クエスト3-5 勇者を狩る者

 


「俺の名前はファフニール……勇者を狩る者だ」





「勇者を狩る者、だと……?」




 黒いローブを身に纏い、角の生えた仮面を付け、杖をライフル銃のように構えた魔法使い、ファフニール。奴は、姿勢を崩さぬまま答える。


 地は黒く空は赤い異空間には、俺とファフニールだけが立っている。

 暑さも寒さも感じず、聞こえるのは不気味な風音だけだ。






 よく見ると、奴の杖は歪な形をしている。


 普通の杖は真っ直ぐだが、奴の杖は先端付近が湾曲して銃床のような形になっており、宝玉は銃床部分に半ばめり込むように付いている。

 銃口部分にあたる先端は穴は開いておらず、代わりに槍のごとく鋭く尖っている。


 一言で言えば、ボルトアクションライフルとファンタジーの杖を足して2で割ったデザイン、といったところだろうか。




「お前に付いたいかなる加護も、この空間では効力を発揮しない。ただの虚弱なヒトガタとして死ね」



 その言葉と共に、ファフニールは赤く光る弾丸を放つ。



「はっ!」



 横っ飛びで銃撃をかわしつつ、回り込むようにして走る。





 弾丸とはいったものの、奴の持つ得物はあくまで杖。あれは魔法で生成されている。

 ある意味ビームライフルだな。




 それにしても、妙だ。

 身体が軽い。



 いつもより速く走れる。

 さっきの跳躍だって想定の1.5倍は飛んでる。


 待てよ……? あいつさっき加護がどうたら言ってたな。ということは、まさか……




「出でよ、勇者の剣! 顕現せよ、ファルコンソード!」



 絶え間無く放たれる銃撃を掻い潜りつつ、叫ぶ。

 が、どちらの剣も出現することはなく、腕輪と指輪の姿のままだ。



「無駄だと言ったはずだ。お前を慢心に導いたその力は、ここでは通用しない」



 ……なるほど、読めたぞ。



 奴は俺が勇者の剣とファルコンソードに頼り切ってここまで来たという勘違いをしている。ファルコンソードは最近入手したばかりだし、勇者の剣に至っては逆だがな。

 体の軽さはもしかすると呪いの分で上がらなかった分のステータスが今ここで反映されているからかもしれない。


 奴は魔王が勇者の剣に呪いをかけたことを知らないと見た。ということは奴は新参の魔王の傘下、あるいは第三勢力……!




 90度向きを変え、サンドサーベルを構えてファフニールに向かって走る。



「はあっ!」



 銃撃を剣で弾き、跳び上がって斬りかかる。



 銃身で受け止めて弾かれ、飛んできた突きを剣で叩き落とすようにしていなし、その反動を利用して斜め上へ斬りあげる。




 剣の切っ先が僅かに仮面に掠る。

 それ以上は届かない。



 浅いか!





 続け様に振り下ろした剣を奴は後ろに跳んで回避し、再び銃撃を放つ。



 どうやら接近戦用の兵装は持ち合わせていないらしい。

 間合いを離さなければ追い込めるか……?




 再び剣を構え、走る。




 真一文字に振りかぶった剣を、ファフニールは前方に跳び上がって回避。そのまま俺の後ろに回り込み、2発の銃撃を放つ。



「ぐあっ!?」



 反応が遅れた俺はそれを背中で受け、追撃とばかりにもう1発浴びせられる。


 灼熱の弾丸が背中を焦がし、炎を背負うような錯覚すら覚える。



 だが、まだだ!







 グリーンポーションを1つ飲み干し、再び剣を構え、ファフニールめがけて走る。

 鈍い痛みと感覚の鈍りが襲うが、グリーンポーションなら継戦しつつ回復ができる。

 強烈な痛みと一時的な麻痺を伴う薬草では出来ない芸当だ。


 奴は軽快なバックステップを繰り返しつつ、射撃を放ってくる。



 まるでロボットアニメのような引き撃ちを剣でどうにかいなしつつ、距離を離させないよう走る。





 奴はステップ1回につき1発撃っている。

 仕掛けるならば……



「はっ!」



 銃撃を剣で弾いた勢いのまま投げナイフを2つ取り出し、その片方を投擲する。



 それを防いで足が止まったのを確認し、一気に踏み出す。

 そこでもう1本を投げ、反撃を遅らせる。




「おらぁぁああああ!!」




 柔らかい動きを意識。





 フィンの言葉を思い出す。







 意識を腕に集中し、渾身の力を込め、なおかつしなやかさを意識し、肘から動かして剣を振り下ろす。







 頭部を狙った一撃を、ファフニールは咄嗟に左腕でガードする。




 持てる力全てを振り絞って放った一撃は、奴の手首に傷を負わせるだけで終わった。




「アンチフィールドを使って尚、ここまで立ち向かうのは貴様が初めてだ、その気概は評価してやる。だが……」




 ファフニールは平然と左腕を振り払い、銃身を持ってハンマーのごとく銃床で殴りつける。




 それを咄嗟に剣で受け止めるも、パワーが違いすぎる。



「弱いな」



 相手は片手、こちらは両手。

 それでもなお、俺は押されていた。





 攻撃を流し、次の一撃を叩き込もうとするが、それより速く奴の殴打が飛ぶ。





 鈍い音と共に視界と意識が乱れ、身体は吹っ飛び倒れこむ。




「ひと山いくらの冒険者……いや、それにも届かぬ未熟者……」




 沸き上がる痛みを堪え、剣を杖にして立ち上がり、再度斬りかかる。



 両手で振りかざす一撃一撃を、奴は片手で弾き返す。





 力の差は歴然だった。





 どれほど打ち込んでもガードを崩せない。

 渾身の一撃も通らない。



「さて、茶番もこの辺でいいだろう」



 ファフニールは武器を大きく振り上げる。



 一層甲高い金属音と共に俺の攻撃を弾き上げ、そのまま片手で銃を構える。



 駄目だ、この距離じゃどうあっても回避はできない!




 大きく体勢を崩された俺は、少しでも直撃を避けようと身体を捻るが、それも間に合わない。




 放たれた弾丸は俺の右脇腹を貫通する。





「ぐぁ……っ!!」



 これまでとは比較にならない、気が飛びそうな恐ろしい痛みと、全身が焼けそうな熱が襲い来る。





 大量の血が黒い大地を赤く濡らし、激しい痛みが全身を雷鳴のごとく駆け巡る。





 まだだ……!




 まだ……立てる……!





 体勢を崩しながらも何とか踏ん張り、再び剣を構えようとするが、それよりも早く銃弾が俺の身体を貫き、地面に大の字になってしまう。







 もう身体は1ミリも動かせない。




 意識はどんどん崩れていく。






「…………、……」






 ファフニールが何か言った気がするが、俺には聞き取れなかった。







 どうせトドメを刺す価値も無い、とかだろう。










 所詮、俺……は…………






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