クエスト2-12 遠出は計画的に

 


 翌日。

 カルネリア、領主の屋敷にて。





 そういや何度目でしたっけ、ここ来るの。





「話は聞いているよ、シンヤ君。無事、風の塔に行けたようだね」

「はい。色々ありましたが、目的も達成できました」

「ふむ、それは何よりだ。で、次はどこへ向かうのかね?」

「サンドラールへと向かおうかと……」

「サンドラールか。確か、あそこは王族の眠る巨大な墓があると聞く。そこなら、大精霊がいてもおかしくないかもしれんな」



 巨大な墓……ピラミッドか何かだろうか?



「それからもう一つ……娘が君と共に旅がしたい、という話をしてね」

「は、はい」


 領主は難しい顔をしながら切り出した。

 やっぱり無理だったか……?


「是非、娘を連れて行って欲しいんだ。臆病なくせして無茶ばかりするような子だが、どうか頼まれてはくれないか」



 ……おっ?



「我々としては構わない……それどころか、むしろありがたい話ですが……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「そうだな。家名を上げる事、ソロルとの婚約の実質的破棄、色々あるが……」



 おいちょっと待て後者、後者そんなサラっと流していいのか。



「内向的で友達も少なかった娘が、初めて自発的に、真剣に申し込んだ事だからね。彼女は臆病な自分を変えるため、前に進もうとしている。心配ではあるが、応援したいのさ」

「そうですか……。分かりました。彼女の事はお任せください」

「うむ、頼んだよ」


 領主はそう言うと、二枚の封筒を手渡した。

 片方は封蝋の色が赤、もう片方は青だ。


「こっちは紹介状だ。サンドラールへの道中の関所で提示すれば、通してくれるだろう。こっちは……ソロル・ウィーゼという男絡みで窮地に陥った時に開きたまえ」



 ソロル・ウィーゼ……ソロル・ウィーゼか。



「その、そいつは一体何者なんです?」

「ここベルデン王国の貴族だが、黒い噂と悪い評判の絶えない男だ。流石にサンドラールまで行けば手出しはせんだろうが……」



 いわゆる悪徳貴族ってやつか。

 用心しておこう。



「分かりました、ありがとうございます」

「私からは以上だ。諸君らの旅の無事を祈っているよ」

「ええ、必ず魔王を倒してみせます」

「……みせ、ます」



 領主に礼をして部屋を出ると、廊下にフィンがいた。

 その表情は緊張でガチガチに固まっている。



「フィン……」

「あの……昨日の話、お父様とも話して、よく考えました……」


 フィンは初めて会った時のようにオドオドしていたが、ここで自分の頰を叩いて気合を入れ直し、凛とした顔になる。



「その、私は臆病で敵の前に立つのも誰かと話すのも得意ではありません。取り柄はプロテクションだけかもしれません。……だけど、だけど私は、そんな私を変えたいと思っています。シンヤさんと、トルカちゃん。貴方達2人がいれば、変われる気がするんです」


 フィンはそこまで言うと、一呼吸置く。


「どんな努力もします。いつかは臆病も克服してみせます。多くの時間をいただくかもしれません、沢山の迷惑をかけるかもしれません。ですが、必ず役に立ってみせます。ですから……私を、連れて行ってください!」



 フィンは頭を下げた。



「ちょっ……その、顔を上げてくれ」

「えっ?」

「当俺達にはフィンの力が必要だ、それにフィンの親父さんとも約束したしな。フィンが恐怖を克服したいのなら、俺は全力で後押しする。だから、一緒に行こう……フィン!」


 フィンに手を差し出す。


「……はい!」


 彼女は笑顔でその手を取った。





 ……………………




 ………………




「次はどこへ向かうのですか?」

「えっと……サンドラールだ」



 酒場で地図を広げ、それを3人で囲む。


 この世界は主に3つの大陸で構成されており、現在地である猫っぽいシルエットの大陸が獣の大陸、その北西に位置するのが、大陸と呼ぶにはやや小さい島が密集する集の大陸。その東にある、飛竜のようなシルエットである竜の大陸。


