武芸の登場

第2話 室町時代以前

 剣術、日本の場合は時代によって呼び名はいろいろとありまして、古くは太刀撃、兵法(平法)など、さらに太刀、剣法、撃刺の法、刀法、剣道、撃剣、などがあります。が一般的に使われていたのは案外後の時代で、主に江戸時代に入ってからになります。


 これらの言葉がさす技術は、おおざっぱに言えば剣(日本の場合は片刃の刀を使いますが)で戦う技術と言って良いと思います。そう考えると刀や剣が存在した時点で剣術は存在したと言えると思います。


 日本刀が登場するのは平安時代ですので、当然その時代から日本刀を使う技法が存在し、人から人へと伝わっていたと思われます。おそらく職人や生活の様々な技術と同じように特に体系化されず、父から子へ、一族や仲間の中で体系化されることもなく教えられていたのではないと思われます。相撲などを思い浮かべると良いかもしれません。この時代は流派というものが成立していないので、文献的な史料も少なくなく、推測するしかないと思います。剣道史の書籍でもそれほど言及はされていない時代です。当然ながら私もこの時代については書きようがありませんので、言及しません。


 すこし剣術から脱線する話題となりますが、武芸の中で最も早く体系化されたと思われるのが弓と馬です。


 これは弓も馬も長期間訓練しなければ役に立たない、訓練された者は非常に高い戦闘能力を持つ事が出来た事、またそれゆえ弓と馬に堪能である事が武士(武士と言えば弓馬の家)とされたからだ思われます。当然ながら弓馬は単なる技術だけでなく、礼法・故実・信仰などと一体化して、武士の教養となっていました。現在まで続く小笠原流弓馬術などが典型例だと思われます。小笠原流は鎌倉時代後期から室町時代初期には成立したという話もありますが、弓馬自体は平安時代後期から既に発展していたようです。(このあたりの話は剣術と直接関係ないですので、あまり言及しません。そもそもよく知らない部分なので…。ただ、武士の発生と密接に関わっている話なので、新書等でわかりやすいものが最近いくつか出ています。高橋昌明「武士の日本史」(岩波新書,2018)、桃崎有一郎「武士の起源を解きあかす――混血する古代、創発される中世」(筑摩新書,2018)などがオススメです。とくに武士の日本史は剣術史についても言及しています。)


 弓や馬に対して、刀(太刀)や薙刀は特に訓練をしなくても殺傷能力が高いためか、弓馬ほど重視されていなかったようです。


 では、日本刀が登場した以降の時代、さらに師匠から弟子に伝授される、芸能・流派としての剣術が登場するのはいつ頃か?一般的には南北朝から室町時代初頭の頃からだと考えられていますので、次回はその時代について話したい思います。

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