いを1人ずつ言っていくか。トルカは何だ?」

「甘いもの、いっぱい……」


 ……そんな気はしてた。



「それくらいならまた今度してやるからもっと別のものをだな……」

「本当!? シンヤ、する!?」



 トルカの目が輝く。



「ああ、するさ」

「じゃあ、シンヤにあげる!」

「え、俺?」

「シンヤ様は皆様をここまで引っ張ってきたのデス。シンヤ様が願いを叶えるのは、十分理にかなっていると思いますデスよ?」

「いや、でも……」

「私も、ピスさんと同じ意見です」

「……ピス、いいのか? 前に言ってたこと……」

「大丈夫デス! シンヤ様の願いの方が大切デス!」



 そうまでして推薦されると流石に断れないな……




「決まったか?」

「ああ。アルサル、魔王の呪いによってレベルアップで上がっていない分のステータスを上げてくれ!」

「よかろう。はあっ……」



 アルサルが目を瞑り、詠唱を始める。



 ああ、クソ雑魚ステータスに悩まされる日々もひとまず終わりを告げ……



「すまん」

「……えっ?」

「それは私では解呪できん。よってその願いは私の力を超えている。他のにしたまえ」

「……」



 はーーーー!! やってらんねぇ!!!




「ピス、お前が願いを叶えろ。俺はもう知らん! もう何もかもどーでも良くなった!」

「し、シンヤ様……?」



 持ってたサンドサーベルの柄を全力で投げ捨て、地面に大の字になる。

 もう答える気力すら湧かない。


 なーにが願いを叶えるだくそっ。解呪もできねぇのかよくそっくそっ。




 あーあ、俺は運命とも戦わなくちゃいけないのか。




「で、ではアルサル様……ボクを人間にしてほしいデス!!」

「よかろう。はあっ……」




 アルサルは目を瞑り、詠唱を始める。





 無数の光がピスを包み、その光が徐々に大きくなり、人間大のサイズになる。




 光が消えた時にそこにいたのは、ピスの身体と同じ黄緑の長髪に赤色のヘアバンドをし、水色の瞳を持ち、吟遊詩人のような格好をした、美男子って感じの青年。

 耳はトルカと同じエルフ耳で、身長は180くらいありそうだ。




「願いは叶えてやった。私は次の冒険者に備えるとしよう。さらばだ!」




 アルサルはそう言うとグリフォン共々消えてしまった。





「ピス……なのか?」

「はい、その通りでございますデス!」


 寝転んでる場合じゃねぇ、本当に成功しやがった!



