最後の日
鯉山 Reeya
最後
今年最後の夕日を眺めながら、僕は1年を思い返していた。これといって心を動かすような出来事もなく、心を脅かすような大事件もなく、平凡な1年を過ごしていた気がする。
世間が「平成最後」と騒ぐのをよそ目に、僕は図書館に向かい、大衆を避けるかのごとく日々を過ごした。そのため、思い出せるのは図書館の風景だけだ。
なんの目的もなく図書館を訪れ、適当に二、三冊選んで椅子に座る。そのあとはただひたすら物語の世界に旅をするのだ。「平成最後」を謳歌するよりも楽しいに決まっているではないか。
あっという間に時間は経ち、旅を終えたころにはだいたい夕方である。なんともいえない喪失感を抱きながら、窓に映る夕日を眺めるのがもはや、日課になっていた。
そして、今年最後の日である今日も、「今年最後」と騒ぐ世間をよそ目に、僕は物語の世界へと旅をした。そして、例のごとく、喪失感を抱きながら夕日を眺めていた。
ちょうど夕日が沈みかけたころ、突如バイブレーションが鳴った。僕がメッセージをやり取りするような相手は1人しかいなかった。連絡先だけは登録してあるものの、僕の携帯はもはや、事務連絡をするためだけの機械になっていた。届いたメッセージは案の定、僕が唯一仲良くしていた友達からだった。
「あの子、1月に引っ越すらしいよ」
その一行が僕を暗闇に引きずりこんだ。僕は一体何をしていたのだろうか。突然、「最後」という言葉が僕の心に襲いかかる。「最後」なんていつ来るかわからないのだ。なぜもっと早く気付かなかったのだろう。僕はどうやら「最後」という言葉から逃げ続けていたらしい。
「夕日がきれいだよ」
たった一行のメッセージは、日没と同時にあの子の元へ届けられた。
最後の日 鯉山 Reeya @Reeya_bungaku
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