十二話 感謝と返答

「まさか二瀬くんが修復の技術もないなんてね……」

 委員長はぶつくさ言いながら崩れた壁に呪符を当てる。壁は薄黄色に光りながら塞がった。

「戦闘に使える物しか教えて貰えなくて」

 自分が壊した校舎を他人に直させるのは非常に申し訳なかった。

 床には生徒が転がり、椅子や机、筆記具が散らばっている。

「知ってたんでしょ、薙刀のこと」

 説明しようと口を開きかけ、やめた。委員長を欺いていたことには変わりないのだから。

「べつに怒ってないわよ。そりゃ悔しいけど、あんた達の方が客観的に事実を捉えていたことには変わりないし」

 ガタガタと机を並べ直しながら、独り言のように呟く。

 相変わらず生徒達は誰も起き上がらず、彼女は床に転がっている彼らを席に座らせていく。

 冬の力無い斜陽が横顔を照らす。その顔には未だ、迷いがあるようだった。

「むしろ、世話をかけて悪かったわね」

 こちらを向いて、ふわりと微笑む。

「ありがとね」


 僕は、その微笑みに応える術を持たない。

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