第3話 意思をトバせ (cod)


朝日が眩しい。いつの間にか寝てしまったようだ。


「釈放の時間だ。」


いつの間に入ったのか、黒装束の男が目の前に姿を現した。叫ぶ間もなく襟を掴まれ、揺らぐ光を見ていた。


陽の光が眩しい。ここはどこかの村のようだ。


「無銭飲食か、今度はちゃんと働けよ。」


黒装束の男は一瞬でその場を去った。なんだ?今のは。ともかく牢屋からは抜け出せた。しかしあいつ、言葉が通じそうだったのに勿体無い事をしたな。看板が立っている。


『nlmt#metéabre#q"A"nvk_jn_w(忘却の村 メイト ランクA)』


くそ!字が読めねー!仲間を見つけたと思ったらあのカメ野郎に裏切られた。次は騙されないようにしないとな。言葉の通じるやつをみつけて情報を絞り出す!


「ワンッワンワンワン! 」

「ボフッボフボフ!」


静寂を切り裂き耳障りな鳴き声が轟いた。助けを求めてブーツのヒモに噛み付いてきた。この醜い生き物はエストドッグ。どうやらこいつも勇者に負けてこっちの世界に飛ばされた挙句野良犬に絡まれたらしい。


「可哀想な奴だ。俺様が助けてやろう。」


魔法は使えない。なら武器をとって戦うしかない。拳くらいの石を一つと近くにあった樽に手を掛けた。樽が盾で石がハンマーだ。一撃で頭を砕いてやる。


「ガルルルルル」


そこに現れた犬の首は二又に分かれていて一撃では仕留められそうになかった。


「まぢかよ!」


俺様は逃げた。標的がナタスに変わった時点であの醜い犬は無事だろう。生きる事を考えろ。

今までこんなにも考えたことがあっただろうか。他事を考えながら逃げていたためあっという間に追い詰められた。双頭の犬はヨダレを垂らしながら此方へゆっくりと近づいてきた。


「今すぐに退けば命だけは見逃してやる」


双頭の犬は勢いよく飛びかかってきた。俺様は血は見たくないので魔法に頼らず一撃で殺す方法を考えた。


「この石を繋がった貴様の食道までぶち込んで殺してやる!」


死刑執行! 《エグゼキューション》


ナタスは何も見てはいなかった。魔法を使わないで犬を殺すことを何度も頭の中でイメージした。拳は犬の顔面を殴り弾き飛ばしただけのように見えたが、無意識のうちに拳に握った石を双頭の犬の食道に転移させていた。双頭の犬を殺した達成感と疲労に視界がぼやけていく…


「これまでか。」


最後に見たのは集まってくる人々、屋根の上から見下ろす黒装束の男。


「gna#tm_wmjt/xg&qqp(転移魔法か。大した奴だ)」


なんだ、ずっと見てやがったのか。俺様は意識を失った。







再び目を覚ますと側にはボフボフとテーブルの上に書き置きが…


"nbjnnk_kam#jk(ggrks_(ギルドに来い)"


なんと書いてあるのかはわからない。何やら騒がしいな。どうやらここは酒場のようだ。


「_nxxg#wnpwns(お前が起きるのを待ってたんだ!)」


「jk_nvgm&pmwvj(kg(v# (ケルベロスぶん殴った勇者だ!)」


よく分からないが皆上機嫌に騒いでいる。初対面のくせに馴れ馴れしく話しかけてくるので空気を読んでジョッキを掲げた。


「貴様らの気前に応えて乾杯!!」


言葉が通じなくても意思は通じ合えるものだな。こんなにもうまく事が運んだのは転生して以来だ。ほっと一息つくと何処からともなく声がした。



「こっちへ来い」


その声の主はカウンターの一番端に座っていた。その老人は舌がなく息を漏らすのが精一杯のはずなのに、確かに俺様に向かって話しかけてきた。


「ケルベロスを退治してくれてありがとう。酒は奢りだ。」


どうやら話のわかるじいさんだ。しかし何故この舌で会話が出来るのか疑問だった。


「貴様俺様の言葉がわかるのか?」


「わしは見ての通り舌がなくてのう。歳のせいで耳も悪くなってきた。お主も言葉が通じなくても困っておるのだろう?」


そのじいさんはボトルの酒を流し込んで続けた。


「舌を失くしたのは8年前。細かいことはいい。あれから必死で言いたいことを念じ続けていたら一方的な意思伝達が出来るようになった。」


「まぢかよ」


いや待て、一方的な意思の伝達でなぜ会話が成立してるんだ?