 この世界の全体像としては、獣の大陸が南端になる形で逆三角形になるように位置し、その他にこまごまとした小さな島が各大陸の近くに点在する、という感じになる。



 サンドラールは獣の大陸のおおよそ中央に位置し、そこに行くには険しい山脈に挟まれた道を通る必要がある。

 さらに、ほぼ大陸の東端にあるカルネリアからは結構距離が離れている。




「なあピス、もしかして大精霊って各地に散らばってたりする?」


 酒場は割とうるさいので、腕輪状態での会話なら案外バレない。

 まあバレても俺が精神異常者と思われる程度で済むだろう。ちょっと辛いけど。



「しますデスね。密集しないことによって、独占による悪用を防いだり、魔王軍による集中砲火を防いでいるのデス」

「やっぱりか……」



 バラけさせるのは作戦としては真っ当だろうが、集める身としては結構大変だ。



「こりゃまた結構な遠出になりそうだなぁ……」

「シンヤさん」

「ん?」



 俺がため息と共に項垂れていたところで、さっきまでトルカと話していたフィンが声をかける。


「商隊を利用しませんか?」

「商隊?」

「はい。商品の輸送の際、盗賊や魔物に襲われないように商人同士で契約を交わし、隊列を組んで移動するのです」

「そこに相乗りさせてもらおう、ってことか?」

「はい。確か、明日サンドラール行きの商隊が出るはなので、そこに相乗りさせてもらいましょう。護衛として乗れば、費用は格安ですよ」

「よし、じゃあそうしよう」



 その日は一旦解散し、荷造りを行った。




 ……………………





 ………………





 翌日の早朝、夢うつつなトルカをおぶって商隊の馬車の集合場所へ向かう。

 叩き起こすよりこうした方が早い。荷物もピスのおかげで重くないし。


 馬車に関しては中世ファンタジーものによくある、布かなんかをアーチ状に張った4輪の幌馬車(ほろばしゃ)だ。コネストーガ幌馬車っていうんだっけああいうの。

 向こうの世界のものより心持ち頑丈そうに見える。


 で、それを引く馬だが……



「なんかちょっと馬でかくない?」


 馬がでかい。馬車とほぼほぼ同じ大きさだったり、馬車よりもデカかったりしている。顔も怖い。

 それが2頭もいたりする馬車もあるけど大丈夫? 過剰馬力だったりしない?


 他にも馬の代わりにダチョウのような動物やよく分からない四足歩行の動物がいるけど、デカい馬が一番凶悪そう。



「あれは馬車を引く専用の馬ですよ。元は魔物だったのですが、数十年ほど前に手なづけ、家畜化に成功したのです。馬車馬にうってつけですが、騎乗用には向きません」

「ほえー……」


 たしかに、元が魔物と言われれば腑に落ちる見た目だ。


「魔物を飼い慣らしているのか……」

「魔物といっても、魔変化生物に分類される魔物は動物の延長線上なので、珍しくはありませんよ。元はといえば動物が突然変異したものですし、凶暴にはなっていますが、根本的な部分はあまり変わりません」


 魔物にも分類があるらしいな。魔変化生物と魔法生物、あとは……何だ? また今度聞こう。




 さて、馬車には純粋な客として乗ることもできるが、料金が倍どころではないのでフィンの提案通り護衛として乗る。

 というか価格的に護衛の金額が安すぎるんだろうな。客として乗れば安くても4桁以上だが、護衛として乗ればそれなりのグレードでも3桁止まり。どうなってんだ?



「それじゃあ、どこにしようか……」


 馬車を見て回ると、見知った顔を見つけた。

 行きつけの道具屋でいつも見る、あの大黒天フェイスは……



「シルロスさん?」

「おや、シンヤさんにトルカさん……はお休み中ですか。それに領主様の御令嬢まで。もしや、サンドラールに御用がおありですかな?」

「ええ、まあ」

「おお、これは僥倖。是非とも、私めの馬車にお乗りください。料金は割引いたしますぞ」

「はい、では3席分失礼します」


 シルロスさんに代金を渡して荷台に荷物を置き、御者席の後ろにある簡易的な客席に座り、トルカを降ろす。

 並程度の大きさの馬車には、沢山の荷物が置かれている。それが何なのかは……ちょっとよく分からない。




「そろそろ出発の時刻ですな。では、参りますぞ」



 商隊の馬車の列は、昇る太陽を背にカルネリアの町を後にした。




 フィンは馬車から身を乗り出し、徐々に小さくなるカルネリアをじっと見つめていた。








 ――現在のギルドカード――



 名前:シンヤ・ハギ   種族:荒野の民

 属性:無  レベル:20 職業:勇者

 体力:46 魔力:0

 筋力:39 敏捷:38

 創造:2  器用:28




 名前:トルカ・プロウン 種族:森の民

 属性:氷   レベル:15 職業:魔法使い

 体力:13  魔力:155

 筋力:2   敏捷:15

 創造:151 器用:24




 名前:シアルフィア・カルネリア 種族:荒野の民

 属性:雷 レベル:13 職業:聖堂騎士

 体力:123 魔力:46

 筋力:111 敏捷:30

 創造:44  器用:39

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