amen~アメーン~


※※※



(ねえ、あなた……)


 誓いを込めて重ねたままの唇で、あたしは問いかけようとする。

 その時、教会の外から大きな虫が耳元を通るような音が聞こえてきた。


 続けて建物が小刻みに振動し、羽音と共にだんだん大きくなる。


(来た……!?)


 窓の外を見つめたまま、あたしの全身はやっぱり凍りついた。

 まるで小さなドラムを連続して叩くような現実味のない音と爆音が近づいてくる。


 思わず声にならない悲鳴を上げてあたしはうずくまった。


『……大丈夫だ、奴らは信心深い。教会だけは決して破壊しない』


 その瞬間、教会の両脇を激しい爆音と振動が通り過ぎていく。


(……っ! …………!!)


 しばらくそのまま身じろぎもしないでじっと時が過ぎるのを待った。


(……行っちゃっ……た?)


 恐る恐る顔を上げると、静まり返った教会の中であたしはたったひとり。


 慌てて辺りを見回しても彼の姿はどこにもない。代わりに祭壇の十字架に、彼の抜け殻のようなタキシードが脱ぎ捨てられている。


(……教会だけは、破壊しない?)


 結婚式の前に帰ってきた。

 愛の言葉も聞かせてくれた。


(それからあたしの未来を遺したくて、ここまで連れてきたの……?)



 こんなにも愛されたあたしは、きっと世界で一番幸せな花嫁。


 それなのに、その幸せが哀しくて淋しくて涙が止まらない。



 泣き虫でごめん。

 弱虫でごめん。


 もしもあたしに明日が来たなら、その時はきっと笑って見せるから。


 だからお願い、今だけ……泣き虫を許して。



「……うわああああぁぁ! うあああぁぁぁん……!!」



 遠ざかっていく敵機の羽音の代わりに、あたしの耳元に最後の彼の声が小さく聞こえた。





 きれいだよ






 ~END~



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Happiness 満月 兎の助 @karinto

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