第5話  面白いなあ、神江

 三日後。今日はスクープを持っていく日だ。朝からうきうきとしていて、休み時間に何度も香のクラスを訪ねようと迷った。ねえ、スクープ何にした?って聞きたくて仕方が無かった。お昼、教室で弁当を食べている時もずっと部活のことを考えていた。合格すれば入部届けが貰えて私は晴れて入部―


 「鈴、何かそわそわしてるね、ずっと」

 「うん!今日でね、新聞部に入部できるかどうか決まるの」

 「新聞部にも入部テストなんかあるの?!まあ、ダンス部も夏のダンスリーグに向けてオーディションするらしいけどね」

 「茜はもう入部届け出したの?」


  お弁当を食べながら、茜はうなずいた。活動は来週かららしいけどね、と茜は言った。


 「鈴、部活本格的に始まる前に一回くらい遊びに行こうよ。ダンス部は意外とそんなでも無いらしいけど、新聞部結構やばいって噂だよ。活動日数」

 「活動日数やばい?ふーん・・・・・・そう、そうなのかぁ。先輩達そんなに辛そうには見えなかったけどな。何かめっちゃ仲良さそうだったし、お菓子食べてる人も居たし」

 「そういや新聞部希望、うちのクラスにも居たんだね。立石君、だったっけ」

 「そうそう。なかなか取っ付きにくいけどね、個人的には」


  立石隼は何人かの男子と一緒に昼食を取っていた。偏見ではあるが、どう見ても新聞部というイメージは無い。サッカーとかバスケとかその辺に居そう。そんな男子が新聞部にガチ希望だなんて、何だかギャップでもある。人は見た目で判断してはいけない……。

  午後の授業が終了し、やっと放課後活動の時間となった。クラスメイトはめいめい部活の支度を始め、それぞれが活動場所へと移動していく。鈴も茜に声をかけた後、思わず隼の姿を探した。隼は既に荷物も無く、教室から居なかった。

  鈴は深呼吸をして二階への階段を降りた。部室に向かうと、既に隼と香が居た。香は鈴に気がつくと手を振ってきた。


 「鈴ちゃん、やっほ。先輩達、まだ皆集まっていないみたいで」

 「ああ、そうなん―」


  いきなり部室のドアが開いて鈴は今度こそ声に出して驚いた。ドアを開けたのは市来だった。市来はドアを広く開けて中へ入るよう言った。

  正面の机に向かって嵯峨が座っていた。三人が部室に入ったのを見届けると、嵯峨は口を開いた。


 「スクープは見つけたか」

 「はい」


  三人は自然と口を揃えて返事をする。まるで何かの兵隊のようだ。真っ先に隼が嵯峨の前へ行き、スクープを報告した。自己紹介と同じ順番らしい。


 「虹葉高校は来年度で110周年を迎えるそうです。110周年記念式典が開催されるとか」

 「よく調べたな。その内容はトップ記事に相応しいくらい重要だ」

 「ありがとうございます」


  そして隼は―嵯峨から直々に入部届けの用紙を貰った。次は香の番だ。


 「今年度の生徒数が倍に増えてしまった為、南グラウンドが取り壊され新校舎が建設されることが決定されました」

 「いやぁ本当によく調べたなぁ」


  香も入部届けの用紙を貰った。隼も香も虹葉高校についてのスクープを持ってきていた。それでも良いのかもしれないが、嵯峨達が求めているのはそういうのではないんじゃないだろうか。

  鈴は自己紹介の時とは打って変わって、堂々と嵯峨の前に立ち、厚い原稿の束を置いた。


 「私の書いていた長編ミステリー小説が完成しました。これがスクープです」


 おお、と横で声を上げる市来の声がした。相槌を打ちながら、嵯峨はにやりと笑って言った。


 「なかなか面白いなぁ、神江。是非これからも頑張ってくれ」


  そう言って鈴に嵯峨は入部届けの用紙を渡した。鈴はそれを受け取った。入部試験に合格した。皆が合格した。

  今日から始まるのだ。鈴の本当の高校生活が。神江鈴は、虹葉高校新聞部に入部した。

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