第11話 活動日数が全てじゃない

バスケ、書道、バレー、フットサル……何だか学校にある部活ばかりのような気もする。中にはチラホラと天体観測、山岳、囲碁など変わったものや学校に無い部活が回答されていた。―文芸部、と答えている人も居た。いやこの字は私か?パラパラとめくっている中に"ヤリサー"と書いている紙を見つけた。


 「市来先輩これってアリですか」

 「サークルだから却下。たまに居るから馬鹿な回答する奴。二年かな?それとも嵯峨先輩?」

 「は?」


  嵯峨は半分キレ気味で市来に反応した。市来はにやりと笑うと、作業を続けながら嵯峨をからかうように言った。


 「いや、ヤリサーって書いてる人が居たんだってさ。嵯峨先輩かなって。嵯峨先輩の嵯峨って性とも書くし」

 「それを書いたのはお前だ市来」

 「はあ何それ。今度こそ本気で一発食らわせるよ嵯峨っち」


  鈴と香は二人の先輩の会話を聞いてくすくすと笑っていた。それぞれ作業に戻り始めた為、鈴も頼まれたプリントに目を通す。

  校内には無い部活名を鈴はメモしていったが、ざっと目を通してみても元から学校にある部活を回答している人が多く感じる。何故この部活に入部しなかったんだろう?特に目についたのはバスケ、フットサル、の二つだ。この部活を答えている人は現在何部に所属しているのだろう。流石にそこまで回答してもらうのはまずい。

  バスケとフットサルに共通することは何?団体競技であること?確かこの学校のフットサル部は女子のみであった。フットサルと回答している人の中に男子は居なかった。バスケは男女別に部活はあるが、アンケート回答にはバスケとしか書いていない。特に誰に尋ねた訳でもないが、鈴は思わず口に出した。


 「バスケとフットサルって書いている人が多いんですけど何故ですかね」

 「え、バスケもフットサルも学校にはあるよね?」


  香が不思議そうに聞き返した。何かの原稿を読んでいた嵯峨がある、とうなずいた。そうして嵯峨は黙って部室から出ていってしまった。何も言わずに鈴達はそれを見届けると、市来があっと気がついたように言った。


 「本当だ。俺が見てる方もバスケとフットサル意外と多いよ」

 「フットサルは分かりませんけど、バスケって結構主流な部活ですよね。中学の時にバスケ部だった人とか……でも何で入部していないんだろう」


  香と市来は首を傾げてうなるばかりだった。鈴はふと先ほどの生徒会の取材でのことを思い出した。週三以下は廃部という決まり。あれは何だか、活動日数のみにしか着目していなかったような気がする。


 「何としても週三以上にしないと廃部してしまうから……無駄に活動日数を増やしたとか……」

 「ビンゴかもしれん、神江」

 「うわっ」


  いつの間にか戻ってきていた嵯峨を見て、市来が驚いたような声を上げた。嵯峨の手には何枚かの書類があった。そこにはフットサル部、バスケットボール部、と書いてあった。


 「部活の活動日数と内容が書いてあるものを職員室から調達してきた」

 「それ有りなんですか?!」

 「多田ティーに頼めば大抵のものはコピーしてくれる」


  恐るべし新聞部部員。嵯峨が持ってきた書類を三人は覗いた。

  男女バスケットボール部は曜日が交互になっており、どちらも週六活動。休息日は男女共に平日。うち三日は体育館連、残りの三日は外練だ。


 「三日も外練すんのかよ!しかも土曜に外練かよ!キツイなぁ。毎日が大会前って感じだな」


 と、市来。厳しくて当たり前なのかもしれないが、キツすぎるような気もする。いざ入部してもキツくなって練習が続かなくなったら終わりだ。ここの高校では退部という選択は無く、転部しかない。


 「二日間オフって言うのは駄目なのかね」

 「駄目というか、まず週六の活動をしていれば潰される可能性は無いからな。うちは生徒会が結構強い……と言うよりも生徒会担当の教師が強いんだな」

 「へえ……」

 「まあフットサルも同じような境遇にあるな。週五活動。オフは金曜日。土日がグラウンド練で、後の三日間は筋トレって感じだ。しかし筋トレも部員が多くグラウンドの邪魔になってしまうらしく、最近は校舎内で階段ダッシュをしたりする日々が続いているとか」

 「活動の半分以上が筋トレかぁ。休みがちになりそうだから入部しないって言うのもあるんだろうなぁ。俺は筋トレは一日、多くて二日で良いような気もするんだよねえ。うちの学校そこまで強豪って訳でもないし」

 「要するに一つのことにとらわれては行けないということだ、皆の衆」


  突然全く違う声がして、四人ははっとしてドアの方へ目をやる。そこにはいつの間にか入ってきていた多田がドアにもたれながら立っていた。もし誰か今入ってきたら、大惨事になるだろう。


 「多田ティー、嵯峨っち並みに存在感が……いや、存在感はあるはずなんだけど」

 「市来今のはどういう意味だ。……話を戻そう、部員ども。もしもそのとらわれている観点から解放されたらきっと……沢山の生徒が部活選びを考え直す可能性がある。やはりファンファーレには何か訴えるべきものを載せるのが妥当である」

 「訴えるべきものって……そういう感じの作ってたっけ、去年」


  市来が嵯峨に向き直るが、嵯峨は原稿を読んでいて彼の方を向かずに質問に答える。こういうところには適当なのが嵯峨である。


 「良いや。布良先輩達はどちらかと言うと丁寧さを重視していたような気がする。そういう……訴えたりする内容はあまり書いていなかった……が、これは良いチャンスかもな。今年度からのファンファーレは一味違うということを見せつけられるぞ」

 「よろしいぞ、嵯峨。それでこそ虹葉高校の新聞部だ」


  多田はいつかのようにはっはっはっと笑いながらバタンと部室のドアを閉めて出ていってしまった。謎に現れ謎に去っていく。それが多田なのかもしれない。鈴はふいにあることに気づき市来に尋ねた。

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