息づらい生きづらい逝きづらい
綿麻きぬ
いきたい
僕は息をしている。酸素を吸って、二酸化炭素を吐いている。吸って、吐いて、吸って、吐いて。それの繰り返しだ。
目の前には顔が塗り潰された人間がいる。誰が誰だか分からない。誰もが同じように見える。誰もが同じなのだろう。
その目の前の人間は空気中の酸素を使って言葉を吐く。澄んでいない、汚い、澱んでいる言葉を吐く。
今、この瞬間にも言葉が発せられた。酸素が消費されて聞きたくもない言葉が発せられる。
それにより、空気中の酸素濃度が低くなった。呼吸がしづらくなってくる。
僕の呼吸は浅くなる。それでもまだ僕は呼吸を続ける。
そしてまた貴重な酸素を使い、汚れわしい言葉が発せられた。
それに従い酸素濃度も低くなっていく。だんだん酸素が体全体に供給されなくなってきた。
呼吸が辛くなる。息づらい。辛い、辛い、助けて。
それでも僕はこの世界を生きている。でもこんなのがあるからつらい。あぁ、生きづらい。
だったら、意識を手放していいのではないか。そうすると身体から何が離れていく、そんな気分になった。
そのまま何かは空に吸い込まれていきそうだった。
でも、呼び止める声がする。
その子の顔は塗り潰されていなかった。でも、美しい顔が涙で汚れてしまっている。
なんて言ってるかは分からない。けど、何かは身体に戻ろうとしている。
その子の呼び声に応じて僕の何かは僕の身体に戻っていく。
ゆっくり、ゆっくり、僕は僕になっていく。逝きづらい。逝けなかった。
僕が戻ったらその子は僕に声をかけた。
それは確かに酸素を消費していた。だけど、それはきれいだった、澄んでいた言葉だった。
その言葉はまるで世界を浄化するために発されたような言葉だった。その言葉は衝撃的で、だからこそもう覚えていない。
だけど、僕はその言葉によって世界が見えた。
世界は息づらい、生きづらい、逝きづらいけど捨てたもんじゃない。
息づらい生きづらい逝きづらい 綿麻きぬ @wataasa_kinu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます