第6話 第七十五号Fanfare!!編集会議


  虹葉高校は基本月、水、金の週三日の活動となっている(生徒会要覧ではそう書かれている)。実際のところは取材があったり担当の終わりが見えなくなると土日も活動をしているらしい。そして部活終了時刻は七時となることが多い。


 「ここが、鈴ちゃんの持ち場……というか机ね」




  本当にただの机である。鈴の右隣は隼、左隣は奏の席だった。奏の席にはパソコン、それから沢山の書類、文房具、レタリングの切れ端など色々な物が乱雑に置かれていた。椅子は皆キャスター付きの椅子だった。

  どの机にも引き出しがあると思ったら、それはただの百均などで売っていそうなプラスチック製の大きめな引き出しだった。奏の引き出しの横にはまた小さな箱がある。箱からはみ出しているのはカントリーマアムの小袋と分かった。きっとこれはお菓子の箱だ。


 「鈴ちゃん、これは私からの入部祝い」


  奏は百均の袋を鈴に差し出した。袋の中を除くと、ピンク色のゴム製のような物が入っていた。



 「これは何ですか?」

 「それはね、持っとくといつか気づくからねえ。その物のありがたさを」

 「はあ……」


  嵯峨が聞いてくれ、と声をかけた。皆―と言っても五人だが―は嵯峨の方に目をやった。


 「新入生の役割をこちらで分担させてもらった。まず、前田だが……前田は中学時代の経験がある、アポ取りや取材もできるだろうということで……読者コーナー担当を頼む。読者担当は市来も担当しているから、まあ市来頼むぞ」

 「りょーす」

 「で、神江と立石は……記者、ゲッターだな。ゲッターっていうのはスクープをゲットするからゲッターって、うちの部では呼んでいる。まぁ俺も一応編集者という名前ではあるが、ゲッターの仕事にも関わる。神江と立石はトップ、セカンドの内容を詰める担当ってことだ。滝川も見出しやリード文を担当しているから、滝川や俺に聞いてくれ。よろしくな」


  嵯峨は一人で喋ると、部屋の隅にあるホワイトボードをガラガラと引いてきた。そして黒いマーカーで大きく書く。


 "Fanfare!!第七十五号編集会議"


 「まあ皆もう知ってるとは思うが、新聞部の作成している名前、それはファンファーレだ」

 「何でファンファーレなんですか?」


  香が尋ねると、市来が腕まくりをしながら答えた。


 「知らぬぞ」

 「え?」

 「ファンファーレ……この三和音のみを使ったトランペットの音色!!これこそがまさに青春の始まりの汽笛であるとともに―」

 「って言うのはただの嵯峨っちの推測というか見解なだけで」


  市来と奏はかなりマイペースであることがよく分かってきた。奏は既にさっきの箱からお菓子を取り出し始めていた。カントリーマアムを二つ取り出し、鈴の机の上に置いた。鈴はお礼を言ってお菓子を貰うと、もう一つを隼の机の上に置いた。


 「仁も食べる?」

 「プリーズプリーズ」

 「こらお前達」


  やれやれ、と嵯峨がため息をついた。いつもこんな感じなのかもしれない。変に怒るだけ無駄だと思っているのだろう。

  編集会議とはどんなものなのかいまいち掴めない。鈴はふと疑問に思ったことがあって挙手をした。


 「あの、文芸部って廃部になったんですか?」

 「ああ、去年潰れた。活動しているのかしていないのかよく分からなかったからな。生徒会が週三日以下の活動しかない部活は潰そうとしているらしい」

 「じゃあ新聞部って結構ピンチなんですか?」


 あー、と奏が思い出したように声を上げた。手はお菓子の袋を開けているが。


 「確かに。嵯峨さん、新聞部結構ギリじゃないの」

 「い、いやしかしその……週四日にしてしまったら、部員が来ないと思って」

 「まあ確かに四と三って結構捉え方違うわな。一週間の半分か、そうでないか」


  すると奏が鈴に向かってまた聞いた。その質問をされて鈴はかなり焦ることになるのだが。


 「鈴ちゃんって文芸部希望とか言ってたけど、ここで本当に大丈夫だった?」

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