狂恋

欠落

「あの……!」

 思い切って声をかける。

 馬に乗り大鎧に身を固めた     は振り返り、訝しげな表情を浮かべる。

「どうした。よもや、まだ止める気ではなかろうな」

 その顔は険しく、何も口にすることはできなかった。

「なに、必ず帰ってくる。お前はここで待っておれ」

「……はい」

      は、フフッと笑う。

 ごそごそと音がしたかと思うと、目の前に一振りの小刀が差し出された。

「持っておけ」

 そっと受け取る。


 ゆっくりと馬の遠ざかる音がする。


 わたしは小刀を胸に押し抱き、その場に立ち尽くしていた。

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