「それじゃ、なんで俺様の言葉が通じている?」


「確かにな。最近になってお前さんのような言葉を使う者が現れて哀れに思って声をかけて回っておったら、お前のように話せる者と出会うようになった。どうやら意思伝達は魔法の一種で、魔法を通じて会話出来るようじゃ」


こいつ、魔法をしっている!


「貴様、俺様の言葉だけじゃなく魔法もわかるのか?」


「お主も魔法にやたら詳しいじゃろ!高い魔法防御をもつあのケルベロスを素手で殴り倒したのはどこのどいつじゃ!」


は!?そうだったのか。あの時俺様は魔法を打ち消した。さすが俺様。


「ふむ、しかし此方に転生してから俺様は魔法を使えなくなった。貴様なら何か知っているのではないか?」


「なんじゃわしは魔法使いではないぞ!意思伝達だけ出来るがな。お主も意外と意思伝達できておるようだから基本だけ教えてやろう。」


ほう、意思伝達か。たしかに会話はできた方がいいもんな。


「コツはじゃな…もっと相手に関心をもって問いかけろ。まずそこの女に自己紹介してみろ。」


え、なんでこんなクソ陰気な女なんだよ。俺様はナタス!っていえばいいのか。


「おいそこの女、俺様は次期魔王のナタスだ。来い。」


「n@nvnvagm_(あんた何者よ?)」


おいおいなんて言ったんだ!?この流れはやばいぞ!そうだ、じいちゃんに向かって意思を!


「あいつなんて言った?」


「よろこんで♡じゃと!頑張って意識を感じ取れ!本気をを出すんじゃナタス!」


まぢかよ!ボフボフのほうが楽だったなあ。一語一句聞き逃すな。次は読み取る。


「貴様名乗れ」


「ドーラ」


おおおおお!話せたしすげーぞこれ!でもここからどうする?あ、あのさっきテーブルに書き置きあったよな。


「俺様今意思伝達使って話してるんだけど、転生者だから字が読めない訳。」


テーブルにあった書き置きを持ってきた。


"nbjnnk_kam#jk(ggrks_"


「ギルドへ来い。って…あなた本気で魔王になるつもりなの?」


「当たり前だ。ギルドはどこだ?」


「バカね。この村はランクAだからギルドは勿論のこと魔法使い一人居ないわよ。」


ん?そいつは可笑しいな、俺様みたいに生まれつきの天才魔法優良児はどうなるんだ?


「ランクがAだから魔法使いは居ない…か。 ならどうやって人は魔法を身に付ける?魔法が使えるかは生まれつきの資質で決まるものだろう?」


「そんなことは聞いたこともないし、魔法使いすらこの目で見たことないわ。ギルドならSランクにならないと行けないからまずはSランクの看守を殺すことね。」


「なぜこの村にはギルドがない?治安はどうなってる?」


「魔法の流用を禁じて怪我人を減らすためにランクA以下の区域には魔法に関する書物、人物を置かない。この世界のランク制度を利用したギルドの取り決めよ。幸運を祈るわ。」


ナタスは思う存分に会話を楽しんだ後じいさんの名前を尋ねる。


「そう言えば貴様、名前は…」


「"ジェーク"と呼べ。」


その名前に不思議な魅力を感じた。一旦話題を戻すか。


「ケルベロスとかいったな、あの双頭の犬。ただの野良犬ではないのか?」


ジェークは舌のない口を開けて戯けている。

「まさか!あの犬は魔獣を好んで食って成長する人工的に作られた魔獣じゃ。力を蓄えると首が増え、首二つでランクA、首3つでランクS程度に成長する。番犬に飼っとる魔法使いもおるそうじゃ。」


「ふんっ!大した犬だ。ところでジェーク、酒の味わかるのか?」

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