 元の少年っぽい声は若干のあどけなさを残しつつも、しっかりと見た目相応のイケメンボイスに声変わりしている。


 す、すげぇ……


「おお……おお! すごい、すごいデス! ボク、本当に人間になっているのデス!!」




 フィギュアスケートばりの動きで喜びを表すのは結構なんだが、なんか言動と見た目のミスマッチぶりが見ていて妙にもどかしい。

 まあいいや、帰ろう。






 ……………………








 ………………



 ダンジョンから帰還し、酒場へと向かおうとするが……



 ……まずいな、腕に力が入らない。


 全身の疲労感が凄まじい。




「皆……資金の分配とか、明日でいいかな……? 身体まともに動かないんだけど……」

「そうですね、今日はもう休みましょう。トルカちゃんもこんな調子ですし」


 いつの間にかフィンに背負われていたトルカは、すやすやと寝息を立てている。


「そうだな……」

「では、また明日デスね」

「すまんな、ピス……」

「いえいえ、じっくり身体を休めてくださいデス」




 酒場へと向かった足は、宿屋へと向かう。


 自室のベッドに着くなり、コートと武器、上着を投げ捨てて横になる。

 寝間着はあるが着替える余裕はない。





 ……………………






 ………………





 翌朝。




「おはようございますデス、シンヤ様! 具合はもう大丈夫デスか?」

「ああ、大丈夫だ。さて、朝の走り込みといくか……」


 投げ捨てた装備を拾って準備していると、ピスがうずうずした顔でこちらを見てくる。


「……一緒に来る?」

「行きますデス!」

「しんどいぞ?」

「問題ありませんデス!」



 日が昇り始めたサンドラールの街の中を早速走り込む。



「シンヤ様ー! 走り込みというのは身体を動かせて気持ちいいデスねー!」



 こいつ滅茶苦茶楽しんでやがる……



 でも、そういう気質は見習った方がいいのかもしれない。

 何事も楽しむのは重要だ。



「そうかもな! けどあんまり飛ばし過ぎるなよー! バテても知らねぇぞー!」

「がってんデス!」





 1時間後。





「ゼェ……ゼェ……」

「ほーら言わんこっちゃない。大人しく腕輪に戻ってろ」

「し、シンヤ様はすごいデスね……」

「俺なんてまだまださ。フィンはこの倍は走れると思うぜ」

「ひ……ひえぇ……」



 それから日課である腕立て伏せと上体起こしにスクワット、素振りを行う。

 これらを全て終えると、時間的にトルカが起きる頃合いになる。

 フィンはというと、俺と同じく早起きして鍛錬を行なっているようだ。






 朝食を終えた俺達は、酒場と武器屋、道具屋で換金を済ませる。

 2Fで入手した金貨やネックレスは結構いい感じの値段で売れたが、魔剣クロノスは売却拒否された。


 いやいらないんだけど……



 入手した資金の半分は共通財産として貯蓄し、残りの半分は均等に分配する。

 トルカやピスに任せるわけにはいかないし、フィンは貴族故金銭感覚が庶民のそれではないのでどこで何をしでかすか考えると怖くてできない……と断られた。

 そういう訳で金銭の使用管理は俺の担当だ。

 正直荷が重いが、そうも言ってられない。





 資金配分の後は使った道具などを補充し、その後は酒場でピスの冒険者登録を行う。


 名前はそのままだと怪しまれるので、ピーステール・フォリアという名をでっち上げる。要はピスがあだ名になるようにするのだ。

 そのついでにすっかり忘れてたカードの更新も行う。




 名前:シンヤ・ハギ   種族:荒野の民

 属性:無  レベル:22 職業:勇者

 体力:49 魔力:0

 筋力:42 敏捷:41

 創造:3  器用:32




 名前:トルカ・プロウン 種族:森の民

 属性:氷   レベル:17 職業:魔法使い

 体力:15  魔力:175

 筋力:2   敏捷:17

 創造:171 器用:29




 名前:シアルフィア・カルネリア 種族:荒野の民

 属性:雷 レベル:15 職業:聖堂騎士

 体力:140 魔力:58

 筋力:128 敏捷:36

 創造:52  器用:45




 名前:ピーステール・フォリア 種族:森の民

 属性:風 レベル:1 職業:吟遊詩人

 体力:35 魔力:130

 筋力:5  敏捷:25

 創造:35 器用:25




 相当厳しい段階まで来てしまった。



 創造の値が僅かながら上昇している事がどうでもよくなるくらいトルカやフィンとステータスが離れている。

 雑魚の討伐数にも差が出るのも当然だ。




「れ、レベル1で合計値255!?」




 それはさておき、驚異的な数字を叩き出したピーステールもといピスは、ギルド職員のその一言で凄まじい注目を浴び始める。


「は? 嘘つくなよおま……マジだ……」

「こいつ期待の大型新人なんじゃね?」

「いや流石になんかの間違いだろ……」

「そ、そんなに強いのデスか?」

「そりゃもう!普通レベル1の合計値なんて20から30くらいだぜ!?」

「筋力だけレベル1相応だけどそれ以外が強すぎる。特に魔力」

「パーティ組んでやるよ!」「バカ俺と組むんだよ! な、いいだろ?」「こんなむさい男なんかより私と組もうよ! ね?」

「俺の仲間だ勝手に分捕るんじゃねぇ! はっ倒すぞ!」


 集ってくる連中からピスを引き剥がす。


 これ以上滞在すると身動きが取れないので、取ろうとした輩に捨て台詞を吐き、ピス達を連れて逃走する。



