ユキと晴
ユキは愛子ちゃんちの飼い犬です。
先代のまるさんから受け継いだ優しい心を持つものの、ちょっぴりおバカなわんこです。
でもユキは愛子ちゃんが大好き!
いつでも愛子ちゃんの後をついてまわり
いつでもニコニコしています
そんなユキの様子を、ちょっと離れた場所から同居猫のみーこがこれまたちょっと冷めた目で見つめています。
ある日のこと
いつも元気な愛子ちゃんがぐったりとしていました。どうやら食欲も無いようで、ユキはたくさん心配しました。
そのまたある時は、愛子ちゃんのお腹がどんどん、どんどんとふくらんで、ついに愛子ちゃんは入院となってしまいました。
ユキは心配で心配でみーこに聞きました。
「愛子ちゃん、大丈夫かなぁ?」
みーこは答えました。
「あれは、晴(はる)のせいだよ」
ユキにはよく意味がわかりませんでした。
それからしばらくして、愛子ちゃんが家に帰ってきました。
すると、すっかりお腹のへっこんだ愛子ちゃんは小さな小さな男の子を連れていました。
「あれが晴だよ。」
みーこは言いました。
ユキはさんざん愛子ちゃんを苦しめて、ついには入院までさせた「晴」をじいっと見つめました。
「コイツが...愛子ちゃんを...」
と、思って見つめていると、晴は大きな声で泣きました。
ユキはびっくりして、たまらずみーこに駆け寄りました。
すると、愛子ちゃんがやって来て晴を抱き上げました。
ユキは大きくなってからずっと愛子ちゃんにだっこしてもらっていません。
ユキの心に
「晴め...こんちくしょー!」
という気持ちがふつふつと湧き上がっていました。
ユキは晴に向かって
「お前は俺のライバルだ!」
と言いました。
そしてユキはいつも晴と競うことにしました。
ユキは晴よりたくさん走れるし、お昼寝も得意だし、ご飯だって一人で食べられます。
対する晴は一人ではまだ何も出来ません。
ユキは思いました。
「ふっ...勝ったな。」
しかし愛子ちゃんは何にも出来ない晴にばかり構います。
立ち上がるだけで喜び、寝かしつけてくれて、ご飯だって食べさせてあげるのです。
ユキは思いました。
「...愛子ちゃんはユキのことなんか、どうだっていいんだ。」
ユキは身の回りのものを整えると、家出を決意しました。
すると全てを見ていたみーこがタンスの上から声を掛けてきました。
「ねぇ。面白いから黙って見てたけど、あんた本当に出て行くの?あんたが出ていったら愛子ちゃん悲しむよ」
ユキは言いました。
「愛子ちゃんは晴がいればいいんだ。ユキなんかいなくたっていいんだ。きっと...ユキなんかいなくなったって悲しくなんかないんだ」
ユキは涙をいっぱい瞳に溜めて家を出ていこうとしました。
そのしっぽを掴む手がありました。
それは晴の手でした。
ユキはしっぽを掴まれてとっても痛くって涙がころころ流れました。
晴はニコニコ笑っています。
「ユキちゃ!ユキちゃ!」
晴は笑ってユキの名を呼びます。
みーこが言いました。
「晴はあんたのこと「お兄ちゃん」だと思ってるんだよ?それをほっぽり出して家を出ていくだなんて...あーあ。本当にいいのかねぇ?」
ユキは晴の笑顔を見てまたぽろぽろと泣きましたが、それはとてもあたたかい涙でした。
それからというもの
ユキと晴は一緒に遊び、一緒にご飯を食べ、一緒に眠るようになりました。
ユキは愛子ちゃんの大切な晴を、
ユキの大事な弟の晴を、ずっと守ってあげるんだと心に誓い、今日もまた二人一緒に眠りにつくのでした。
「ユキと晴」
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