うちのおばあちゃん



うちのおばあちゃんは、いつも笑っている人でした。


ニコニコしている時も

大笑いしている時も

私がお母さんに怒られて泣いていたときにこっそり笑いかけてくれたこともありました。




おばあちゃんはお手玉がとても上手で、四つ同時に回していました。

私が

「すごーい!」

と言うと

「昔は五個いけた」

と自慢げにニヤリと笑っていました。




おばあちゃんちにはよく人が集まりました。


親戚もお友達もみんなおばあちゃんのことが大好きでした。

おばあちゃんは美味しい料理でもてなしてくれることはもちろん、あんまりお酒が飲めないおじいちゃんのお酒をうばっては、たくさん飲み、歌を歌ったり、番傘を持ち出して踊ったりしてくれました。



そんなおばあちゃんもたまには娘である私のお母さんに怒られることがありました。

おばあちゃんはあんぱんを食べるとき必ずぺったんこにつぶして食べるからです。

あんこがはみ出したあんぱんを見てお母さんは怒ります。

おばあちゃんは

「昔はあんぱんは高級品でね、たまにしか食べられなかったし、あんこもちょこっとしか入っていなかったから、まんべんなくあんこが広がるように、ついつぶしちゃうのよね」

と言って、舌を出して笑いました。

お母さんがチョココロネを買ってきた時もおばあちゃんはつぶそうとしたので、家族総出で全力で止めました。

つぶしてないチョココロネを食べたおばあちゃんは

「初めて食べた!美味しい!!寿命が伸びた!!!」

と言っていました。

初めてのことをすると、寿命が伸びるんだって。





そんなおばあちゃんもある時病気になってしまいました。


腎臓が悪くなって、二日に一度体全部の血を入れ替えしなければいけなくなりました。

私がおばあちゃんに

「大変だね」

と言うと、おばあちゃんは

「週に三日病院に行くだけよ!週に五日学校や会社に行ってる人に比べたらなんて事ないさ!それにね...」

と言って私に耳打ちして

「病院に行って看護婦さんや病院の先生の若いパワーを吸ってるんよ」

といたずらっぽく笑いました。

おばあちゃんはやっぱりいつでも笑っていました。





それからすぐにおばあちゃんは半分くらいに痩せてしまいました。





私は「何かおばあちゃんの為に出来ることがしたい」と思うようになっていました。

するとおばあちゃんから

「遠くに住んでるおばあちゃんのお姉ちゃんに逢いたい。連れて行って」

と頼まれました。

私はとんでもなく張り切って、おばあちゃんをおばあちゃんのお姉ちゃんのところに連れていきました。

何十年ぶりに再会したおばあちゃんとおばあちゃんのお姉ちゃんは昔を懐かしんで笑っていました。

おばあちゃんが私を誇らしげに紹介してくれたのが嬉しかったです。






その半年後、

おばあちゃんはお家で転んだのをきっかけに意識が戻らなくなってしまいました。



入院したおばあちゃんにはたくさんの人が会いに来てくれました。

その度におばあちゃんは少し笑ってくれたような気がしました。







そして、

七日後に

おばあちゃんは天国にお出かけしました。






おばあちゃんのお葬式の朝、たくさんの人が集まってご飯を食べました。

そこでおばあちゃんの昔の話をいっぱい聞きました。


町一番の美人と言われていたおばあちゃんなのに、お祭りではひょっとこのお面にねじりはちまきをつけて踊っていたことや、おじいちゃんが勤めていた会社を辞めなければいけなかった時も「何とかなるさ!」と笑い飛ばした話や、大事な人を亡くした時も皆の前では気丈に笑っていたことも聞きました。



私の知らないおばあちゃんも、きっとずっと笑っていました。



おばあちゃんが火葬場に入る時、お母さんがおばあちゃんに向かって

「母さん...」

と泣いていました。

おばあちゃんの娘のお母さんは、どんなに辛いことがあっても泣かない人だけど、

やっぱり、ずっと笑って生きてきたおばあちゃんに逢えなくなる時、人は泣くんだと思いました。




今でも私の思い出のおばあちゃんは、いつも笑っています。

大人になってそれがどれだけ凄いことなのかということがわかりました。



だから私はおばあちゃんの言葉をよく思い出すのです。



「人に優しく、いつも笑顔で、誰からも愛される人になりなさい。その為に誰でも分け隔てなく愛せる人になりなさい。いつかあなたが自分に迷ったら、周りをよく見てごらん?周りの人がいい人だと思えたら、それはあなたがきちんと生きている証拠。自信を持って生きなさい。」



おばあちゃん、ありがとう。





「うちのおばあちゃん」



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