わたしがキャロルで、キャロルがわたしで

……あれから毎日、休むことなく彼はゲーム機で、『聖天使セイントアンジュキャロル』を見続けていた。


たぶん、わたしがあの時知っただけで、ずっと見ていたのかもしれない。

嬉しい気持ちと共に、わたしの気持ちは変化していった。


キャロルを羨む気持ち。

わたしはキャロルで、キャロルはわたしで。

わたしとキャロルはお互いまっさらだった。回を追うごとに、一緒に成長した。

云わば、運命共同体。

だから……──。





「みかさちゃん、オーディション受けてみない? あなたなら何処でもやっていけるわよ」


おねえ言葉が板に着いた嵩井かさいプロデューサー。

わたしを抜擢し、わたしを推してくれていた。

だけど……──。


「いいえ。わたしは……もういいです。キャロルはわたしなんです。だから、わたしは日常に帰ります」

「……そう? でもね、あなたはまだまだ若いわ。いつでも帰ってらっしゃい」


優しい言葉に甘えそうになる。ぐっと堪えた。


「ありがとうございます……」


精一杯の笑顔で。





「飽きねえよな、おまえ」

「当たり前だよ。キャロルだからな」


いつもそばに居る彼は磯部いそべ大吾だいごくん。幼馴染と言っていた。

しゃべらないわたしにも話しかけてくれる。わたしが返事の代わりにうなづくまで待ってくれる優しい人。

好きになるなら、大吾くんみたいな人がいいと思う。

それもそのはずで、大吾くんは他のクラスの女子にも人気なのだ。


「あ、またキャロル? それってずっと見てるから調べたんだけどさあ。3年前に人気なくて終わったやつだろ? 」


心ない言葉をかけながら、他の男子がやってくる。


「終わってるじゃん」

「おい! 和己かずき!」

最終回おわだ」

「なにそれキモい。妄想じゃん」

「だからやめろって! 」


大吾くんが割って入る。

わたしのハラハラを他所に、翔琉くんは冷静そのもので応えていた。


「人気がないなら、出来るかもしれないだろ」

「……アニメキャラにそれはハマりすぎだわ」


大吾くんが取り繕い、笑いに変えた。

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