第14話 部長は俺だ
「できたぁぁぁーー」
奏がそう叫んだ途端、歓声が沸き起こった。後輩達は奏の元に駆け寄り、そのパソコンのディスプレイを覗く。
新歓の帰り道、栞先輩から貰ったファンファーレと同じレタリングでFanfare!!と題がついていた。鈴の担当したトップ記事の見出しは"週三以下=廃部?"となっていた。隼が担当したセカンドの一番最後には"神江ノベル"の第一話が掲載されていた。奏は小声で後輩達に言った。
「毎回編集後記に目を通しな?まぁ、内容は見てからのお楽しみだけどね」
「・・・・・・諸君!新聞が完成したからと言って、まだ俺達の仕事は終わっていないぞ!」
そう言う嵯峨の隣ではコピー機がガタガタと音を言わせながら印刷を始めていた。やけにうるさいのはおんぼろだからだろう。買い換えないのかな、と隼がつぶやいた。嵯峨は既に私物同然に扱っているホワイトボードに"明日七時集合"と書いた。途端に奏が口をはさんだ。
「ずっと七時半集合だったじゃん!何ちゃっかり三十分早めているの?!」
「まあそう怒るな滝川」
「そうだよ、奏。誰もお前の寝癖なんか見てないから」
「は?!」
「何となく察しはつくと思うが、朝早く登校するのは新聞を配布するためだ。この前帰りに配っていたのは一年生がまだ部活動が無かったからだ。しかし!今度からは違う!そして部長は俺だ!布良先輩方は朝の支度云々忙しかったのかもしれないな、しかし部長は俺だ!わかったか滝川!!」
奏は正論を正面からぶつけられてしょぼくれた。7時に学校に到着・・・・・・ということは六時半に家を出るということか。寝坊しそうでなかなか厳しそうに感じた。
「六時半出か・・・・・・」
「神江、俺は六時出だよ」
「ええっ隼くんそんなに遠いの?!」
「鈴ちゃん・・・・・・私は五時半出なのよぅ・・・・・・慰めて」
奏が机に突っ伏したまま言った。鈴も隼も顔を見合わせて苦笑いする他無かった。早起きはちょっと嫌だが、新聞配布の為だと思うと何だか少しうきうきとした。とうとうあの時の栞先輩がやっていたあの位置に自分が立つことができるのだ。よしっ、と心の中で気合いを入れた。
そして翌日朝七時。全校生徒約九百人分の新聞を部室から校門まで運んだ。今日は天気が良いからと言いながら嵯峨は小さな台車に乗せて運んできた。実際に配布を行うのは一年生の担当のようだったが、流石に三人では手が足りない。そのため、愛想だけは満点の市来が配布組に加わった。結局朝早く来た意味が無かった、と奏は文句をこぼしていたが顔は怒っていなかった。
校門付近にある小さな花壇の前に部員達は並び、腕には30枚ほどの新聞を持った。何やかんやしているうちに、時刻は七時半を過ぎて朝練の生徒が小走りで門を通った。一年生は初めは配布する事に遠慮がちになってしまったが、その不安は市来の明るい声でかき消された。
「ファンファーレ最新号でーす!」
それを見て一年生も負けじと明るい声を出し、登校する生徒達に新聞を差し出した。差し出した新聞は皆ほとんど貰ってくれて鈴は何だか嬉しくなった。新聞部に入って良かった、とこの時改めて感じた。
のろのろと一人歩いてきた茜が鈴の元へやってきて、新聞を受け取った。
「おはよ。朝早くからご苦労さま」
そう言って茜は手を振り校舎へと向かっていった。とっても清々しい朝。平日の朝がこんなに清々しく感じたのはいつぶりだろうか。
新入生が活動して初めて発行されたファンファーレは、学校へ大きな影響力を密かに与えることとなった。それは、新聞部と生徒会の決着がはっきりしたことを意味していたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます