モクレンのせい


~ 一月八日(火) ナズナ ~


  モクレンの花言葉 自然への愛



 昨日の変な思い付きを。

 校内放送で流したご迷惑娘、藍川あいかわ穂咲ほさき


 代わりに職員室で散々説教を食らったので。

 参加が遅くなったのですが。


「……意外な方が結構いらっしゃる」


 場所を提供して下さったクイズ研の部室に。

 所狭しと居並ぶゲームクリエーターの面々。


 中でも、一番意外だったのが……。


「秋山。お勤めお疲れ様」

「それはともかく、渡さんがゲームを作るのですか?」


 昨日、近藤君が。

 フィールドゲームを作るには。

 数学的センスが必要と言っていましたが。


 それ以前に。

 石頭な人には無理なのではないでしょうか?


「ゲームなんか作ったこと無いでしょうに」

「そんなこと無いわよ? レクリエーション用に、オリエンテーリングを作ったことあるから」


 ふふんと胸を張る渡さん。

 その後ろで、六本木君が手でばってんを作っていたので思い出しました。


 中学の頃でしたっけ。

 小学生に、お楽しみ会的なものをやってあげて。


 スタートからゴールまで走り続けないと時間内に終わらないやつ。

 誰も時間内に帰って来なくて大事になりましたっけ。


 実行委員に俺は入っていませんでしたが。

 その武勇伝は伝え聞きました。



 ……六本木君。

 渡さんのことは任せました。



 さて、他の皆様は。

 クイズ研。

 一年生の瑞希ちゃん葉月ちゃんコンビ。

 近藤君。

 他にもちらほらと、見知った顔が並びます。


 そんな皆さんに。

 穂咲は部屋の隅っこで焼いたみたらし団子を配っているのですが。


「ギャラ、安すぎです」

「ひと串に四つの大盤振る舞いなの」


 いやいや、三つが四つになろうとも。

 例え十個刺さっていても割に合いませんよ。


「……六本木君も美味しそうに食べていらっしゃいますけど。参加するのです?」

「いや。俺はみんなが作るゲームの邪魔になる存在を排除するという崇高な目的のためにここにいる」


 なるほど。

 それは重要。


 ゲームは土曜日に行って。

 どれが一番面白かったか、お互いに審査することになっているのですが。

 一人で土曜日をまる一日使われてはたまらないのです。


「……あれ? それに対して渡さんはお団子食べないのですか?」


 なにやら渋い顔をされていますけど。

 甘い物苦手ってことは無いでしょうに。


「団子は苦手なの」

「そうでしたっけ? ……いえ、そんなこと無いでしょう。お月見の時、動けなくなるまで食べていたでしょうに」

「違うんだよ道久。こいつ、串が怖くて二つ目までしか食えねえんだ」

「言わないでいいわよ! もう! お団子の三つ目以降は、一つ目と二つ目が落ちないためのストッパーなの!」


 そんな乱暴な。

 確かに苦手というお気持ちは分かるのですが。


 でも。


「ええと、それはもったいないと言いますか……」

「なによ。秋山だって、ストッパー二つ残して止まってるじゃない」

「はい。俺もこいつを口に突っ込むの怖くて」

「でしょ? なか~ま!」

「いいえ。頭の固い渡さんとは別チームなのです」


 そう言いながら。

 俺は串を両手で持ってばきりと割って。

 ストッパー呼ばわりされていたお団子を堪能すると。


「それじゃ、左手がべとべとになっちゃうじゃない」

「串を口に突っ込む恐怖よりましなのです」


 二本の串をゴミ箱へ放り込みました。


「……道久がゲーム作ればいいんじゃねえのか? 頭も柔らかいし」

「参加はしますけど、でも、本当に楽しいゲームは数学的なセンスが必要らしいのですよ」

「誰がそんなことを?」

「近藤君なのです」


 そう言いながら、部屋の奥の方にいた近藤君へ目を向けると。

 穂咲を挟んで、瑞希ちゃんと楽しそうにお話していました。


「……そう言えば、穂咲がいじめられなくなったの、近藤が頑張ってくれたおかげなのよね」


 そんな渡さんのつぶやきに。

 俺と六本木君は目を丸くさせました。


「初耳だぜ。そうなのか?」

「隼人は気づいてなかったの? 穂咲をいじめてたグループ、説得して回ってたじゃない」

「全然知らねえ」


 そうだったのですか。

 俺は穂咲のそばにいてあげることしかできませんでしたが。

 なんて勇敢で、優しい方なのでしょう。


 今までの偏見が。

 ウソのように消えて無くなると。


 近藤君が、噂通りの方なんだと容易に信じることができるようになりました。


「……近藤君。君の作るゲーム、楽しみなのです」


 俺が心からの言葉を投げかけると。

 ちらりとこちらを見たきり口をつぐんでしまったのですが。


 いけない。

 せっかく楽しそうにお話していたのに。

 話の腰を折ってしまいましたかね。


 慌てて彼の元に近付いたのですが。

 フォローを入れる間もなく。

 穂咲が大きな声をあげたのです。


「だめーっ!」

「うわ! 俺、なんかしました!?」


 びっくりしながら穂咲を見たら。

 こいつはクイズ研の方を向いて膨れていたのです。


 俺に怒ったのではないようですが。


「だったら、何に怒っているのです?」

「遊びのために、命を粗末にするとかいけないの!」

「……え?」


 穂咲の言葉に。

 クイズ研の面々の中から、岸谷君が現れて。

 これは軽率な発言をしたとご丁寧に謝罪しています。


 よくよくお話を伺えば。

 ゲームの計画を立てている間に。

 裏手の森を切って迷路を作ると言い出したようだったのですが。


 穂咲。

 君はよく気付きましたね。



 ……面倒極まりないお願いなのに。

 校内放送で呼びかけただけで。

 こんなにもたくさんの人を集めてしまう。


 そんな君の魅力は。

 今、部室を満たす笑顔が証明しているのです。



 七福神巡りの時にも気付いていましたが。

 君の靴は、普段履きもローファーも、上履きだって真っ黒け。


 でも、靴が汚れている人ほど。

 心は綺麗と教えてくれたのは。


 君のおじさんでしたね。




 …………待って。




 その校内放送の罪を。

 全部俺に擦り付けたのは。

 誰だったかな……。


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