キャロルの願い
「おい! 翔琉! 会えるぞ! 嘘だろ、マジかよww 」
おはようも言わずに、スマホをブンブン振りながら和己くんが教室に入ってくる。
「……ん? 」
それだけで分かるはずがない。
「見てみろよ! ここ! 」
翔琉くんにスマホを握らせる。
「……! 」
『3年の年月を経て、天使が再臨する!!
【
~恋するサンタガール~
2018年12月25日〇〇時より拡大1時間の特別編! 実写版で、主演声優"皇みかさ"が主人公キャロルを演じるとの情報を入手! 明かされる素顔を見逃すな! 』
そんな大々的な宣伝文句と共に、公式サイトや動画サイトのリンクが貼られていた。
今日は11月2日。
──25日〇〇時の時間きっかり。
『【
~恋するサンタガール~』
放送が始まった。
翔琉は部屋のテレビに齧り付いている。
懐かしいアニメ画像のOP。
主題歌は特別編なだけあって、新曲。
しかも、"皇みかさ"が歌っている。
アニメ本編では、どこぞのアーティストを起用していた。
期待を胸に、クッションを抱きしめた。
数分ののち、物語が始まった。
「……え? 」
なぜか、アニメが始まった。
今頃SNSは荒れているかもしれない。
あれだけ大々的な宣伝をして、アニメでしたは。
物語は、最初とおなじ。23日から25日だろう。
キャロルが空から降ってくるシーン。
何度も繰り返し見た、幻想的に翼が舞うシーン。
そして空を翼を羽ばたかせ、縦横無尽に飛び回り、クリぼっちたちの話を聞いてプレゼントを渡していく。
また、厭らしい目的で近づこうとするクリぼっち男が現れた。
困っているキャロルの手を掴み、後ろに庇う少年が現れた。
しかし、角度的に顔は見えない。
──翔琉は嫉妬していた。
少年が正論を叩きつけ、男は捨て台詞を吐いて立ち去る。
子ども向けだから暴力シーンはない。
無言で立ち去る少年に何も言えず、立ち尽くすキャロル。
その表情はまるで……──恋する乙女。
──翔琉はクッションを固く抱きしめた。
その後も幾度となく現れては、キャロルの窮地を助けていた。
次第に2人が見つめ合うシーンが増えていく。
──純真無垢な天使を好きにならないはずがない。
物語は終盤に差し掛かる。
最後の夜、キャロルは天界へと帰る。
その頃には、たった3日だと思えないくらい、2人が惹かれあっていることは見るからに明らかだった。
だが、天使と人間。結ばれるわけがない。
涙を流しながら、想いを告白せずに上昇し、消えていくキャロル。
口にすることは残酷だから。
少年は泣き叫びながら、届かないと分かっていながら、精一杯手を伸ばす。
──開始から50分。アニメだった。
足りないものを埋めたような、大作アニメになっていた。しかし、アニメだった。
悔しそうに少年がフェードアウトしていく。
その瞬間、画面が切り替わった。
全くおなじ街並みの映像。
街ゆく人々は、キャラクターに酷似した人、人、人。声もおなじだ。
しかし、少年だけがいない。
時間の経過を思わせる流れ。
──画面が光り出す。
空が光り、人影が見えた。
ゆっくりと降りてくる。翼を羽ばたかせながら。
──顔が見えた。
キャロルに酷似した美少女が、瞳を閉じながら降りてくる。
──残り3分。今頃、SNSは……。
見覚えのある屋根に着陸した。
その頃には、翼がなくなっていた。
「……ん? 」
──部屋に冷たい風と共に降り出した粉雪が入り込む。
思わず振り向いた。
『「あなたの元に帰ってきました。天使じゃなくても、傍にいていいですか? 」』
──テレビと同時におなじ台詞をいう美少女が目の前にいた。
「キャロル? ……いや、冴木」
「……え? 」
──テレビはさっきの台詞で終わり、皇みかさの歌声で新しいEDが流れている。
「一度だけ……一度だけ聞いた。国語の朗読で。おなじ声だった」
目を丸くして、恥ずかしそうにする。
「……ありがとう。わたし、あなたがキャロルをずっと好きだって言ってくれたから、『あなたにプレゼント』を届けに来ました」
「あ……」
翔琉は教室で言ったことを思い出した。
「冴木が本当に……キャロルだったんだ」
「はい」
2人は見つめあった。
「……皇みかさ、君に逢いたかった」
「はい、わたしも」
更に見つめ合う。
「……わたし、キャロルに嫉妬してました」
「……オレも、少年に嫉妬した。名前も覚えてない」
2人は笑い合う。
「……教室で言ったのは、カマかけたんだ。おまえに反応して欲しくて」
「そう、だったんですね。言いたくても言えませんでした」
「そうなるよな」
暫しの沈黙。
「……翼を無くし、人間になったわたしにもプレゼントをくれませんか? 」
「……うん、オレの傍にいてくれ。美翼」
「はい……──! 」
美翼は翔琉に抱きついた。
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