ラケナリアのせい
~ 一月十二日(土) スズナ ~
ラケナリアの花言葉 決断
いよいよ開催となった『大黒様を探せ! フィールドゲーム大会』。
学校に集まって、朝礼台で開会宣言。
こんな悪ふざけにも真面目に付き合ってくれた先生の前で。
いまさら。
『大・大黒大会』とタイトルを変えないかと面倒なことを言い出すこいつは
ひとまずそれは。
イベントが終わってから考えてください。
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日は大黒様帽子に収納して。
こうすると首が寒いからとマフラーを巻いておりますが。
それで頭が暑いと言われましても。
そして。
ゲームの手順を説明する六本木君にマイクを渡して。
朝礼台を下りた穂咲は。
たくさん歩きまわることを想定して。
アキレス腱を伸ばしながら気合を入れています。
その足には。
この年末年始、履きっぱなしで。
すっかり汚れてしまったスニーカー。
とは言え今日も散々歩くことになりそうですし。
うってつけでしょう。
さて、そんな俺たちのお隣で。
むすっと不機嫌そうにしているのは渡さん。
ほんとに穂咲と好対称と申しますか。
頭がいいのに。
じつに頭の固い方なのです。
渡さんの首にかけられた。
『頑張って作ってるうちに訳が分からなくなりました』と書かれた厚紙。
六本木君の豪快な字が。
事のばかばかしさを見事に表現しています。
「怖いわ、モノ作りって」
「そうですね。危うく俺たち、恐怖体験をさせられるところでした」
みんな、校内か近所で大黒様の代わりになるものを探して。
凝ったゲームを作ったようですが。
「冬山登山の計画書を渡されましても」
しかも。
五日間かけての縦走コースとか。
何をどうしたらそうなるの?
「せっかく素敵な大黒天像をネットで調べて来たのに!」
「そのネットとやらに書いてありました。フィールドゲーム作りの第一歩は、自分で歩いてみることだそうです」
中学の頃、時間内に終わらないゲームを作った渡さん。
さすが、高校生ともなるとレベルが格段にアップしたようです。
「良かったのです、六本木君が止めてくれて」
「そうね。どういう訳か、夢中になって独りよがりになりがちね」
そんな渡さんには。
主催者が滅茶苦茶しないようにと。
お目付け役をお願いしておきました。
これぞ。
適材適所なのです。
――そして参加者一同が。
自分の作った作品以外の全てを楽しんだところで。
ちょうどお昼となりましたので。
主催者兼、給食係の穂咲が。
みんなにお昼を配って歩きます。
俺の家から勝手に炊飯器を持ち出して。
二台体制で、四時起きでこさえたというおにぎりと。
お肉やさんに目を丸くされたと言う大量の鶏肉で作った唐揚げ。
そんなお昼ご飯中。
みんなの話題は、四通り。
どこへ投票しようかという件と。
制作にあたっての苦労話と。
そして唐揚げの美味しさと。
おにぎりのいびつさについて。
……さて。
「あとはみんなによる投票だけですね」
「どれも面白かったの」
「君、パズルも暗号もまるで解こうとして無かったですけど。ほんとに面白かったのですか?」
「ちゃんと雰囲気は楽しんでたの」
まあ、難しいから分からないとか言い出さない程度には。
空気が読める君ですしね。
俺には容赦ないですけど。
「では、穂咲はどれに投票するのです?」
「むう……。こんちゃん君のかな……。一番手間暇かかってた気がするの」
気がするってなんです。
でも、そうですね。
俺も、一番凝っていたと感じたのです。
大黒天の由来を調べて。
それをネタに、謎解き風にした発想は岸谷君と被ったのですが。
本人の解説を聞かないと誰も解けなかった岸谷君の謎解きと比べて。
地図の中に書かれた五人の大黒様が。
自分の由来をセリフで話す内容から、ちゃんと推理できる工夫をした近藤君のゲームの方が。
完成度が高いと思うのです。
「謎解き、ちょっと難しめなのにみんな解読出来ましたし」
「きっと子供用に作るときはレベルも合わせてると思うの」
「でしょうね。さすが、言うだけのことはあるのです」
「ほんとなの。こんちゃん君、凄いと思うの」
校内の倉庫から持ち出した長机に。
屋外用のコンロで沸かしたお茶を配りながら。
