番外編:突然のほのぼの3
*時系列は入学前
坊っちゃんが星座にご興味を持たれた。
夜間に図鑑とコンパスとカンテラを持たれ、お庭へ立たれている。
何度も図鑑と頭上とを見比べては、不思議そうに首を傾げられていた。
「坊っちゃん、如何ですか?」
あたたかな紅茶とブランケットを持って、観測中の坊っちゃんの元まで向かう。
こちらを振り返った彼は、気難しそうな顔ですぐさま視線を背けた。
「さっぱりわからん」
「星座って、独特な形をしてますもんね」
テーブルにお盆を置き、坊っちゃんの肩にブランケットをかける。
ティーポットからお茶を注いで差し出すと、冷え切った指がそれを受け取った。
しばらく温もりを堪能するかのように、カップを両手で包んでいらっしゃる。
依然として、彼の眉間には皺が寄っていた。
「大体、何だ。丸を三つ繋いだからといって、人型にはならんだろう」
「無茶振りを解読するのが、ロマンです」
「僕はそういう風情を求めていない」
テーブルに置かれたカンテラが、図鑑を照らしている。
視線で一瞥した坊っちゃんは不貞腐れた様子で、僕も彼にならって図鑑を覗き込んでみた。
「……僕にもさっぱりわかりません」
「お前、秀才だろう。僕に解説しろ」
「無理です。天文学は専攻外です!」
ここにヨハンさんがいれば……!!
領地にいる研究者、ヨハンさんは博識だ。知識欲が旺盛で、チャレンジ精神に富んでいる。
もちろん天文学もかじっており、すらすらと星の名前を語ることができる。
何だったら、そこからさらに神話や天候、占いにまで話を広げることができる。
……ヨハンさんの知識量って、本当何なんだろう……。
ヨハンさんに憧れを抱いている節のある坊っちゃんは、何かとヨハンさんの軌跡を辿ろうとしていらっしゃる。
そして坊っちゃんは負けず嫌いでもある。
むむっ、不貞腐れたお顔を微笑ましく見詰めた。
「……何だ」
「坊っちゃん。あの星とあの星、見てください!」
頭上を指差し、ぺかぺか光り輝いている星をふたつ、つなぐ仕草をする。
僕と同じように頭上を見上げた坊っちゃんが、沈黙を守った。
「で、こっちのお星さまとそことをつないで……」
「ああ」
「確実に怒っているだろうに、表面的な微笑を保っているときの、ヒルトンさんの眉の角度です」
「マニアックだな!?」
夜空に描いた、養父の威圧的な様子。
自分で行ったにも関わらず、遠い目の心地に陥る。……つらくなってきた。
坊っちゃんが僕の腕を裏手ではたいた。
「やめろ! 薄ら寒くなるだろう!」
「あっ! じゃあ、そことそこと、そこの赤い星をつないで」
今度は最後、くるっとなるように指先で宙に線を描く。
目線で星を辿ろうとしている坊っちゃんは、とても素直なお方だと思う。微笑ましい。
「後姿を拝見した際の、お嬢さまの御髪のくるんとされた毛先」
「偏執狂性を感じる。やめろ」
「そんなにですか!?」
冷めたお声に一蹴され、心に衝撃を食らう。
ううっ、そこまで仰らなくても……! だって僕、いつも後ろに控えているんですもん!
「……じゃあですよ?」
「今度はもっとマシなものにしろ」
「大丈夫です! 次は坊っちゃんもご納得されます!」
さっと視線で星を探して、指先を向ける。
ちびちびと紅茶を傾けていらっしゃる坊っちゃんが、星空を見上げられた。
「そこのお星さまと、その下と、そっちのをつないで、三角形にして」
「……ああ」
「頬杖をつかれた坊っちゃんがうたたねされて、カクッとなったときのかくど……いたいっ! いたいです、坊っちゃん!!」
「お前を信じた僕が馬鹿だった」
脚を踏まれて飛び上がる。上ばかり見ていたから、足許は疎かなんです……!
深々とため息をついた坊っちゃんが、徐に頭上を指差した。
「そこの星から、あの黄色い星まで一直線に繋ぐ」
「は、はいっ」
慌てて坊っちゃんの指先を辿り、仰られる星を探す。
何度も縦線を描く指先が、不意に下ろされた。
「怒られたときの、お前の背筋」
「そんなに直立ですか!?」
僕の反論に鼻で笑った坊っちゃんが、図鑑とコンパスを持って、さっさとお屋敷へ戻られる。
何だろう。自分がやられると、凄まじく恥ずかしいな、これ!
そんな風に見られてるんだ!? つらいな!!
「わああんっ、待ってください、坊っちゃあああん!!」
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