 少し走って酒場前の広場へ。




「ゼェ……ゼェ……大丈夫か?」

「ボクは大丈夫デス。それにしても、ボクの数値ってそんなにすごいものなのデス?」

「レベルが1で伸び代があると考えれば、非常に強い数値ですね」

「ふむふむ……」

「ま、あの反応が何よりの証拠だ。そういえばお前それ前の姿に戻れるのか?」

「やってみますデス。はっ!」


 ピスは何故かバック宙を行い、デジタルチックなエフェクトを一瞬纏って光に包まれ、元のテレビ妖精の姿に戻った。


「おおー」


 トルカは小さく歓声をあげ、フィンは拍手をする。


「大丈夫そうデスね。よいしょっ!」


 ピスはジャンプするように高く飛ぶと、人間態に戻る。


 妖精態(元の姿)と人間態は自由に変身することが出来るようだ。


「そのジャンプに意味はあるのか?」

「カッコイイからデスっ!」

「あぁ……そう……」

「その状態でも魔法は使えるのでしょうか?」

「やってみますデス!」


 フィンの質問に、ピスは魔法を順に使って検証する。



「見透す眼よ! バイタルサーチ!」




 バイタルサーチは目が淡く光り、




「光よ、我らが道を照らせ! サーチライト!」




 サーチライトは目からビーム、




「光よ、我らを隠す外套となれ! フラッシュ!」




 フラッシュは手から閃光がほとばしる。




「歪みし時空に隠れし亜空の箱の扉よ、今こそ開け! ボックス! ……あれ?」




 しかし、ボックスだけは人間態だとできないようだった。





「むむむ、おかしいのデス……」

「身体構造上の問題じゃないか? 人間の身体をガバッと開くわけにはいかないだろ。むしろできたら怖い」


 だって人間の身体がガバっと開くんだぜ? 怖くない?



「でしたら、他の魔法を覚えてみてはいかがでしょう? プロテクションならお教えできますよ」

「ファイア、いる?」

「なんと! それは是非とも覚えたいデス!」

「ピスさんは吟遊詩人の適性があるようですし、歌を作るのもいいかもしれませんね。歌を魔法にして、様々な補助も出来るらしいですよ」

「魔法はともかく、話のネタならいくらでも提供できるぜ。吟遊詩人なら速攻で出せる持ちネタの1つや2つはあってもいいんじゃないか?」



 俺達も楽しくなってどんどんアイデアを出し合うが、何よりそれを聞いてるピス本人の目が輝いている。



「シンヤ様、ボク色々やってみたいデス!」

「じゃあ、今日から早速やってみるか?」

「がってんデス! ご期待に添えるよう、頑張りますデスよ!」




 こうして、ピス育成計画が始まった。




 まずフィンが文字を教え、フィンとトルカは魔導書を持ち寄ってピスに魔法を教える。その間、俺は歌に出来そうな話を書き出してみる。


 ピスが個人で練習している間は、フィンとトルカにより受けそうな話を選んでもらい、それで歌を作る。


 機械のように記憶力は抜群で、文字も歌にする話の内容も一瞬で覚えてしまった。



 歌作りは楽師から聴いたことがあるフィンの主導で行ってもらう。

 自信がないと言われたが押し通した。



 申し訳ないが俺はこの世界でウケる歌は知らないんだ。すまない。



 歌を聴いた感じだと、ミュージカルみたいな雰囲気だったな。あんまりミュージカル観たことないけど。


 楽器はピスと一緒に商隊やら道具屋やらを総当たりで回ってみたら小脇に抱えるハープの仲間であるキタラがあったので購入。使い方をレクチャーされた際にもその記憶力を遺憾なく発揮し、店主を驚かせた。




 ……………………





 ………………




 3日が経過し、魔法に関しては成果は無いものの、歌は出来た。


「それでは皆様、ボクの吟遊詩人としての道を歩むその瞬間を、どうぞお聞き届けください……デス」


 出来た歌を試しに酒場で披露してみると、本人のよく通る美声も相まって聴衆の心を一瞬で掴み取った。

 普段はあどけなさの残る声なのだが、一度歌い出すと見た目相応のハンサムボイスに変わっているからすごい。

 こいつ将来声真似覚えるんじゃね?


 歌が終わると、拍手喝采におひねりまで貰い、大成功と言える結果を残した。

 本人も大変満足気であった。





 その時、



「大変だ!」




 盛り上がった酒場内は、勢いよく開いたドアと叫び声によって静まり返る。



 ドアを開けたのは、傷を負った冒険者。



「何だぁ? 折角期待の新人が歌を披露して盛り上がってたってのによぉ」

「ディアマンテ遺跡の地下に、見たことのない凄まじく強い魔物が現れたんだ。それで地下探索組がほぼ全壊滅、1Fにいた冒険者にも被害が出て……」

「何だって!?」

「どんな魔物だよ?」

「風をまとった、図体のデカい人型の魔物だ」

「人型……?」




 突然の事態に、酒場がざわめきだす。



 遺跡の地下ってことは……まさか……





「大精霊を狙っているかもしれない。トルカ、フィン、ピス。行ってみよう」

「うん」

「わ、分かりました」

「がってんデス! それでは皆様、ボクはこれにて……」

「ちょっ、お前ら! ……行っちまった」




 酒場を後にし、再びディアマンテ遺跡へと向かう。

 魔物の正体は分からないが、もし大精霊を狙ってるとしたら、魔王の手先かもしれない。


 もしそうなら、急がなければ……!

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