穂咲と二人で、近藤君のゲームをほめちぎっていると。
ご本人が、照れくさそうに頬をかきながら。
お茶を貰いに来ました。
「そんなに褒められると嬉しいよ。例え一位になれなくても、今の言葉で十分だ」
そう言いながら。
近藤君が穂咲の前に立つと。
穂咲がお茶を、紙コップに注いであげるのです。
「全部面白かったけど、こんちゃん君のは良くできてたの。パパの遺志を継ぐ者、ここに爆誕なの」
「あはは。そうだね、あのゲームがきっかけで趣味になったわけだし」
そして近藤君は。
フィールドゲームの話をしてくれたのです。
達成したことの喜びを知ってもらうこと。
たくさんの発想ができるよう工夫すること。
出題者の意図を読めるよううまくヒントを出すこと。
突拍子もない発想をすること。
近藤君は、いつものクールな仮面はどこへやら。
楽しそうに語ってくれました。
「なるほど、面白いものなのです」
でも、おじさんの作るものは。
そういうものとはちょっと違いますけど。
「……そう言えば。秋山とゲーム作りで対決することがきっかけだったよな」
「そうでしたっけ? でも俺、主催者側ですし。作ってませんよ」
「ほんとは自信ないんだろ?」
いえ、そんなことは無いのですけど。
だって。
さんざん穂咲と二人で。
おじさんの作ってくれた遊びをやってきましたからね。
……そう。
あれはゲームじゃなくて。
遊びなのです。
「ええとですね、何と言いますか。勝敗は投票で決めるのですけど、穂咲が喜ぶのはこういうものではなくてですね。俺が作ると、多分穂咲はこれがいいって言い出しそうなので」
そんなことになったら本末転倒。
俺は主催者側として気を使って。
思ったままのことを言ってみたら。
近藤君が、随分と怒り始めてしまいました。
「もともとは、その優劣を決めようという話だったはずだ。口先だけで参加しないということは、僕の不戦勝で良いね?」
「それは構わないのですが、穂咲が好きなのは今回遊んだような物とはちょっと違うのですよ」
俺はそれを知っていたので。
参加を取りやめたのですが。
眉根を寄せた近藤君の後ろに並んでいた、お茶を貰いに来た皆さんも。
どういうことだと話に混ざり始めたので。
「……ええとですね。おじさん、いつもなにをしたら俺たちが喜んでくれるかって、そればっかり考えてる人だったので。例えばですね……」
俺はちょっとだけ考えて。
渡さんの首に下がったボードを借りて、その裏に。
□きな
□んぼの
□
灬
「身近にあるもので、こういうのをすぐに作っちゃう人だったのですよ」
「……そうなの。せっかく人がお絵かきしてるのに、こんな感じの書いて邪魔してきたの。懐かしいの」
「そう。こうなっちゃうので」
「で? これ、なんなの?」
えー?
みんな、さっき最後に通った田んぼで汚れた靴を見ながらなるほどねって言ってるじゃないですか。
そこまでのつもりなんかなかったですけど、近藤君も悔しそうにしていますし。
「多分、分かっていないのは君だけだと思うのです」
「むむ。なんか、ほんとにパパが作ってくれたなぞなぞっぽいの。ちょっと一生懸命考えたいからあっちに行っててほしいの」
「だめです、後になさい。……それより、そろそろ投票始めちゃいましょうか。アシスタントの渡さん、仕切って下さい」
そう声をかけたのに。
この学年トップクラスの才女は。
美貌をゆがませてなぞなぞとにらめっこ。
なので、頭の固いコンビは放っておいて。
俺は柔らかい頭を駆使してみました。
「六本木君。後は全部お願い」
……こうして無事に。
釈然としない表情の近藤君へ、六本木君が優勝賞品を手渡すまで。
滞りなく大会を終了させることが出来ました。
そして、みなさんが三々五々、家路へつく中。
近藤君が穂咲を呼び止めて、なにやら話していたようですが。
真剣そうな表情の近藤君を置いて。
穂咲は、先を歩いていた俺たちの元に駆けてきたのです。
「何のお話をしていたのです?」
「ううん、なんでもないの」
そう言った穂咲の手には。
俺の作った、てきとうななぞなぞが。
ずいぶんと、大事そうに握られているのでした。
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