第4話


 中はとても無機質だった。廊下は申し訳程度にところどころに絵画や宝物が飾られていたけれど、作りはコンクリートで、とても冷たい雰囲気だった。まるで要塞のようだ。

 けれど、噂では警報装置や罠がたくさんあると言っていたけれど、普通に歩いていても、そんなものに引っかかることはなかった。監視カメラは少しあったけれど、撃ってしまった。動かないものを撃つのは、射的ゲームのようで少し楽しい。

 それからも、敵を感知する赤外線や、壁から飛び出るライフル銃などに気をつけて歩いていたけれど、そんなものにはついにお目にかかれないまま、奥の部屋についた。

 奥の部屋は書斎のようだった。大きな本棚と机、高級そうなソファ、つくりかけの帆船の模型、壁に掛かったウィリアムの肖像画。その自画像の横に、パネルがあった。どうやら監視カメラの映像を見られる装置のようだ。私はソファを押して動かし、ドアから誰も入ってこられないようにしてから、そのパネルの前に立った。

 軽く触れると、「パスコードを入力してください」の文字と、0から9までの数字のパネルが出た。けれど推測するのに時間はかからなかった。パネルには不出来なドラマによくあるように、特定の箇所にだけ、厚く手垢がついていたのだ。どのボタンを頻繁に押したのかがわかる。問題は順序だったけれど、それは簡単なことだった。街の噂で、酒屋のおばさんが、「見慣れない男が店で一番の値段のウィスキーを買いに来た」としきりに話していたことがあった。それは確か夏頃だった。

 248の三つの数字を、824の順序で押すと、ロックが解除された。


 監視カメラには、警備員の部屋の様子も映っていた。警備員たちは、皆で酒を呑み、話に花を咲かせていた。

「ったく、クリスマスってのに、うちのご主人様と来たら労いの言葉もなしか」

「今年に始まったことじゃねぇさ」

「まあこんな楽な仕事で、高ぇ給料がもらえるんだから、感謝しねぇとな」

「でもよぉ、ウィリアムさんは、一体何にそ怯えてんだ?」

「バカ、お前知らないのか? ウィリアムさんは、前の妻と別れるとき色々あって、それでこんな引きこもり生活をしてるんだよ」

「色々あってって……なんだよ、暴力夫だったってのか? そうは見えないがねえ。虫一匹殺せなそうな顔をしてる」

「バーカ、そういうのこそ、家の中では豹変するって言うだろうが。あの人、前の奥さんと離婚するときにえらい裁判をやったらしい。ウィリアムさんは有能な弁護士を雇って勝って、多額のお金を手に入れたんだよ。それを元手に株を始めて、さらに金持ちになったんだとよ」

「お前、なんでそんなこと知ってるんだよ」

「ほら、昨日イブだったろ? それとなく酒を勧めてよ、うまいこと聞き出したんだよ。いつもひとりぼっちで引き籠もってるからか、あの人酔っ払って喋り出したら止まらねぇわけよ。元奥さんへの愚痴もすげぇもんよ。あの女、この俺に盾突きやがって、とかどうのこうの」

「へえ。そうだったのか。確かに株で儲けようって思っても、元手がないとどうしようもないもんなぁ」

「そうそう。俺も上さんと裁判して、株始めるかなぁ」

「勝てるのか?」

「さあな」

 私は会話を聞くのをやめると、手元の銃の残弾を確認し、新しく弾を詰め直した。

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