クエスト3-3 典型的な構図

 



 地球における大きな文明の発端は、全て大河と共にある。



 ……中学の歴史の先生がそんな事を言ってた気がする。

 何で急にそんなこと思い出したんだろう?





 砂漠の国サンドラール。


 巨大なオアシスを中心に、ワーテルともカルネリアとも違う様式の建物が立ち並び、奥には王城も見える。

 規模としては、少なくともカルネリアよりは大きい。ワーテルとは……どうだろう。


 オアシス効果なのか砂漠よりも涼しく、アイスドリンク無しでもやっていけそうだ。


 ……まあ暑いものは暑いけど。





「わあ……風土が違えばここまで様式が変化するものなんですね……! 書物でしか見たことないようなものがたくさん……!」

「ちょっと、涼しい……」


 2人の反応の違いが何だか面白い。




「シルロスさん、この度はありがとうございました。長期滞在になりそうなので帰りは付き添えないと思います、申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらずとも大丈夫です。サンドラールでの活躍、お祈りしておりますぞ」

「ありがとうございます。シルロスさんも帰りはお気をつけて」

「ええ。皆様も、くれぐれも無理はなさらぬよう。命あっての物種ですからな」

「はい、肝に命じておきます」



 シルロスさんと別れ、ひとまず街中を見て回る。



 道行く人々もあちこちの建物も、中世ヨーロッパ感の強かった今までの町と違って、アラビアンナイト的な雰囲気を持っている。


 別世界、という表現はちょっとオーバーかもしれないが、画面の中でしか見たことのない光景が目の前に広がっているというのは、とてもワクワクする。


 バザーらしきものもやっており、中々街も賑わっているようだ。





 しばらく歩いて、街の中ほどにあった宿屋で2部屋確保し、次は各施設を探しに歩き回る。



 街の区分けはされていないようで、少々ごちゃついた印象を受ける。


 日本の都会の街並みみたいで、ちょっと懐かしい気分……いや、そうでもないな。




「さてと、まずは冒険者ギルドを探そう」

「……おー」

「冒険者ギルドですか?」

「ああ。冒険者や依頼から、魔物やダンジョンの情報を掴めるし、依頼と素材回収の同時並行で金策の効率も上がるしな」

「なるほど、そうなのですね。そういう事なら、優先して探しましょう」




 というわけで街を巡りつつ、冒険者ギルドを探す。

 今までは大体目立ちやすい場所にあったので、大通りを中心に探せば見つかるだろう。



 ……………………





 ………………





 案の定すぐに見つかった。

 見た感じでは、少なくともカルネリアにあったギルドよりは規模が大きい。



 中に入ってみると、やはり酒場が併設されており、店内はかなり賑わっている。

 ……カルネリアどころかワーテルより大きいんじゃね?



「ひ、人が多いですね……」

「……うん」

「砂漠のど真ん中なのに随分な賑わいようだな。ワーテルより活気があるような……」



 掲示板の方に目を向けてみると、人の多さに反して依頼の数が妙に少ないことに気付く。

 ワーテルの時はもっと依頼があったような……?



「よう、見ない顔だな。お前もアルサルの秘宝を求めに来たクチか?」


 頭にターバンを巻いた、シーフっぽい冒険者が話しかけてくる。


「アルサルの秘宝?」

「ああ。アルサルってのはその昔、世界を股にかけ、様々なダンジョンを攻略して莫大な財を成した冒険者にして、サンドラールの初代国王さ。で、そのアルサルの遺した宝の数々が、ここから西に行ったディアマンテ遺跡っつーところに残ってるのさ」


 フィンの親父さん……もといカルネリアの領主が王の墓云々って言ってた気がするけど、思ってたのと割と違う。

 すごいアグレッシブな王様だったんだな……




「ふむ……で、ここはそれを求める冒険者でごった返してる、って訳ですか」

「ま、そういうこったな。最奥にはそれはもうすげぇお宝が眠ってるらしいが、たどり着いた奴はいないらしいぜ」

「なるほど……」

「さて、じゃあ俺も一稼ぎ行ってくるかな。じゃあな新入り」

「アッハイ」



 要するにお宝を求めてダンジョンアタック、という典型的な構図が成立しているらしい。

 依頼が少ないのはそれに集中しているのか、当面の資金稼ぎか何かで依頼を受ける冒険者が多いのか?



