第一話「いつも通り」

私、蒼波紬がどのようにして神農大和という女性と知り合ったのかというところからこの物語を始めるとしましょう。まずは軽く自己紹介から、蒼波紬と書いてあおなみつむぎ、女性、紅雷女学院に通う現在高校二年生だ。趣味、好きなこと等は特になし。強いて言うなら甘いものには目がない。まあこんなところだろうか、あまり個人情報になるようなことは例え読者の皆さんであろうが教えない。私のポリシーだ。

 ここらで彼女、神農大和との馴れ初め話とでもいきましょうか。私の詳細なんて話している途中でもわかることですからね。私が彼女と出会ったのは今から一年前、つまりは高校一年生の時でした。

 季節は春、ちょうどGWに入る前、私はいつも通りなんてことない普通の女子高生としての一日を過ごしていました。

「ねーねー!天子はゴールデンウイーク何するの?」

「私は部活で合宿。ほんっと、休みなんてないよー」

「えーいいじゃん、合宿楽しそう」

「由佳は彼氏とどっか行くの?」

「うん!遊園地行くんだー」

「いいなぁー、彼氏持ちは。私も欲しいよー」

 休み時間の教室内は明後日から始まる連休の話題で持ち切り。教室内に限らず廊下や中庭でも楽しそうに女子高生らしく、女子高らしく話に花を咲かせています。

 そんな中私はというと、

「んー、むにゃ」

 机に突っ伏しだらしなく涎を垂らしながら熟睡していました。お昼ご飯を食べた後の私は基本眠気に身を任せて夢の中です。それはもう昼休み中ずっと。しかも自分から起きることはほとんどありません。なので、誰かに起こされない限り授業中でも寝ています。

「おーい、紬?あぁなんだ、寝てるのか」

 私を訪ねて一人の生徒が教室に入ってきました。当然私は寝ていて気付きません。

「つーむーぎーさーん、起きないといたずらしちゃうよ~」

 背後から嫌な気配を感じた。そこで起きてはいたが目を覚ましたら何か負けな気がして狸寝入りを続けた。

「ほほう、あくまで寝たふりとはいい度胸だ、そんな奴は~、こうしてやる!」

「あはははは!わかったわかった!起きるから!ギブギブ!あははははは!」

 案の定、私の脇腹をくすぐられ無理やり起こされた。クラス中からは見慣れた光景とばかりにこちらを見てくすくすと笑っている。

「まったく、私が来てやったのに寝ているとは何事だー、可愛い奴めー」

 笑いながら私のほっぺたをつまんだり、伸ばしたり、揉んだりして遊んでいるこの女子生徒は武蔵原茜、私の幼馴染です。男勝りで運動が大好きで正義感の強い優しい女の子。

「あかねひゃん、しゃべりじゅらいからやめへ」

「えー、いいじゃんもうちょっとだけ、な?」

「いーやああー!」

 私の抵抗むなしく茜は実に楽しそうに私の頬を弄り倒しました。そして五分後、満足そうに私の頬から手を離すと向かいの席に座りました。

「もぉ、それで何の用なの?」

「な、やっぱ紬も部活入ってくれない?先生も紬のこと評価してるしそれに」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私高校では部活やらないって決めてるからさ、ごめんね」

 もう何度目だろうか。先月の体験入部の時に茜とバスケットボール部に行ったときに一度プレーを見せたらしつこく勧誘してくるようになった。茜には最初から部活に入る気はないと伝えていたので先生や部活の上級生から毎日のように勧誘された。何で部活体験に行ったかって?強制だったからですよ。仕方なくですよ仕方なく。ここ最近では毎日のように茜から勧誘されるようになった。

「あー、やっぱダメか―」

 茜はたははっ、と寂しそうに笑った。

「なあ、何でやめちまったんだよー。県の代表にも選ばれるくらい上手かったのに」

「んー、気まぐれ?」

「嘘だな、紬、幼馴染なんだからそんなウソ私には通用しないぜ」

「厳しいなー茜は。なんでもいいじゃん、秘密だよーひ、み、つ」

 幼馴染にも言えない秘密、そう、私には誰にも言えない秘密があった。

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