散りゆく生を


自らの手箱に収まらないと、脆いのに感じ取ってしまう、かなしみよ

毎夜、思い願えることに縋って、薄明の中、虚像を静観する、いつわりよ

無数に点在する現実は、あなたの目と、わたしの目と、そのほかの目と

哀切の感を鈍らせたいがために、言葉を掬ってきたが、靄の中

なにがために、記し留めておいたのか、

今こそ、召喚を、言葉よ

愛惜さえも葬る前に

二度と祈れなくなる前に






いま、ただ一つだけ、願うことができます。かたちないものも、あるものも、万物は全て言葉に落とし込むことができる。変容をとげることができる。言葉は、尽きせぬものをとらえることができると。ただ、憎いことに、わたしの指先からは言葉に託し、手放したいと願うものを、それに寄せ切ることが、どうにもうまくいかない、のです。この感情が亡霊だというのでしょうか、不可言の領域だからこそ、捉えたいのです。愛するなど、悲しいなど、言いたくないのです。内包されている、もはや混沌として輪郭もかずも、重さも、わからなくなってしまった、しかし確かに吐息をわたしに吹き寄せ、気付かせる、情感を。一度、解し、自らの湾に浮かべてみてみたいのです。理性から切り放つことができなくなってしまったものは、もはや心身を蝕むのです。よく、聞くのです。これはわたしの、余命の宣告です。わたしの内に姿を潜めつつ目を覚まそうとしない、言の霊よ。あなたがわたしと契りを交わさないのなら、一切を感ずることがわたしにはできなくなります。いよいよ、錆つき、色を失い、かおりも感じなくなってきました。生きるか死ぬか、わたしにはわたしの意思をもっても、もうその長短を操ることができなくなってしまいました。自然と土に戻って、無と化す前に、どうか、どうか、祈りを聞き、ひらいてはくれませぬか。

一月二十三日 記し

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