第2話 カメ・チャン光臨 (小悪魔以上)
「ここは牢か?」
目覚めると粗雑な石の壁と鈍く輝くいくつかの金属の柱に囲まれた部屋にいた。
俺様の城にも似たような部屋があり、俺様が利用することはなかったがこのような部屋に人間を閉じ込めて甚振る趣味の手下がいた。まさか俺様が閉じ込められる立場になるとは考えもしなかったが。
「お目覚めですか?」
牢の外側から大きな緑色の甲羅を背負った生物が姿を現す。
「貴様は確か……」
名前は覚えていないが手下にこのような姿の者がいたはずだ。
「覚えていただけているようで光栄です魔王様」
月明かりに照らされるその顔は豚のような醜い鼻にひどく吊りあがった目、そして全身は緑、人型をなしてはいるが醜い姿をしている。
「どうやら魔王様も勇者の転生の剣にやられたようですね」
「ああ、そうらしい」
よかった。魔法が使えない今、この牢から出る方法を探す必要があったが、手下がいるのならばその必要もない、この者の力を借りればよい。
「とりあえず回りに誰もいませんし、この世界のことを少しお話しましょうか?」
とりあえず牢から出たい思いもあったが、それも悪くないと思い俺様は首を縦に振る。
「それでは改めてよろしくおねがいします魔王様、アッシの名前はカメ・チャンです」
それからしばらくこの世界についての話をした。要約すると、この世界も俺様の世界と同様に強さが全てであること、その強さによって住む場所が分けられていること、この場所は最上位の強さを持つ生物達が暮らす場所であることなどだった。
「なるほどな」
俺様は不適な笑みを浮かべる。
「実に好都合である! 一つの世界を手中におさめるなど俺様の偉大さに比べてちっぽけな野望であった。俺様はこの世界でも支配者となろう、そして転生の剣とやらに頼らずとも世界を渡る魔法を生み出し、全ての世界の支配者となろう!」
俺様は両手を上げて天を仰ぐ、屋根の隙間から漏れる月明かりが俺様を仰々しく照らしたに違いない。カメは俺様にひれ伏すだろう。
そう思い視線をカメに向ける、しかし俺様の想像とは打って変わりカメは俺様にも引けを取らない不敵な笑みを浮かべていた。
「ところで魔王様はその魔法とやらはこの世界で使えるんですか?」
「いや、実はうまく発動しないのだ、次はその辺りについて頼む」
するとカメは下品な声を出しながら笑い出す。
「でしょうね~、この世界では魔王様の世界……いや、アッシらの世界とは全く違った魔法が発達していて、アッシらの魔法は使えないんですよ」
なるほどそれで魔法が発動しないのか、だがこれも好都合。この世界の魔法を極めることで俺様は全ての魔法を極めし新の支配者に近づけるというものよ。
「話はわかった、ではさっそくこの世界の魔法の使い方を教えるのだ」
「それがアッシはこの世界でも魔法は苦手なんですよ、アッシの武器はこの背中の甲羅による最強クラスの防御力なんで、それでこの地域で暮らせているってわけです」
カメは視線を下に落とした。
「それでね、魔王様……いや……」
カメは蔑視の表情を浮かべて俺様を見つめた。
「ナタスよ! 魔法を主体とするお前はこの世界ではあまりにも弱い」
そう言ってカメは俺様に向かって唾を吐く。
「貴様ぁ! この偉大なる魔の王であるこの俺様に何をした!」
カメに向かって怒りの篭った腕を伸ばす、しかし金属の牢に阻まれて俺様の手はむなしく空を切った。俺様の怒りに動じることなくカメは振り返り、ゆっくりと歩き出す。
カメは月明かりの下までいき、両手を上げて天を仰ぐ。
「それではさようなら、この世界はこのカメ・チャンが支配させていただきます」
そう言い残してカメは部屋を後にした。
「くそがっ! 魔法さえあれば貴様などっ、貴様など……」
叫びはただただ反響し、俺様は暗く冷たいこの部屋に一人残された。
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