第13話 嵯峨という男

「俺達が入部した時の代が、黄金期だったんだ。要するに栞先輩達の一つ上の先輩が凄かった。連文祭に出した新聞が全国で三位になって、優良賞を頂いたんだ。だけど……栞先輩達が中心になってから、新聞作成はより丁寧さを重視するようになって、内容に面白みが無くなってさ。生徒も読んでくれなくなって、全国にすら行けなくなった」

 「それで今ってことだ」


  良い感じに嵯峨が最後を締めくくり、市来の話は終わった。香が感心しきったかのように言った。


 「全国三位って……凄くないですか……?」

 「そう、凄い、凄いんだよ!だから俺達も全国行きたくない?全国夢じゃないよ!てかさ、全国にしない?今年の目標!嵯峨っち、どうかな?」

 「どうかなも何も、滝川と立石がこの場に居ないんじゃ……でもまあ、そうだな、全国、全国行くか」


  今年の新聞部の目標。全国大会に出場。部員は二名居ないが、ものの数秒で決まった目標であった。

  夕食を食べ終わるとすぐに解散となり、鈴は部員達と別れた。おかげで鈴が家に到着したのは九時を少し過ぎた時刻だった。

  金曜日。今日は普通の活動日だった為に、部室には奏も隼も来ていた。奏がいるとお菓子を貰えるというラッキーな事がある。ある意味小さな楽しみだ。


 「んー……」


  既に嵯峨の添削が終了した隼の原稿を見て、奏は一人唸っていた。セカンドの見出しを考えているのだ。奏は隼に添削済み原稿を渡し、パソコンで打ち直してくれ、と頼んだ。


 「ニッパーの危機、南グラが消える?!うーん……」

 「ニッパーって何ですか?」


  鈴が小声で尋ねると、奏は普通の声で答えてきた。特に難しい内容では無かった。


 「虹葉のこと。虹葉って虹の葉っぱ、とも読めるでしょ。にじっぱがニッパーに変わって、高校のことをニッパーって愛称で呼ぶ人が少なからず居るの」

 「へえ……初耳です。奏先輩、トップって始めどうやって書き出せば良いんですか?」

 「トップ記事ってとっても長いでしょ。だからね、トップの中にも小見出しを二、三個作ると良いよ。まあ今回の記事だったら、生徒への調査結果を記事に書かなくちゃいけないでしょ。希望してる部活に入れているかということ、それから生徒会の対策に対して賛成か反対かということ。この二つのことを必ず書かなくちゃいけない」


  ただ書くだけでは長々と長くなってしまうだけである。だから小見出しをつける。小見出しは簡潔なもので、一つ目は「希望部活」、二つ目は「生徒会に対して」。そんな簡単な見出しで大丈夫だと言う。そして奏は鈴のメモ用紙を指さして言った。


 「それから、鈴ちゃんがメモしたことあるでしょ。調査結果から考察できたこととか。そういうのを最後に詰めていくの。パソコンでこの字数以内で記事の打ち込みをして、終わったら印刷して嵯峨さんに渡して」


  鈴は黙々と作業に打ち込んだ。文章を書くことは嫌いではない。頭の中に文章や構成は何となく浮かんでいた。香や先輩達に比べればタイピングの速さは劣るが、それでも一生懸命目標字数を目指して文章を組み立てた。

  自分の記事がファンファーレに載ることで、生徒会が志を変えるかもしれない。皆が自分の希望している部活に入部できるかもしれない。部活事態も、無駄な時間が無くなりより充実した部活になるかもしれない。

  新聞部ってもしかしたら、皆が思っているよりもずっと学校の中で重要な役割を持っているのか、と鈴は思い始めた。今に見ていろ、あの仏頂面の会長め。それから約一時間程経った時、鈴は印刷ボタンをクリックした。


 「嵯峨先輩、トップの原稿見てください」


  鈴は嵯峨に手渡すと、すぐに嵯峨は原稿に目を通した。鈴は読み終わるまで嵯峨の前で立って待っていた。嵯峨は立ち上がると、神江、と名前を呼んだ。


 「はい……」

 「……記事は物語じゃないんだぞっ!!!私はだとかそういうお前の意見は誰も聞いてない!!」


  怒鳴られた挙句少し乱暴に原稿を返され、鈴はしゅんとなった。あらら、と市来が心配そうな声を出した。落ち込みながら椅子に戻り、原稿を見た途端はっとした。色んなところが細かく添削されていた。下線が引いてあったり、バツとあったり、抜けていると書かれていたり。何故かそれを見た時に、元気が出た。

  鈴の原稿が完成したのは月曜日だった。

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