「で、どうする? 俺達も行ってみるか?」

「その前に色々情報収集してみましょう。大精霊の情報もまだありませんし……」

「そうだな」


 そう言って情報収集に取り掛かろうとした瞬間、腹の虫が鳴る。



「……先に、ご飯にしましょうか」

「面目無いです……」


 俺は恥ずかしさのあまり、顔を手で覆いながら近くの席に座る。


 ふとスパイスの香りが漂ってきたのでそっちに目を向けると、カレーのようなものを食べる冒険者が目に付く。


「すいません、あれと同じものを頼めますか?」

「あ、えっと、私もそれでお願いします。トルカちゃんはどうします?」

「サラダとパンケーキ……」

「はーい、カリルが2つ、サラダとパンケーキが1つですね! 少々お待ちをー!」



 若い女性の店員は注文をメモすると、忙しなく走っていく。


「まさかここでもカレーが食べられるとは……」

「シンヤさんは食べた事あるのですか?」

「あ、いや、昔に、冒険者だった知り合いから聞いたことあるんだ。よく名前が出てたから、どんなものかなー、って」

「……へえ、そうなのですか……」



 あ、焦った……まさか独り言に反応されるとは思わなかった……。

 間が怖い。 





「はい、カリルがお2つとサラダにパンケーキ、お待ちどー! カリルはロタにつけて食べてくださいね!」



 そうこうしている間に料理が来た。



 名前は微妙に違ったが、見た目はほぼほぼカレーだ。

 カレーとはいっても、日本ではなくインドのそれに近い。




 ちなみにカレーライスではない。米がないから。

 ロタというのは、このナンによく似たパンのことだろう。




 畜生……折角米が食えると思ったのに……畜生……いやナンで食べるカレー嫌いじゃないけど……そういうことじゃねぇんだ……



「いただきます……」


 言われた通り、ルーをロタにつけ、口に運ぶ。

 ルーは日本で食ったそれとは違い、若干サラサラ、いやシャバシャバ? している。



 熱っ、あっ……おっ、美味い、うm……か、辛っ!? かっら!!



 カリルは、日本のカレーとは似てるようで似ていない。

 焼けるような辛さと、その後のどこか爽やかな後味が特徴的だ。スパイスのいい香りと鶏肉、野菜の風味もマッチしている。ふわふわでもちもちな食感のロタもいい感じだ。それから、えーと……駄目だ語彙が尽きた。


 要は美味いんだけど辛い本当に辛いなこれ! 汗がすっごい出るわこれ!



