モテない男の奮闘記

@RenkonNegi

第1話

「そろそろ彼女を作ろう」


 高校二年生へと進学し出会いの春、僕、鈴木すずき 潤じゅんはふとそう思った。


「そうか、まぁ勝手に作りゃあいいよ」


 しかし、僕の言葉はクラスで唯一の不良である友人の拓真たくまに軽くあしらわれる。


「冷たいじゃないか、そんなこと言わずになんかアドバイスしてくれないか?君モテるだろ」


「はぁ?んなことねぇよ、そんな無謀な話してねぇでさっさと飯食おうぜ」


 そう言いながら拓真は弁当を取り出した。


「拓真…弁当にハートマークで〝たくまくん〟って書いてあるけど、君のお母さんはとっても家族思いなんだね」


「いや違ぇよ?なんか一年の女が食ってくれってよこしたんだよ、いやぁラッキーだったわ〜」


 クイッ


 ガタンッ


 僕の合図でクラスの男子達立ち上がり、拓真へと襲い掛かった。





「それでその無謀な話なんだけど、なんかアドバイスは?」


「…なんでお前の合図であいつら動くんだよ、クラス替えしたばっかだぞ?」


「モテない者はみな友だ」


「…はぁ……あれだ、今時なんてスマホで調べりゃすぐ出るだろ、別に俺モテてるつもりねぇし大したこと…って待て待て!?なにまた合図しようとしてんだ!めんどくせぇんだよあいつら!」


 自覚なくモテてるとか一番腹立つ。告られてるのは数回目撃したし、拓真にラブレターを渡してくれと女子から何回頼まれ何回勘違いしたことか…全て破ってやったが。


「畜生!絶対彼女作ってやる!」


 僕は強く決意し弁当を勢いよくかきこんだ。


「てめぇなに人の弁当食ってんだ!!」





 数日後


 あれから色々と調べたが、どれも顔が良くないと成功しないものばかりだ。

 自慢ではないが僕はイケメンではない。母親にイケメンか聞いた時泣きながら〝ごめんね〟と言われたくらいだ。


 ともかく顔がダメなら性格しかない。しかし、優しさ溢れるこの僕だったら顔のマイナスなんて小さな問題だろう。


 と、言うわけで今は授業中なんだが…何かできないかと考えていた。


 隣の席には佐々木さんがいる。物静かな眼鏡女子だが、とても可愛らしく狙っている男子も少なくない。僕としても是非ともお近づきになって…もう手でも繋いでみたい!


 しかし行動が制限される授業中にやれることなんて…


・教科書を見せてあげる

 佐々木さん教科書忘れてないし、というか僕の教科書が見当たらない。


・発表し良いところを見せつける

 成績トップクラスな相手に学力とか…無茶にもほどがある。


・眼鏡を拭いてあげる

 …ワンチャンいけるか?いやなんだそれ。


 普段使うことの無い脳をフル回転させていると、ふと、離れた席で消しゴムを拾ってあげている光景が目に映った。


 そして僕は…これだ、と。


 なんて事のない小さな優しさだが、何事も積み重ねが大事である。佐々木さんの消しゴムを何千回も拾ってあげたら惚れてくれるに違いない!


