中編
なかなかのイケメンに、一瞬ドキッとする。
エグザイルのメンバーにでもいそうな精悍な顔立ちをしてて、多分年は私より二つ三つくらい上くさい。いや下か?ともかく同世代っぽい。
しかし、悲しきかな。
イケメンに対してはまず警戒する癖がついてしまっている私。
「いえ。そんな人いません」
胡散臭いものでも見るかのような目線で体をひく。
そんな私の部愛想な態度を特に気にするでなく、その人は自然体のまま私に並び立った。
そして面白いものでも見るかのように、ゆったりとした動作でいかにもな恋愛成就系の絵馬を手にしていく。
「私、ジャマですね」
思えば、記述台の前に仁王立ちをしていたのは私だ。きっとジャマだったんだろうと気づき、恥じるように小さな社を出ると、なんとそのエグザイルさんもついてきた。
驚く私が何か言うより前にその人が苦笑する。
「私も、特に思う人はいないので」
そして間髪入れず、それでいてイヤと言わせぬ雰囲気で、
「せっかくだし一緒に回りませんか?」
と、言ってきた。
◇◇◇
聞けばその人は、この三峯神社が氏神さまだそうな。
え?この神社そうなの?氏子さん持ってるの?と思わず心の中で首をかしげる。
無知の私でも、ここがそんじょそこらの神社と一線を画して別格なのは感じていたからだ。
だけど自分のことを話すのはその程度であとはまぁズケズケと私を質問責めにしてくる。
お参りを急ぐ理由も誘いを断る理由もさしてなかったから、言われるままに社内のカフェに入ったまではいいが。
尋ねられるままに答えてしまう自分に気づき、ふと「あれ?」と思う。
「ふぅん。それで君はここにきたというのに、何を願えばいいのかわからない、と」
不敵な笑みを浮かべてその男がいう。
「だって……神社ってお願いごとをする場所じゃなく誓いを立てる場所でしょ。良縁をえるために自分が何を神様に誓えばいいのかなんて、本当に思いつかないんだもん」
私のどこから、「…だもん」なんて可愛いセリフが出てしまうのだろう。自分でぶるっとしてしまう。
なのになぜか、この人の前ではそんなセリフが出てしまう。
そのエグザイルもどきの男の人は、黒のコートを脱いでも黒系一色だった。
スタイリッシュといえばそうだが、ありきたりといえばそこまでだ。
その黒服の男が、最初と変わらない優しげなようでいてどこか挑戦的な笑みのまま、窓の外をみやる。
「少し歩こうか?」
◇◇◇
「人気の神社って、いつきても人が多いから嫌」
すれ違ったばかりのカップルを横目にして、私が思わずぼやいてしまう。
だってそうでしょ。
世間はクリスマスだというのに、どうしてわざわざ日本の一神社に人が集まるというのだ。
縁結びで有名でもないのに、ここにカップルが来る必要があるか??
……とりあえず、いったん自分のことはまずは棚にあげておく。
カフェを出て、黒服の男性に案内されるまま、整備された山道をぶらりと歩く。
ことさら言葉を交わしていないというのに、沈黙の時間すらもなぜか不思議と心地いい。
そんな静寂を味わっているときに、ふいにアホな会話をするカップルとかにぎやかな団体さまとすれ違うと、いっきに厳かな気持ちが萎えてしまうのだ。
そして思わずつぶやく私のぼやきを、その人はクスリと笑う。
どうしてそんなに穏やかに笑っていられるのか不思議で、思わず凝視してしまう。
「人は、やはり面白いからね」
私の視線を感じて、その人がいう。
この人、変な人だな〜と思いはじめてきた頃、その男性がつと足をとめた。
みやると、新しい金色の鳥居がデーンと立っていた。
備え付けられた立て札をみると、先ほど私がスルーした「御仮屋」だった。
いつのまに、ここまで戻ってきていたんだろう。
「ここには、お参りしたかい?」
私が首をふるふるとする。
頷いた男が、さっさと急な階段を上っていった。それに続こうとした私の鼻先に男の手が伸びる。ふいにみせた紳士的な対応に思わず赤面する。
こういうときにすっと手をのせられたら、きっと可愛い部類の女子になるんだろうな〜と思う。だけど私はそうしたことができない。素直に甘えられないのだ。
「大丈夫です」
差し伸べられた手に甘えられない可愛げのない自分を恨みつつ、私はそっと階段を上っていった。
◇◇◇
(……ですから、私。とにかく頑張ります。だからなにとぞ、なにとぞ、素敵な男性との縁を結んでください!!!)
小さな祠の前で手をあわせ、真剣に祈る私。
ようやく満足できるほどに神様に語り終えたところで、ふと顔を上げると、そのエグザイルもどきの男性が愉快げにじっと私を見ていた。
「なんですか?」
と恥ずかしさのあまりぶっきらぼうになる。
「かわいいから」
……はぁ?
よくもまぁそんなセリフを臆面もなく言えること!!!
やっぱこの人、変だ!!!
ドン引きしたまま体を引いたところで、階下からにぎやかな声が聞こえてくる。
こんな小さなところにまでガヤがくるのかとさらに顔をしかめると、男性が「こっち」といきなり私の手を引いた。
知らなかったが、御仮屋の奥から獣道のような細い道が山の中へと続いていた。
「知られていないけど、ここから奥宮まで続いているんだ」
「へ、へぇ〜」
そう言われても、奥宮がよくわからない。
さすが氏子。そんなマイナーな道までよくご存知で。
しかし、人の気配を感じない清浄な山道を前にがぜん好奇心がそそられる。
私は、その得体のしれない男性に誘われるまま、細道へと足を踏み出した。
(続く)
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