 耐えきれないのでコップの水を飲もうとすると、コップの中身が水じゃなくて、薄い緑色のジュースである事に気付く。



 恐る恐る飲んでみると、すっきりした甘さで飲みやすく、辛さをいい感じに中和してくれた。


 果実っぽいが……何だこれ? キウイじゃなさそうだし……メロンはもっと違うし……




「シンヤ、フィン……それ、美味しい?」

「辛いけど「じゃあ、いい……」

「あ、うん……」



 辛いと聞くなり即座に拒否反応を示すトルカと、呆気に取られる俺、それらを見て苦笑するフィンであった。



 ……………………




 ………………



 そんなこんなでカリルを美味しくいただき、改めて情報収集を開始する。


 遺跡の最奥地にはどんな願いも1つ叶えるという、魔法のランプじみた秘宝が存在することは分かったが、大精霊については冒険者から特に情報は無かった。


 酒場の主人にも聞いてみたところ、


「大精霊? 聞いたことが無いねぇ」

「そうですか……」

「歴史あるものってんなら、王城にでも行ってみたらどうだい? 王様とかなら知ってるかもねぇ」


 と提案を受けたので、王城に行ってみることに。







 王城はこの街のほぼ中央、オアシスのすぐ近く。



 どことなくタージ・マハルと似た雰囲気を持つ、白い建物。




 大精霊について尋ねると、王様から直接話す、とのことで、玉座の間に通された。




「王様はじきに来られる。粗相のないように」

「はい」



 思えば、玉座の間も2度目か。

 赤い絨毯が敷かれ、部屋のあちこちに金色の装飾があり、豪華な印象を受ける。まあ王様のいる場所だし当たり前か……


 トルカとフィンをちらりと見る。

 トルカはいつも通りだが、フィンは側から見ても分かるレベルで緊張している。




「ハァーイ! 貴方達がお話を聞きたいっていう冒険者さんかしらぁ?」

「えっ……?」



 現れた王様の姿は衝撃的だった。




 王の証である王冠と、わりかし整った顔つき。


 服装は露出の多いボンテージのような服。


 服の隙間から見せつけるは鍛えられた肉体美。


 顔にはよく見なくてもメイクが施されている。



 鍛え上げられた肉体から放たれるしなやかな歩き方と高めの声の………………男。







 男。









 つまり……オカマ。



「アッハイ」

「ふふふ、初々しい雰囲気を感じるわぁ……もっと近くで顔を見せてちょうだぁい」


 と言ってこちらへと歩み寄る王様。

 そっちから来るのか……



「あらぁ、黒髪の貴方……中々いい顔してるじゃなぁい?」

「ど、どうも……」


 何だか分からないが非常に危機的な何かを感じる。主にケツが。


「可愛らしい女の子を2人も連れているなんて、貴方も隅に置けないわねぇ……」



 トルカは俺の後ろに隠れて睨みつけてるしフィンも俺の服の肩辺り掴んでオロオロしながらこちらと王様を代わる代わる見つめている。


 何だか忍びないので、一歩前に出てフィンを後ろに誘導する。


「ふふふ……そのさりげない気遣いの出来るオトコ、ワタシ好きよぉ。貴方名前は何ていうのかしらぁ?」

「し……シンヤ・ハギです……」

「後ろの貴方達は?」

「トルカ……プロウン……」

「しっ、シア……シアルフィア……カルネリア……です……」



 こ……この目は俺を狙っている目だ……! 待ってくれ俺はホモじゃない後ろのバージンは散らせたくないけどここでカッコ悪いとこ見せたくないけどやっぱり怖いけどここで引いてどうする魔物よかマシだそうだあの時の敗北を



「なるほど……覚えたわぁ。ワタシの捕食オーラを前にしてもほとんど後ずさりしないところ、好きよぉ。……さて、そろそろ本題に入りましょうか」



 あっ、なんか一瞬で雰囲気が変わって普通の雰囲気と目つきになった。

 捕食オーラって……なんなんだこの人……



「我々は魔王を倒すため、旅をしています。それで、この地に大精霊がいると聞きつけたのですが、何か心当たりはありませんか?」

「魔王を討伐するため、大精霊に力を借りるって寸法ね。まあ、確かにその方が確実かもしれないわねぇ。確かに、この地に大地の大精霊は存在するわ。場所はディアマンテの遺跡の最上階、あるいは最下層よ」



 位置が真逆じゃねーか……。



「どちらにいるかははっきりしていないのですか?」

「どういうわけか、古代の資料にもどっちなのかはっきりしないのよね……最下層にいる記述があるかと思えば、別の資料には最上階にいるって記述があるのよ。困ったちゃんだわ」

「なるほど……分かりました」

「まあ、いなかったとしてもアルサルの残したとっておきの秘宝が眠ってるから、気を落とさなくても大丈夫よ」




 ……………………





 ………………




 王城を出た後、武器屋などの施設の確認がまだだったので、それを行う。


 まずは魔法屋。


「トルカちゃんは補助魔法は使えるんですか?」

「……ちょっとだけ」

「補助魔法、便利ですよ。これとかどうです?」

「……こっちがいい」

「それも良さそうですね。私の買う魔法の練習にもなります」



 ……正直なところ、前からトルカとフィンの仲が悪かったらどうしようかと思っていたが、この様子なら大丈夫そうだな。



 精神干渉を防ぐ防御魔法の魔導書と眠りに誘う補助魔法の魔導書を買う。前者はフィンが、後者はトルカが使うようだ。

 道具屋で各種道具を補充すると、次は武器屋と防具屋へ行く。


 俺が持っていたサンドワームの外皮はコートの補強に回し、牙は加工して片刃の剣、サンドサーベルになった。

 今回の武器と防具の更新は俺だけだ。




 ……………………






 ………………




 宿屋に戻ると、日課の筋トレと道具の整理を行う。

 余った道具はピスのボックスを使って収納。


「よし、これで完了だ。いつも悪いな、ピス」

「いえいえ、大丈夫デスよシンヤ様。道具の管理はボクの役割デス。デスが……」

「……?」

「ボクも人間になって、パパパーっと活躍してみたい、と思ったことはありますデス。もし願いが叶うという秘宝を手にしたら、ボクはそう願うデスね」

「気持ちは分かるが……人間になる必要はあるのか……?」

「なりたいものに理由なんかいらないのデス。シンヤ様は、何か願いはありますか?」

「強くなりたい……というより、勇者の剣で背負ったディスアドバンテージを帳消しにしたいな。レベル下がってもいいから」

「せ、世知辛いデスね……」

「まあ、その分強くなればいいし、もし手に入ってトルカとフィンがいらないって言うならお前にやるよ……」



 砂漠の国での最初の1日は、こうして過ぎていった。

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