 それから僕は佐々木さんの消しゴムに全神経を集中させた。もちろん授業なぞ聞いちゃいない。普段は聞いてるのかと言われたら自信を持ってのノーだが。


 しかし、一、二、三時限目と消しゴムを落とす事なく過ぎて行く。


「…あ、あの、鈴木君だっけ?…私に何か用かな?」


 消しゴムを見過ぎだせいか、佐々木さんが困った顔をしながら声を掛けてきた。


 これは会話をするチャンスではないだろうか。これを逃したら次のチャンスがいつ来るか分かったものじゃない。

 さりげなく気があることを伝えよう。


「用があるわけじゃないんだ、君が気にな…君の消しゴムがとても気になるんだ」





 今僕の机には佐々木さんの消しゴムがある。何故かあの後消しゴムをくれたのだ。ドン引きしていたようにも見えたが気のせいだろう。


 しかし消しゴムを貰ってもなんの意味もない……可愛い消しゴムしてるなぁ。


 消しゴムを眺めながらニヤついていると、足元に何かが転がってくるのが見えた……消しゴムである。もう一度言う、消しゴムである。


 すかさず消しゴムを拾う。よく見る白くシンプルな消しゴムだがそんなことはどうだっていい。


 僕は顔を上げ、周りの人に消しゴムを落としたかを聞こうとしてーーーーー


「おぉ拾ってくれたのか、悪りぃ…」


「だらァアアアアアッ!!!」


 ーーーーー拓真の消しゴムを外へ向かって投げつけた。







 その後もいろいろと試みたがどれも上手くいかず、放課後へ。僕と拓真は二人、帰路についていた。


「僕思うんだけどさ、消しゴム捨てたくらいでラーメン奢れっておかしくない?」


 なんてケチ臭い男なのだろうか。こんな多少顔が良いだけの男がモテて、優しく気前の良い僕がモテないなんて…。


「…ついさっきなんだけどさ、一年の女が弁当美味かったか聞いてきたんだよ。俺今日食った覚えねぇんだけど、なんか鈴木先輩に渡すよう頼んだって言ってたんだよな」


「いや僕は知らないよ?それに鈴木なんていっぱいいるじゃないか、疑うなんて心外だよ。あっ、弁当箱は洗って返すから心配いらないよ」


「…最近クラスの男らからやたらと敵視されてるのは?」


「いやいや僕が知るわけないじゃないか、どうせ誰かがモテてるのを妬んで悪評でも広めてるんでしょ。嫌だったら僕に女子紹介したらいいよ」


「あと俺の…」


「そんなことよりお腹空いてるんでしょ、たまにはラーメン奢ってあげるよ。さぁ!早く行こう!」


 まだ何か言いたげな拓真だったが、僕は会話を無理やり終わらせラーメン屋へ向かった。


 しかし、道中イベントが発生した。


「は、離してください…!」


 何処からか女の声が聞こえ、僕は瞬時に思った…これはチャンスだと。


 急いで声の聞こえた方へ向かうと、案の定建物裏では男二人が女に絡んでいた。


「いいじゃんかよぉ、俺達とどっか行こうぜ?」


「待てぇええええいっ!!!」


 突然大声を出して現れたことにより、静まり返る中三人の視線が僕に集まった。


 これだよ、こういうのを待ってたんだよ!この不良イベント、華麗に助けたら間違いなく惚れるでしょ!


