七不思議に幸せな結末はあるか
「せ、ん、ぱ、い!!!!」
ばたああん!! 叩き割るんじゃないだろうか勢いで開かれた教室の扉に、クラスメイトたちと揃って肩を跳ねさせる。
来訪者はノエル様で、肩で息をしている彼はとても青褪めていた。
「ノエル様、どうかなさいましたか……?」
お嬢さまとクラウス様の前から一礼して下がり、おろおろと彼の元まで急ぐ。
ただならぬ剣幕で僕の腕を掴んだ彼が、そのままぐいぐいと廊下へ引っ張った。
困惑する僕の後ろを、不思議そうなお顔のお嬢さまとクラウス様、そしてアーリアさんが続く。
廊下へ出て、興味津々とばかりのクラスメイトの視線を扉で遮った。
「ノエル様? どこかお加減でも悪いんですか……?」
ノエル様は小刻みに身体を震わせ、真っ青なお顔色をされている。
調子を窺うと首を横に振られた。
彼が掠れた声をしぼり出す。
「……先輩、……この学園に七不思議があるって、知ってましたか……?」
「何ですか? それ」
はて。首を傾げてお嬢さま方を窺う。
お嬢さまもきょとんと首を傾げられていた。
怪訝そうなお顔をされたクラウス様が、はっと手を叩く。
「あれか! 7つ知ると、死ぬとか呪われるとかいわれてるやつ!」
「学校の怪談みたいなやつですか? 知るだけで殺されるだなんて、世知辛い世の中ですね……」
「わたくし、ななつ道具のような、もっとほわほわしたものを想像していましたわ……物騒ですのね……」
あれかな? 人食いピアノとか、動く肖像画とか、走る人体モデルとかかな?
都市伝説的な、こわい話のことかな。
そういうのあったなー。
小さい頃、本気でこわがってた思い出が……あ、あれ? 僕の小さい頃って、どんなのだっけ……。
思い思いの感想を口にした僕たちに、一層顔色を悪くさせたノエル様が肩を震わせる。
ぎゅっと握られた腕に圧がこもった。
……血流が……止まってしまう……。
「……そのうちのひとつを、知ってしまったんです……」
ノエル様のお声は、今にも死にそうなほど微かだった。
はっと思い出す。
彼はホラーやオカルトの類が、ものすごく苦手だ。
「だ、大丈夫ですよ! まだ6つ残ってます! セーフです!!」
「俺の中では完全アウトなんですよ!! わかりますか、先輩!? 調べ尽くさないと、落ち着いて呼吸もできないんですよ、俺!!」
「調べたらまずいだろ……」
「だからですッ!!!」
クラウス様の呆れ声に、取り乱したノエル様が地団駄を踏む。
僕の腕が締め上げられ、みしっ、不吉な音を立てた。
……ノエル様、本当怪力だな……。
いたい、いたいです、ノエル様……!
ふ、と僕の腕を解放したノエル様が、今度は僕の肩に両手を置いた。
「調べたらダメだってわかってるのに、調べないと気がすまないんです……ッ!!」
「難儀ですね……」
項垂れる頭を、ぽんぽん撫でる。
何だろう、切ない。
こわいもの苦手なのに、率先して正面から挑んでいくノエル様のスタイル、前衛的だな……。
「わかりました。僕の空いている時間でよければ、調査をお手伝いします」
「ベル!?」
「大丈夫です、お嬢さま。ぱぱっと片づけてみせます!」
心配そうなお嬢さまへ、にこりと笑顔を返す。
僕自身、そこまでオカルトに恐怖を感じない。
生きている人間の方が断然こわいし、そもそも対立戦の不可思議空間の方が、遥かに気が触れそうだった。
顔を上げたノエル様の顔色が、わずかによくなる。
僕の頭をぽすんと撫でたクラウス様が、にっとこちらを見下ろした。
「おーし。じゃあ、クラウスさんも一緒に調べてやるぜ」
「わ、わたくしも!」
お嬢さまが両手をぐっと握られる。
気合いを入れられたお顔は、少々青褪めていらっしゃった。
「わたくしもっ、ホラーに慣れなければいけませんもの!」
「お嬢さま、ご無理されませんように……」
お嬢さまは、現在も定期的に王妃殿下の記憶に干渉していらっしゃる。
そこで度々驚かされることが起こるらしく、よくぐったりされておられる。
お労しいです、お嬢さま……!
「ありがとうございます、先輩方……っ」
ノエル様が、ぐっと僕の肩に力を込める。
にこり、陰のある顔で微笑まれた。
「これで、呪われるときも一緒ですね!」
「はははっ、何ごともなければいいなあ?」
言い知れぬプレッシャーに気後れした僕たちの中で、クラウス様だけが爽やかだった。
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