「おいクズ野郎ども、その汚ない手を今すぐどけるんだ」


「あ?なんだテメェ」


「君達みたいなゲスに名乗る必要はない!…が、そうだな、あえて言うならーーーーー鈴木 潤だ」


「名乗ってんじゃねぇか」


 しまったつい…。


「俺達はこの女に用があんだよ、邪魔すんならテメェぶっ飛ばすぞ!」


「フッ…僕とやるって言うのかい?こう見えて僕は空手と柔道を習いたいと思っている男だよ?」


「ただの素人じゃねぇか!!」


 素人だなんて失礼な、テレビでよく見てるからそれなりにできると思うよ。


 そこからあーだこーだ言い合っていると、女性が隙を見て、男の手から逃れ僕へ向かって走ってきた。


 僕は受け止めようと手を広げた。しかしーーーーーー


「拓真先輩!助けに来てくれたんですかっ!」


「ん?あぁお前いつだったか弁当くれた奴か…名前なんだっけか?」


 ーーーーー僕の横を通り過ぎ、いつのまにか後ろに来ていた拓真の元へ行った。


「……。」


「「…ドンマイ」」


 なぜ僕は不良二人に慰められてるのだろうか。


「ひっどーい愛菜ですよ愛菜、ちゃんと覚えてて下さいよ〜」


「悪りぃ悪りぃ愛菜だったな。それより後は俺に任せて帰ってろ」


「えっ…でも」


「その代わり、今度また弁当作ってきてくれよ」


「拓真先輩…」


 拓真の笑顔に愛菜は頬を赤らめ、拓真に手を振りながら去って行った。


「さて、と…じゃあいっちょやるか潤!」


「…えっ…やるの?」


 拓真は袖をまくり、今から喧嘩しますぜオーラ全開だが、なんかもう状況が違う。


「はぁ?なんだよいきなり」


「いやぁ…なんかさ、違うって言うか…もう戦う相手が違うんじゃないかなってさ…なんだよいきなりってこっちの台詞だしさ…」


「はぁ??」


「えっと、俺らもヤる気とかもうないっつうか…そこの鈴木って奴に同情するわ」


「…ありがとう君達」


 ガシッ


 僕と不良二人は何故か握手をした。


「よく分かんねぇけど、まあ喧嘩しねぇなら別にいいわ、さっさラーメン…」


「拓真せんぱーい!」


 潤が不良達と談笑していると、帰ったはずの愛菜が何故か戻ってきた。


「どうしたんだよ、忘れ物か?」


「あっいえ、そういえば連絡先交換してないなぁと思いまして…教えてもらってもいいですか?」


「「「…イラっ」」」


 上目遣いでのお願い。そこいらの男だったらイチコロだが、


「あぁいいぞ別に、減るもんじゃねぇしな」


 拓真相手には無意味のようで淡々と交換し、愛菜は帰って行った。


「ふぅ、なんか疲れたなぁ。なぁ潤、さっさとラーメン食いに行こうぜ」


「黙れクズ野郎が!!二人は両サイドから攻めてくれ!僕は正面から行く!」


「「おうよ!!」」


「なっ!?どうしたんだよ突然!」


「うっさいわボケがっ!さっさとその命と連絡先置いていけやゴラァアアアアッ!!!」


 三人一斉に拓真へ向かって飛び掛かった。








「鈴木先輩、えっと…お弁当を」


「うん、いつもありがとう」


 一年の女子からお弁当を貰い僕は満面の笑みでお礼を言った。


 モテ期到来、毎日のように僕はお弁当を貰っている。いよいよ僕の時代がやってきたのだ。


 まだ朝だが、せっかく女子が作ってきてくれたのだ。温かいうちに食べてしまおう。


「いただきます」


「じゃねぇだろバカ」


 振り返るとそこには馬鹿たくまがいた。


「珍しいね拓真、普段は遅刻ギリギリなのに。それにいきなりバカって酷いよ」


「バカだよバカ、最近空の弁当箱しかこねぇと思ったらやっぱお前が食ってたのかよ!」


「何言ってるのさ、これは僕の弁当だよ。拓真のじゃないよ」


「…白米のところにたくまって書いてねぇか?」


「たくまなんて世の中には大勢いるんだよ?だからこれだけでは君の弁当だっていう可能性は低いよ!」


「じゃあ潤のお前は論外だろ…はぁ」


 拓真はため息を吐くと、僕を哀れむような目で見てきた。


「なあ潤、モテたいんじゃなかったっけか?彼女作りたいんだろ?それなのにお前…それ嬉しいか?」


「……。」


「そんなの卑怯者じゃねぇか。もう一度頑張ってみようぜ?」


「拓真…」


「俺も協力してやるからさ。だから弁当返して……」


「僕思ったんだよ…前までのやり方じゃ限界かなって。だから考え方を変えてみようと思ってさ」


「…考え方?」


 そう、このまま僕がいくら努力しても多分成功しない。だったら、


「他の人を陥れたら僕が上になるんじゃないかな…って」


「…は?」


「悔しいけど僕なんかじゃ拓真の足元にも及ばないよ。だからさ、一番初めは拓真にしようと思ってたんだ」


 僕が笑顔でそう言うと、拓真は顔を引きつらせながら後退った。


「い、いや潤、それは間違ってる気が…」


「卑怯者なんて呼ばれないよう正々堂々陥れようと思うよ。協力してくれるって言ったしね」


 僕は弁当を食べ切り、おもむろに立ち上がった。


「取り敢えずはーーーーー」


 クイッ ガタンッ


 合図とともに立ち上がる同士。


 背を向け逃げる拓真。





「ーーーーくたばれやァアアアアアッ!!!」




僕の戦いはこれからだ!!

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